第107話 理由。そっか……

「テイム出来た……」

 

 俺はテイム出来た事に一瞬喜ぶが、直ぐに代表ドライアドさんの状況に気づいて、代表ドライアドさんに駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

「……は、はい。今は大丈夫です……疲れただけですから……」

「いやでも大丈夫そうには……ッ!」

「大丈夫ですから……」


 代表ドライアドさんは真っ青な顔をして、今にも意識を失ってしまいそうな程に話し方もたどたどしい。無理な器の修復が駄目だったのだろうか。


 俺は心配になって代表ドライアドさんを抱える。代表ドライアドさんの腕を俺の首に回して、両手で横向きに抱きかかえる。


「いい人を知ってます。その人に診せ行きましょう!」

「……大丈夫ですから」

「駄目です! シャナも心配してるので行きますよ! 皆さんは遅いですしここで待ってて下さい! 学大勢でいる所を見つかっても大変ですから!」


 それでも大丈夫だと言い張る代表ドライアドさんを無理やり連れて、俺はあの人のもとに行く。

 必然的にこっぴどく怒られたあの人にも会う事になるのは少し気まずいけれど、それだけの理由であの人の所に行かなくて代表ドライアドさんに何かがあるよりはマシだ。



 そう、到着したのは風紀委員会室だ。


 コンコン。

 俺はきっちりとノックをして、しっかりと返事を待つ。ラン先生じゃないからね。……特寮の門限は過ぎていないとはいえ、こんな夜に来てる時点で俺も失礼か。

 

「どうぞ」

「失礼します」


 部屋の中から返事が聞こえたのを確認して、俺は中に入る。

 中に入ると、アイリス先輩がもくもくと書類作業をしていた。忙しいのか俺の方を見向きもしない。


「こんな遅くにすみませんアイリス先輩」

「ヴェイルだったか何の用だ? とは言っても、書類が溜まっていて手が離せない。書類作業をやりながらでも大丈夫か……ってどうしたその女性は!?」


 アイリス先輩は書類作業が一区切りつき、話しつつ顔を上げた所で俺が抱えている代表ドライアドさんに気が付いた。それも、代表ドライアドさんが具合悪そうにしているのに気づいてすぐに駆け寄ってくれる。


「この女性は先日のドライアドか……ここに来た目当てはモイリア、ということだな?」

「はい、そうです。夜遅くて失礼だとは思ったんですけど、緊急事態で……モイリアさんはいますか?」


 眷属世界を出て俺とアイリス先輩が話しだした今でも、代表ドライアドさんの顔色は良くなっていない。脂汗をかいて呼吸もおかしい。苦しそうだ。


「この様子を見れば緊急だと分かる、時間は気にするな。緊急事態なら夜中でも歓迎する。待っていろ、今モイリアを起こしてくる」

「ありがとうございます!」


 アイリス先輩はすぐに風紀委員会室と繋がった隣の部屋に行き、前回と同じようにモイリアさんを起こして連れてきてくれた。


「また君か……今日はお昼寝じゃなくて本当に寝てたよ……」

「すみませんモイリア先輩。でもこの人を見て欲しくて!」

「うーん? 『診察』『診断』……は? どういう事? ちょっとすぐにこっち連れてきて!!」


 モイリア先輩は前回シャナを診てくれた時のように代表ドライアドさんの事を診たかと思うと、途端に目を見開いて大声を出した。さっきまで眠くて目をこすっていた人とは思えない。


「何してるの! 早く!」

「は、はい!」


 俺が呆けていると、モイリアさんの怒鳴り声が隣の部屋から聞こえる。それほどまでに緊急事態なのだろうか。


 俺は急いで先程までモイリア先輩が寝ていた部屋に代表ドライアドさんを連れていく。

 隣の部屋に入ると、中にはベッドが2つあった。片方は見た目からしてモイリア先輩が眠る方で、もう片方は色々な道具が乗ったベッド。


 血の痕や何かの生体の一部のような物もあり、俺の脳内に「実験」という言葉が浮かぶ。


「ほら、早くその手術台に乗せて!」

「手術!? そんなに悪いんですか!?」

「違うよ! 私特注の能力向上道具ってだけ! 凄いから早く診たいの! すぐ死ぬことはないよ!」

「え、えぇ……」


 すぐ死んじゃうほど緊急事態なのかと思ったら、まさかのモイリア先輩が早く診たいだけだった。しかもなんだか怒られてしまった。

 まぁそれでも診てくれるというなら断る事でもないので、素直に手術台に乗せる。


「『精密検査』『診断』」


 モイリア先輩は手術台の脇に置いてあったメガネを付けて、眼の前に6つの魔法陣を出現させて色々調べている。


「副会長! メモ!」

「……はぁ、分かった。紙を取って――」

「そこに適当ある紙とペンで良いです!」

「……後で必要な紙だったとか文句を言うんじゃないぞ」


 堂々と命令してくるモイリア先輩に文句を言わず、アイリス先輩が紙とペンを持ってメモを取る準備をする。渋々といった様子でも、このやり取りを見る限りいつもの事なのだろう。


 俺はそんな2人の様子を見ているしか無かった。


「……やっぱり、この人は『先天性魔力系統障害』だ。遺伝……? いや、この感じは違うな……双子にもよくある症状に近い。もしかして……君! この人双子か何かの兄弟姉妹はいない?」

「い、います!」


 他のドライアドさん達がそうだろう。本人達が姉妹だと言っていたんだし。


「やっぱりそうか! その人連れてきて!」

「え……」


 いや、ドライアドさん達ここに連れてきて良いのか? テイムしてない魔物……


「早く!」

「はい!」


 モイリア先輩の言葉の気迫に断りきれず、はいと返事してしまった。仕方ない、もし問題になったらモイリア先輩のせいにしよう。


 俺は外に出て、一応特寮まで走っていって眷属世界を開いた。

 この世界のことは出来るだけ他の人に言いたくない。ラン先生は……言っても良いかもしれないけど。とにかく、普通のテイマーじゃないと分かってしまうこれは他の人には見せたくないのだ。


「ごめんなさい皆さん、待っててと言っておいてあれなんですけど、来てもらっても良いですか?」

「分かったです」


 代表ドライアドさんの次に生まれたというドライアドさんが返事をする。代表ドライアドさんがいない時はこの人が代表のようだ。


 俺は念の為にシャナも入れた5人を連れて行こうとすると、護衛と言ってフブキも来たがったので連れて行くことにする。

 リオンとショウはフブキに任せてお留守番してるみたいだ。リオンは眷属世界で、ショウは特寮で。



「すみません、戻りました……ッ!」

「遅いよ君!」


 また皆で走って風紀委員会室に戻る。シャナは肩車だ。


 モイリア先輩は代表ドライアドさんを診ており、俺の方を一切見ていない。


「すみま、せん……」

「取り敢えず連れてきた人を、って多いね!?」


 モイリア先輩はようやくこっちを見て姉妹が多いことに驚く。全員じゃなくて1人だけで良かったのだろうか。


「これは好都合だよ! 診れる人数が多いのは良いことだ!」

「あ、それなら良かったです……」


 俺は興奮して食い気味になってるモイリア先輩に会話で押され、少し引き気味になってしまう。

 必死な研究職ってなんでこんな言葉に現しにくい怖さがあるんだろうな……。


「皆さん順番にこの台に寝て下さい」

「えっと、その……」


 次代表ドライアドさんが俺とモイリア先輩を交互に見て困っている。言うことを聞いて良いものか迷っているのだろう。

 なので、俺は代表ドライアドさんを診てくれている良いお医者さんだと伝え、言う通りにして大丈夫だと言う。


「じゃあ……『精密検査』『診断』」


 代表ドライアドさんをモイリアさんが使ってたふかふかのベッドに移し、順番にドライアドさん4人とシャナを診ていく。


 一人当たり約5分の計30分程度診た後、モイリアさんは一息ついて俺に向かって口を開いた。


「君……いったい何者なの? ただのテイマーじゃないでしょう」


 確信した瞳だった。

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