第69話 クラス代表戦。ふぅ……
『さぁやってまいりました! 続きまして、各クラス代表10名ずつによるサバイバル戦となります!』
実況先輩の声が闘技場に響き、それに合わせて観客の歓声も聞こえてくる。実況先輩の声は魔道具を通じて控室にも聞こえているが、観客席の声はそうではない。
「控室まで観客の声が聞こえてくるって結構な人が見てるんだな」
「当たり前よ。今日は授業も休みになってるもの。ほとんど全員が見に来てるわね」
俺の疑問にノワが答えてくれる。
俺は結構緊張しているんだが、ノワは一切緊張した様子もなく、優雅にショウを撫でている。
「ノワって緊張したことあるのか?」
「ないわね」
悩む素振りを一切見せないで断言された。どんだけ自信家なんだよって言いたい。
『それでは選手の入場です! 皆さん大きな拍手でお出迎え下さい!』
「行くぞ皆」
実況先輩の声に合わせてアイファが俺達に声を掛ける。闘技場のに行く時間だ。
アイファを先頭に俺達が闘技場に出ると、周囲すべての席は埋まっており、誰も彼もが拍手をして出迎えてくれていた。生徒に先生に外部から来た人、保護者なんかも座っているはずだ。
その光景に多少の高揚感はあるが、緊張で心臓が張り裂けそうだ。
「うわぁやばいよこれ、こんな状況で戦うのかよ」
「緊張してるのかヴェイルくん」
「するでしょそりゃ。こんなに大勢の人に見られてるんだよ?」
「そうか? これぐらいの人数は少ないほうだろう」
あーそうだった。この人王族だった。演説の対象が全国民とかいうレベルだった。比べられるわけがない。
会話をしながら、闘技場の中心へ全クラスの代表が集まる。中心には2人の教師が立っていて、そこに向かっている形だ。
「アイファにとっては少ないよね」
「む、なんか呆れてるな」
「別にー?」
こんなやり取りをしてお互いに顔を見合って笑っていれば、次第に緊張も解けてくる。
それに俺の緊張に気づいてか、フブキが頭に体を擦り付けているのも癒やしだ。
『主様大丈夫~?』
『フブキのお陰で大丈夫になったよ。ありがと』
『良かった~』
う~ん最高に可愛い。
「ではルール説明に参ります!」
俺達各クラス代表の計100人が中心に集まると、実況先輩がルールを解説しだす。
「各クラス5名ずつ、左右の先生方のところに分かれて下さい! 50名ずつ2試合を同時に開催し、それぞれ残り8名になるまでのサバイバル戦となります! では、お分かれ下さい!」
先に知っていたこともあり、実況先輩の説明に不満を漏らす者はいない。皆スムーズに移動している。
「じゃあ私はあっちに行く。また後で会おう」
アイファはそう言うと左の先生の方へと向かっていった。俺とノワは右側だ。
それに続いて、右の俺達の方にはキラニアさんとミュード君、キキさんが来た。左にはグロウと残る3人だ。
アイファが俺達と違う方に行くと言った時は少し悲しい気もしたが、自分1人で自分の実力を見極めたいと言われては仕方ない。
アイファからしてみれば、俺とノワは完全に足手まといだからな。まぁアイファがそう言ったわけではないけど。
他のクラスのメンツを見れば、何人かみたことのある人物がいる。サラリナ様にヴァレアもこっちなのか。ヴァレアとは当たらないと良いけど。
「それでは全員が分かれたようですので、会場の準備をしましょう!」
実況先輩の合図で、先生が魔道具をポケットから取り出す。
「「起動!」」
2人の先生の声とともに、魔道具のボタンが押されると、地面が揺れて様々な大きさの岩が闘技場中に出現する。
それとともに、闘技場を真ん中で綺麗に2つに分断するような岩壁も現れる。これで50人ずつの闘技場が2つ出来たことになる。
さっきまで居た演習場にも岩達が出現するギミックがあったが、それの巨大バージョンとも言える状況だ。
もう片方のグループとは完全に分断された状態。次に会うのは決着がついた時だろう。
「仕組みの説明はいらないだろう。これから10分の移動時間を設ける。敗退の条件はさっきと同じだ。同じクラスで協力するもよし、他のクラスの人と協力するのもよしだ。では、移動開始」
簡単に先生が説明すると、50名が一斉に動き出す。俺達も移動を始めないといけない。
取り敢えず俺は同じクラスの全員を集めて相談する。
「どこに移動するか」
「任せるわ」
「僕はキラニアさんとキキちゃんと動き回ろうかなって思ってるんだけど」
「そっか、ノワは動かないほうが良いよな」
「そうね」
俺とノワの考える行動と、ミュード君たちの考える行動が違う。
俺とノワはあまり動かずに敵を迎え撃つ形を想定しているが、ミュード君達は積極的に動いて自ら的を倒していくスタイルだ。
「う~ん、分かった。じゃあ別行動しよう! けど、俺達同士は攻撃し合わないってことでどうだ?」
仕方なく俺はそう提案する。5人で動いた方が戦力的にも安全なのかも知れないが、戦場に突っ込んでいくスタイルの3人と行動を一緒にしては、俺がノワの安全を守りきれるとは思えない。
それなら、ノワには隠れてもらって俺とショウとフブキとリオンで守った方が良い。
「そうだね。少し残念だけどそうしようか」
俺の提案にミュード君も頷く。残りの2人も異論は無いみたいだ。
「じゃあお互いに頑張ろうミュード君」
「ヴェイル君達も頑張って」
こうして俺達は2人と3人に分かれて行動を始める。
「今度はあっちの大きめの岩が多い方に行こう」
「分かったわ」
今回も戦場のど真ん中に大きな岩山があるのだが、今回は行かないことにする。
いや、普通にあそこ激戦区になるでしょ。危ない危ない。あそこ進んで行くやつ馬鹿だって。
さっきの模擬戦までの自分の考えを棚の上に上げ、真反対の意見を自分の中で通す。
しばらく走って到着したのは、俺達2人が隠れるのには十分な大きさの岩が乱雑に無数に置かれてる場所だ。大岩地帯とでも呼ぶべきか。
「ここで2人で隠れて、通りすがった人を強襲する形で人数を減らしていこう」
「任せるわ。戦闘力のない私を守りながら、敵の数を減らす戦いの良い訓練ね」
「自分で言うかねそれ。てか状況が限定的すぎるだろ」
暗に自分で自分を足手まといと言うノワのセリフに苦笑しながら、隠れて戦闘が始まるのを待つ。後2、3分だろう。
因みに俺達が隠れているのは、大岩の中身が半分近く窪んだ中だ。単純な形の大岩だけじゃなく、こういう変わった形もあるから助かる。
『じゃあショウにはノワを任せたよ。リオンとフブキは俺と一緒に敵を倒そう』
『はっ』
『うむ、分かった』
『わかった~』
気を抜きすぎないよう、それでいて緊張しすぎて体が動かないなんて事がないように、ノワやフブキ達と会話をして時間が過ぎるのを待つ。
そうしていれば、
『戦闘開始ーーーーー!!』
実況先輩の戦闘開始の合図がかかる。
俺達は息を潜め、通りがかる人を待つ。
望むならば3人以下が良い。俺とフブキとリオンでこっちも3人だからな。最悪でも1対1なら勝てる。
1分、2分と経過するが人は通らない。近くで戦闘音はしているから人が居ないというわけではない。
みんな戦闘音の方に行くからこっちの方までこないのかも知れない。
そこで悩んだ末にある決断をする。
「よし、ノワとショウはここに居てくれ。俺とフブキとリオンは少し周りを見てくるよ」
「分かったわ、気をつけるのよ」
「おう」
俺はフブキとリオンを連れて外に出る。フブキが俺の肩に乗り、リオンは自らの足で歩く。
『じゃあ周囲を警戒しながら敵を探そう』
『うむ。王、後ろ――』
『えっ!?』
リオンが言葉の途中で俺に突撃してくる。俺はリオンの頭突きで軽く転び、痛むお腹に何事だと狼狽してしまう。
が、背後から聞こえてきた声と、頬に感じる鋭い痛みに状況を把握した。
「ヴェイルに避けられちゃった! 首取ったと思ったのに!」
「ヴァレア……いつの間に……!」
曇りのない眩しい笑顔を俺に向けるヴァレアの両手には、2本の剣が握られていた。
どうやら一番会いたくない人と会ってしまったみたいだ。
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