第16話 入学試験試験。なんそれ……?

「時間のようだね、僕はこれで失礼するよ。不思議と君には包み隠しもせず話してしまった。僕のこの話し方は極秘に頼むよ。……ね、姉さん、早く戻ろうよ……」

「ん? あぁそうだな。じゃあなノワ・ブルノイル」

「はい、ごきげんよう」


 ミエイル様は俺に軽く挨拶をすると、姉であるアイファ様に声をかけて2人共居なくなってしまった。

 アイファ様に話しかけたミエイル様は、中央広場で見たような気弱な男の子に様変わりをしてた。


 つまり演技……ってことだよな?




 そんな事を考えている間にも、試験会場の監督官が大声で説明を続けている。


「これから行うのは入学試験を受ける資格があるか判断するための試験だ! 非常に簡単な試験だから緊張する必要はない!」


 というか問題はこれだ。入学試験を受けるための申込みに来たはずなのになぜだか試験を受けている。なんでだ。


「ノワ」

「何かしら?」

「何だこの試験? 俺知らないんだけど」

「あら、言ってなかったかしら? 今日貴方のお家に迎えに言った時も入学試験申込みとは言わなかったじゃない。私はちゃんとに行くと言ったわよ?」

「……言ってたか?」

「言ったわよ」


 うーん、思い出せない。本当に言ってたかぁ?


 と、今更文句を言っても仕方ないわけで。もう俺はこの試験を受けて入学試験を受ける資格を得なければならないのだ。特殊金券を貰った時点で試験に落ちるなんて選択はない。強制イベントだが不退転の覚悟だ。


「試験内容は単純、どんな方法でも良い。自分以外の人間を2人蹴落とせ! 負けた方は勝った方に受付で貰った番号札を渡すんだ! 負けて渡さない者はその時点で永久失格となる! 今後二度と我が学園を受験できなくなるから覚えておくように!」


 試験官の説明が終わると、会場は今までにないほどの静寂に包まれた。

 それもそうだろう、2人蹴落とせということはこの会場にいる3分の2が入学試験を受ける前に落ちるという意味だからな。急に場の雰囲気が固くなるのも納得だ。


「それにしても3分の2も落とすとは驚きだな。いくらこの会場が広くて人が多いからって3分の2も落としたら入学試験をしなくてもいいくらいの人数になっちゃわないか?」

「それはそうでしょう。この場にいる人数だけではこの学園の入学生の数には程遠いわよ」

「ん? どういうことだ?」

「会場はここだけじゃないって言ってるのよ。多分だけれど全部で10個以上はあるんじゃないかしら? 実際にここの大広間に来るまでに他の部屋もあったじゃない。見てなかったのかしら?」

「うっ……」


 全然気づかなかった……。確かに国土の広さを考えると、この会場だけじゃ足りないよな。そうだよな。多分だけどこの建物だけではなくて他の建物もあるのだろう。


 俺が入学志望者の多さを改めて確認していると、会場は喧騒に包まれていた。泣き崩れる者、喜びに満ち溢れている者などなど。早速木札の奪い合いが始まっているようだ。

 かくいう俺とノワには誰も来ていないが。


「私達から行かないと来てくれないみたいね。王族と話していたせいかしら」

「なるほど……誰だって王族と仲良い奴には目をつけられたくないか。ってかノワが公爵家だからそれもあるだろ」

「まぁそうね。行くわよ、私達から申し込まないと相手が居なくなるわ」


 金魚の糞だと思われるかも知れないが、またもやノワの後ろをついていく。護衛も兼ねてるんだよ、一応。



 スタスタと歩いていくノワについていくと、1人の女の子の前で立ち止まった。いや正確には2人だろうか。


 1人は勿論目の前の女の子である。裕福ではないがこの日のために頑張って良い服を用意した。といった背景が見て取れる程度の、元の質は良さそうだが少し古い洋服を着ている子だ。

 そんな子に大柄な男性が勝負を仕掛けようとしていた。どうやら力勝負を挑もうとしていたみたいだ。そこにノワが割り込んで話しかけた。


「あなた、平民かしら?」

「は、はい……!」

「そう……計算はどれくらい出来る?」

「い、市場でか、買い物は出来ます……」

「歴史や魔法学はどれほど知っているのかしら?」

「す、少しだけです……すみません……でも試験のために勉強しました」

「特技は?」

「か、家事はお母さんを手伝ってきたので……得意……です」

「職業は? 言いたくなければいいわ」

「あ、闇影あんえい魔法使いです……」

「やっぱりね」


 ノワが試験官のような事をしだした。だがそれは圧迫感のようなものがあるわけではなく、ノワとは思えない程に優しい表情と穏やかな声色でだ。

 ちなみに大柄な男性は貴族の子息だったようで「ブルノイル公爵令嬢……!」と呟いてどっかに消えてった。うーん要注意人物か? 年のために覚えておこう。


「じゃあ最後の質問よ、あなた何処の出身かしら?」

「フィ、フィルデーク領のスカッチ村です……」

「そう、フィルデーク男爵の領地ね。じゃああなた私と木札を賭けて戦いましょうか」


 言っては何だが、この子はノワが声をかけなくても落ちてしまっていただろう。それこそ先程の男性に勝負を仕掛けられられていれば勝てていた可能性は高くないように思える。

 気も弱く、知識も豊富とは言えない。計算力も並であり、得意な事は家庭的で戦闘や研究面に活かせるような事ではない。まぁ良いことではあるんだけどな。

 ノワのような皇位貴族どころか、レベルの高い王立学園を目指す者達には敵わないだろう。

 

 ノワもこんな子に目をつけるとは残酷だ。


「え、は、はい……分かりました……」


 この子も先ほど自分に話しかけていた屈強そうな男性が、ノワを見てさっそうと逃げ出していたのをしっかり見ていたのだろう表情が途端に暗くなり、涙を流してしまいそうになっている。

 だがそれを粘る様子もなく受け入れている。……もしかしたら初めから分かっていたのかも知れないな。

 王立学園受験者の中には自分の力が足りていないと自覚していても、家族や村のために受験しなくてはならないという子も居ると聞いた。この子はもしかしたらそういった事情を抱えているのかもしれない。


「勝負は簡単よ」

「はい……何でしょうか……」

「ズバリ! 勧誘勝負よ!」

「勧誘勝負……?」

「私が今から勧誘をするから、その勧誘に耐えたらあなたの勝ちよ。良いわね?」

「え? えっと、はい……」


 勧誘勝負? 何を言ってるんだこいつ。対面してる女の子も困惑してるぞ。


「じゃあ行くわよ。あなた私の家で働かないかしら?」

「え……それっていったい……?」

「最後まで聞きなさい。私はノワ・ブルノイル。ブルノイル公爵家の三女よ。実は私が直接育てる子飼いの部隊を作ろうと思っているのよ。その部隊にあなたを勧誘しているの」

「うそ……そんな……」


 ノワの話を彼女も理解したのだろう、腰が抜けて床に座ってしまい、大粒の涙を流している。


「どうかしら? この手を取ってくれればここで私に木札を渡しても大成功間違い無しよ?」


 そう言ってノワは全てを受け入れてくれそうな優しい笑みを浮かべ、彼女に手を差し伸べた。


「お願い……します……! 私、精一杯頑張ります……!」

「そう、これからよろしくね」


 こうしてノワは1つ目の木札を手に入れたのだった。





 ごめん、ノワ。簡単に勝てそうな相手に目をつけた残酷な奴とか思ってごめん。うん。


 で、同じような手法でもう1つ木札を手に入れてノワの入学試験のための試験は終了した。

 後は俺が2人分貰うだけだ。



「これで私は終わりね、あなたはどうするかしら」

「まじでどうしよっかな」

「知識勝負で良いんじゃないかしら? あなた知識量だけは多いもの、なぜかね」

「なぜかって言われてもなぁ……本読んでるだけだし、なんでか知ってる知識とかあるんだよな。どっかで知った内容なんだろ」


 そうしてまた俺達2人は勝負相手を探しだした。

 俺はノワみたいに財力も権力もない為、本当に実力のみで勝負しなくてはならない。相手の実力を見定めるのが重要だ。


 あの男子はメガネかけてるし頭良さそうだな。あっちの女子も本持ってるくらいだから頭良いだろ? そっちの男子は……ムキムキだな、脳筋か……? いや! さっきのメガネくんが知識勝負で負けてるぞ! 駄目だ駄目だ。



 そんなこんなで探すこと10分。

 ついに1人目の対戦相手が見つかった。いや、見つかったというか吹っかけられた。


「そちらの黒髪の美しい女性を賭けて勝負だ!」

「え、いや、木札を賭けての勝負……」

「うるさい! 馬鹿は黙っていろ! お前のような馬鹿面は俺様のような選ばれし者に搾取されていれば良いのだ!」

「いやーん、怖いわヴェイルー。タスケテー」


 意味分からんくらいカタコトで話すノワ。辞めて! 抱きついたら目の前の男が反応するでしょ!


「ムッ! 抱きつかれたからと言い気になるなよ! 勝つのは俺様だ!」


 あぁほらもう……。


「いざ勝負!」


 なんだか面倒くさそうな相手との勝負が始まった。

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