第44話 テイマーの立ち回り。ええええ!?
『チューーーン!』
「びべぶっ!」
腹部に響く鈍い痛みに耐えつつ、憎らしい鳥を見る。
『チュチュン?』
「なんで自分からぶつかっといて不思議そうなんだよ……」
なんで? じゃねぇのよ。絶対わざとだろ!
「やっぱり懐かれてる」
「いや懐かれてるってよりかは、舐められてるって言うのが正しいんじゃないですかね」
ホワイトバードちゃんは俺のお腹に突進した後すぐにラン先生の方に行ってしまった。
まだその後もずっと俺にくっついてるって言うなら分かるんだけど、どう考えても懐いてるとは違うだろこれは。
「普通は触れさせてくれない」
「いやでも受験の時から来てくれたじゃないですか」
差し出されたラン先生の手を掴んで、地味に痛むお腹を擦りながら立ち上がる。
「だからそれがおかしい」
「何でですか?」
テイマーであるラン先生が頼んだからホワイトバードちゃんは俺の言う事を聞いてくれただけであって、そこに特別な意味はないだろう。
「魔物は奴隷じゃない。嫌なことは断れる」
「む、それはそうですけど、だからこそ好きなラン先生に頼まれたから仕方なく付き合っただけで、懐いてるとかじゃないんじゃないですか?」
「……それはそう」
変な所で自信家だなこの人。
「そもそも懐いてると舐めてるは紙一重」
おや?
「それ舐めてるの否定になってないですよね」
「そうだね」
「諦めないで下さい!?」
自分から言っておいてめんどくせーなコイツって顔しましたね先生?
俺もそう思います。
「ごほん。まぁ一旦この話は置いておきましょう」
「うん」
「それでテイマーの立ち回りとはいったい?」
テイマーの立ち回りを教えてくれるという事だが、いったいどんな立ち回りなのだろうか。
社会での立ち回りなのか、はたまた戦闘などの冒険者として活用できる立ち回りなのか。
どちらにせよ今の俺にはありがたい先人の指導だ。一言一句聞き逃さないようにしなければ。
「テイマーは基本後方に控える」
「はい」
「なんでだと思う?」
「弱いから……ですかね?」
何度も言うがテイマーに戦闘能力は無い。
悲しいことに職業が発現していない子どもと大差がない状況だ。筋肉量の差としての力の差ぐらいしかない。
「そう。だから後方からテイムしてる魔物達の状況を的確に判断して、場をコントロールするのがテイマーの役割」
「なるほど。でもあまりにも遠くに離れてる子とは意思疎通できないですよね?」
勿論テイマーなのだから魔物を操るのは当然だろう。だが、こちらの声が届かなくては意味がない。
俺には念話というズルのような技があるので問題がないのだが、普通のテイマーにはそんな能力は無いはずだ。だから指揮を取ろうにも距離の制限がある。
「うん。でもヴェイルには関係ない。私にも」
「私にも?」
『主様、頭の上にいるよ~』
ラン先生の発言に疑問の声を発したと同時、フブキの声が脳内に響いた。
「頭の上……?」
フブキの言葉で自身の頭を触れて見ると、離れて寝転がっていたはずの夜空猫が俺の頭の上に乗っていた。
一切乗られたタイミングに気づかなかった。それに乗った感覚すらなかった。
「いつの間に?」
「さっき私がお願いした」
「お願いした……つまりは先生も念話が使えるって事ですか?」
「私の場合は一方通行。それにヴェイル程正確じゃない」
だとしてもそれは凄いことじゃないのか? 今まで何冊も本を読んだが、どの本にもテイマーは明確な意思疎通が出来ないと書かれていたはずだ。それなのにそれをそう簡単に覆す存在がポンポンと居ていいのか?
「十分凄いですよね?」
「うん。凄いから学園の教師が出来てる」
「あぁ~なるほど」
確かに言われてみれば王国最大の学園にテイマーの教師がいるって時点で、その教師は普通じゃないってのは確定だったな。
学生の入学基準が高いのと同様に、教師の採用基準だって高いわけだ。他の職業で落ちている職員志望者を差し置いてテイマーのラン先生が職員になれている時点で、ラン先生が超優秀だと言っているようなものだ。
「なんだか納得しました」
「うん。私達は魔物と意思疎通が出来るから、集団指揮力が高い」
「分かりました。でも少しくらい戦闘能力があった方が良いですよね?」
指揮官と言えども、いや、だからこそ戦闘能力をある程度持つべきだと俺は思う。
指揮官が落とされるのが集団戦闘で一番混乱を生じさせるのだから、落とされないように努力はするべきだ。
「正しい。けどテイマーがいくら鍛えた所で、他の職業からしたら児戯に等しい。だからテイムした子の内1体は絶対に近くに控えさせとく。この子みたいに」
ラン先生が自身の左隣の空間を指差した瞬間――
『主様あれは駄目だよ~今の僕じゃ勝てないや~』
――空間が陽炎のように揺らぎ、真っ赤な炎自体が身体を象った生物が姿を表した。それはトカゲのような見た目をしており、魔物でもあり神性を帯びている精霊とも呼ばれる有名なヤツだ。
「サラマンダー……!」
「正解。私の子の中で一番強い。この子は秘密」
そりゃ強いに決まってるだろう! サラマンダーと言えば炎の上精霊で、A級の中でも上位に位置する最強格の魔物だぞ!?
A級冒険者がいる大都市ならまだしも、村や小さな町じゃあ対処できないレベルの魔物だ。
知り合いで言ったら、あの悪鬼のような戦闘を見せてくれたシュミレイが頑張れば戦えるって感じだろう。
「これが私の考えるテイマーの立ち回り。最強の子を自分の近くに置いて、他の子達で高度な連携を活用した戦闘を行う」
ラン先生が話し始めると、サラマンダーはまた身体をぼやけさせて姿が見えなくなってしまった。居ると分かっていても認識できないほどの擬態だ。
「分かりました。って事は冒険者として活動する時は、パーティーは組まない方が良いんですか?」
「うん。連携が乱れる可能性のあるパーティーよりも、ソロで活動した方がテイマーは強い。でも……」
先生が少し言いにくそうにこちらを見ている。
分かってますよ先生。テイマーが最弱と言われる所以ですよね。
「分かってます。そこはなんとかしますよ」
ただし、強い魔物をテイム出来てる場合に限るってね。
「ん、分かってるなら良い。戻ろ」
言いたいことは全て言ったとばかりに足早に立ち去る先生の後ろをゆっくり着いていきながら、先程のサラマンダーの事を思い出す。
普通に考えればA級上位のサラマンダーをテイム出来るわけがない。
他にも同等の強さの魔物が居るのなら可能性もなくはないのだろうが、さっき見た感じではサラマンダーと同等の魔物はいなかった。そうゴロゴロと居る方がおかしいんだからこれは正常だ。
じゃあどうやってサラマンダーをテイムしたのか。何度も言うが自分が弱い状態で魔物は従うことはない。あるとすれば、よっぽどの変わり者か、弱くても一緒にいる理由があるかのどちらかだ。
サラマンダーならば自己意思もはっきりしているだろうから変わり者という線もあり得る。
弱くても一緒にいる理由……もしかして孵化させたのか? 生まれたばかりのサラマンダーにすり込みをしたのならあるいは?
いや、だとしてもそもそもサラマンダーが生まれる場所や条件が分からなすぎる。何もかもが不明な生物というのが精霊という存在なのだ。
「ヴェイル?」
「あ、いえ! すぐ行きます!」
危ない。考えすぎて歩くスピードが遅くなっていた。
あの何事にも無頓着そうなラン先生が秘密と言ったんだから、素直に聞いてみても教えてくれないだろう。……聞いてみるか?
「ラン先生あのサラマンダーの子っていったい……?」
「秘密」
「ですよね~」
んーーーー仕方ない! 分からないことは分からない! 諦めよう! それが俺の良いところ!
◆◆ ◆◆
「本当にここで良いんですか?」
「うん。ここが良い」
今日の研究を終了させ、約束通り夕食を奢る事となったのだが、ラン先生が指定したのはまさかの場所だった。
「特寮は特寮の子の同伴がないと教師でも入れない。だからここのVIPの食事はなかなか食べられない。ここは王都でも有数のレストランに匹敵するくらい美味しいらしい」
たくさん運ばれてきた料理を前にして、ラン先生の目が輝いている……ように見える。
輝いてるは言い過ぎでも楽しそうではある。どうやら魔物のことだけじゃなくて、食べ物でも饒舌になるみたいだ。
「楽しそうで良かったです」
「ん……」
自分が饒舌になっていたのを自覚したのか、真っ白な髪の毛と同じくらい白い頬を赤く染めてフードを深く被ってしまった。
ぐっ……あのラン先生が照れ、だと……!? 破壊力……抜群……バタン。
「ま、まぁ! ここはVIP部屋を使うだけの費用しか掛からないので、たくさん食べて下さい! 特寮生の特権ですからね!」
VIP部屋の値段のみで料理のお金は掛かっていないとは言え、まぁまぁな出費だ。今回は先生のご飯を食べちゃったお詫びも兼ねているし仕方ないだろう。
それにラン先生の笑顔はそれ以上の価値があると断言できる! ……俺のへそくりは全額消えましたけどね。
「ありがとう。いただきます」
「いただきまーす。……ん?」
特寮生の特権で食堂は無料だよな? VIP部屋じゃなきゃラン先生ご飯食べ放題じゃないか? いや、そんな法の裏を突くような真似して良いのか?
……提案してみよう。
「ラン先生」
「ん」
「俺が毎日ラン先生の事を迎えいけば、ラン先生も特寮でご飯食べられてお金掛からなくないですか?」
俺が思い付きで提案してみると、ラン先生は過去最大に目を見開いて口を抑えていた。
今までで一番感情出てるなこれ。
「……それは盲点だった。ヴェイルありがとう」
「いえいえ! じゃあこれからは毎日迎え行きますね!」
これからは1人寂しい夕飯を過ごさなくて済むぞ! しかもその相手がラン先生なんて最高じゃないか!
「夜ご飯だけで良いよ。いつも朝は食べないし、昼はメリナちゃんが奢ってくれてるから」
「メリナちゃん? 生徒ですか?」
俺以外にも先生にご飯をあげてる善良な生徒がいたのか。
「幾何魔法学の教師」
「あっ先生……」
「入学式で魔法陣の説明してた人」
「あっあの人……」
先生を生徒だと勘違いしてた時って、なんか凄い気まずい感じになるね。
なにこれ。
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