俺のジョブがおかしい件 〜可愛いうちの子達と最強になります〜

笹葉の朔夜

序章 

プロローグ 始まり

 剣、杖、斧、盾、爪。

 そしてそれらを自分の手足のように自由自在に扱う者達。

 彼らは剣士であったり斧使いであったり――自分に与えられた力を行使する者達はそう呼ばれる。この世界はそんな職業を持つ者達によって守られている。


 木、金属、鉱石、薬、植物。

 そしてそれらを自由自在に変幻させる者達。

 彼らは大工であったり薬師であったり――自分に与えられた知恵を行使する者達はそう呼ばれる。この世界はそんな職業を持つ者達によって支えられている。



『職業は神からの授かりものである』



 アミーリスラ聖国の教皇はそう言っている。

 誰しもが職業は生まれた時から決まっていると言われ、13回目の年越しをした日に天から職業を授かる。つまりは13歳になった日だ。

 それは特別であり幸福であり絶望である日。




 古本屋のお手伝いをしているあの子はどんな職につくだろう。いつも近所で威張り散らしているあの子はどんな職につくだろう。


 職業こそが全てとなる世界。実に平凡でいて実に非凡な世界。




 この世界はいったいどんな景色をまた見せてくれるのだろうか。




◆◆  ◆◆




「母さん、俺ちょっと中央の図書館行ってくる!」


 もうすぐ出産を控えているためソファでゆっくり休んでいる母さんにそれだけを言い、俺は返事も聞かずに駆け足で家を飛び出した。


「暗くならない内に帰ってくるのよ!」


 家から聞こえる母さんの大きな声を尻目に、目的地である図書館へと急ぐ。


 もう1月も終わる頃だから肌寒くなってきている。まぁ俺は寒いのは得意だから何も問題はない。


 

 俺の家は王都の外壁近くにあり、言っちゃ何だがあまり裕福な家ではない。

 生活するだけなら困らないけど贅沢はできないぐらいの家計だ。


 だから広大な敷地の王都を移動する用の馬車なんて持っていない。王都の端の俺の家から中央図書館まで徒歩で行くとなると相当な時間がかかるが、もちろん俺は自力で向かう。全力疾走だ。


「はっはっ……あの事について調べないと」


 全力疾走をして息が切れているのにも関わらず、逸る気持ちを抑えられないで言葉が漏れる。

 近所の小さい図書館やギルドでは目当ての本が無かったため情報収集を断念したのだが、この金色の券があれば中央図書館へ入れると気づいた。興奮するのも仕方がない。




 どうしても息が切れて苦しいときだけ止まって休み、それ以外はずっと走り続けたことで数時間で到着した。

 正確な地図なんて持ってないから最短ルートじゃないだろうけど……それにしても遠すぎだろ。


 そんな王都の広さに不満を感じながらも、深呼吸をして息を整えて中央図書館の入口へと向かう。



「平民? しかも商人ですらない貧乏人か」

「なにかしらあの服、貧相ね」


 なんて心無い言葉があちこちから聞こえてくるが、こんなものはもう慣れたものだ。

 この程度の言葉は王都を歩いていれば少しは聞こえてくる。中央に近づくほど顕著にはなるっていう特徴はあるけど。


 それに俺が着てる服がボロいのは、俺がある目的のために近所の森を駆け回って何着もボロボロにしてしまうせいだ。決してボロボロの服しか着れないほどに家が貧乏というわけではない。



 それにとある事情で良い服なら持っている。でもなんか、あれはちょっと着るのが躊躇われるのだ。


 うーんでも着ないのは勿体ないよなぁ。それにそろそろあれくらいの服を普段着にするのにも慣れないとだし……まぁ今はいいか。



 余計な雑念を振り払って、中央図書館の受付の人に金色の券を見せる。


「すみません、これ入場券です。入っていいですか」

「ふん、貧乏人がよく入場券を入手できたね。どれどれ……金券!? ちょっとそこのアンタ、すぐに衛兵を呼ぶんだよ! 坊主! アンタ何処でこの券を盗んだんだい! 死にたいのかい!」


 俺が券を受付のおばさんに見せると、なせだかおばさんが血相を変えて俺に詰め寄ってきた。

 腕を思いっきり掴まれて痛い。


「ちょ、おばさん!? 俺ちゃんと券見せたじゃん! 券があったら身分関係ないんでしょ!?」

「それはそうだよ! でもね、アンタが渡してきた券はただの券じゃなくて金色の券なんだよ。銀券ならまだしも金券は上位のお貴族様しか持ってないんだ。それをアンタみたいな貧相な坊主が持ってるわけ無いだろう!」

「いや、あれはたまたま女の子から貰った物で……! 俺は盗んだりしてない!」

「苦しい言い訳だね! 衛兵に突き出すから待ってな! 言い訳はそこでするんだね!」


 どうしよう、なんでこんな事になるんだ。俺は本当にこの券を貰っただけだ! くそっ、あの女の子に会うことが出来ればそれが証明できるのに……!


 どうしようか思考を張り巡らせていると、コツコツと足音が近づいて金髪の少女が目の前に歩み寄ってきた。


「これは何の騒ぎ? 何をしてるのかしら?」

「あ、貴方は……」


 少女は身なりが良く、俺と同じ歳くらいに見える。

 金髪を縦ロールがかったツインテールにしている女の子を見た瞬間、おばさんの俺の腕を掴んでいた力が弱まった。


 その勢いで弱まった腕を振りほどく。

 本当はこのまま逃げだしたいくらいだが、周囲には人だかりができて人の目が多すぎるし、俺は本当に悪いことをしてないのだから逃げるのも不服なので根性でこの場に留まった。



 俺が自身の腕をさすっていると、金髪の少女が俺のことをまじまじと見つめてきた。


「騒ぎの原因は貴方ね? 汚い服……いったい何をしたのかしら?」

「俺は何もしてない!」


 まるで俺が何かをしたというのが確定しているかのように言ってきたのに対して、ついつい食い気味に反論してしまった。


 これはまずい。この国は異様に貴族の権力が強い。性格の捻じ曲がった貴族なんかは簡単に平民を殺す。

 実際に目の前の少女は眉をひそめて明らかに不機嫌だ。それを考えれば俺の今の対応は間違いだ。


 やっべぇ、不敬罪とかなんないよな今の? 敬語にしないと。


「威勢が良いわね。じゃあ何もしてないって言うのなら、どうしてこんな騒ぎになるのかしら?」

「女の子に貰った券を受付の女性に見せたら、盗んだだろって言いがかりをつけられたんです。私は本当に盗んでません」


 俺は精一杯弁明をした。

 少女の逆鱗に触れないように、簡潔に的確にだ。


「ふぅん、なるほどね。ちょっとそこのおば様、その券を見せてくださる?」

「は、はい!」


 女の子は俺と同い年くらいなのにも関わらず、さっきまで俺に鬼の形相で詰め寄っていたおばさんが低姿勢で対応している。

 ここは貴族街の真隣ということもあるし、俺の予想通りおばさんの対応から見てこの子は貴族なのだろう。


 金髪の女の子が券をじーっと見つめると、ほんの数秒でにやりと笑って俺に券を返してきた。


「ふふっ、なるほどね。君、名前は何て言うの?」

「……ヴェイルって言います」

「その券は黒髪の女の子に貰ったのよね?」

「はい……街で偶然であって」


 なんで分かったんだ? 俺は黒髪の子に貰ったなんて一言も言ってないぞ。


「貴方が感じたあの子の特徴を教えてくれるかしら?」

「えっと、特徴は……深い黒の髪を腰下まで伸ばしていて、瞳はルビーのように真っ赤で凄く綺麗な同い年くらいの女の子でした」


 俺の返答に少女が不思議そうな顔をしている。

 

「不気味とか感じなかったかしら?」

「え? まったく感じませんでした。」

「そう……もう良いわ、確実にあの子でしょうね。この券を街で偶然出会った子に配るのはあの子ぐらいよね。多分選抜も何もしてないでしょう」

「えっと……?」


 俺が素直に質問に答えると、金髪の女の子は1人で納得したように笑った。その様子に俺と受付のおばさんを含めた周囲の人全員があっけにとられて困惑していた。


「はぁ~面白い。受付の方、彼が持っていたこの券は本物だし、しっかりと彼の物よ。これはそういう物なの。ほら、ヴェイルもしっかり持っておきなさい」


 金髪の女の子が俺に券を渡してくれる。いきなりヴェイル呼びなのにはツッコまないほうが良いだろう。


 まぁそれにしても良かった。流石にこの券を没収されるのはまずいからな。特別に作ってもらった収納袋にしまっておこう。


「で、ですが、しっかりと確認を……」

「は? 中央図書館の受付如きが私に口答えをするのかしら? 彼……ヴェイルが持ってきた券は本物だと、ウィンテスター公爵家の娘である私が認めたのよ? それに異を唱えるのね……死にたいの?」

「い、いえ、滅相もございません! どうか、ご容赦を……!」

「最初からそうすれば良いのよ。じゃあヴェイル、私もこの図書館に用事があるから一緒に行きましょうか」


 金髪の女の子が俺に向かって優しく微笑みかけてくるが、おばさんへの対応を見るとその笑顔を素直に受け取れそうもない。


 このまま図書館の中に行くのかと思ったら、少女が何かを思い出した表情をして振り返った。


「……そういえばあの券をもし奪っていたりなんかしたら、貴女は最悪2親等まで処刑だったわよ。これはただの金色の券じゃないの。抵抗してくれたヴェイルに感謝することね」


 ひぇっ、貴族怖すぎる……。


「ヴェイル?」

「あ、いえ! なんでもないです!」


 長時間走っても大して疲れなかったのだが、なんだか図書館についてからのやり取りでどっと疲れてしまった。

 

 はぁ、このお嬢様といつまで一緒にいなくちゃいけないんだろ。





 結局この日はちょっと用事があるからと言って居なくなった5分間を除いて、ずっと金髪お嬢様と行動することになってしまった。

 集中して調べることも金髪お嬢様を待たせるのも忍びなく、あまり目的の情報を得られなかったが、まぁ新しい綺麗な服とかご飯奢って貰えたから良しとしよう。









 こうして俺の物語は幕を開けたのだった。




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【あとがき】

 どうも皆さん初めまして。作者の笹葉の朔夜です。


 『俺のジョブがおかしい件 ~可愛いうちの子達と最強になります~』をお読み下さりありがとうございます。

 作者自身稚拙ではありますが、皆さんに面白い作品を届けられるよう頑張りましたので読み進めて頂けると幸いです。


 当作品の☆☆☆(星)、♡(ハート)、フォロー、コメントを頂けると、作者が踊って喜びます。


 今後とも当作品をよろしくお願いします。

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