第45話 授業。ほほう

 4月4日木曜日。

 今日で学園に入学して4日目だ。まだそれしか経ってないのかよと言いたくなる程には濃密な日々を過ごしていると思う。


 まぁ慣れない学生生活の始まりなのだから仕方ない。今日の午後から通常通りの授業が始まるらしいし、もう少ししたら慣れてくるだろう。



 そんな事をぼーっと考えながらノワを待っていると、相変わらず様子のおかしいマリエルさんと一緒にノワがやってきた。


「おはようノワ。マリエルさんもおはようございます」

「おはよう」

「おはようございますヴェイル様」

「アイファはまた休みだって?」

「そうみたいよ」


 どうやら今日もアイファは学園に行かないみたいだ。家庭の事情とやらが長引いているのだろう。






 マリエルさんとは寮の入り口で分かれて、ノワと2人でくだらない日常会話をしながら教室まで歩く。


 その道中、俺はいつものようにノワの挨拶ラッシュを眺めながらショウの背中を撫でる。


『どうしましたか主』

『ん~いや、アイファどうしたのかなって思ってさ』


 通常通りの授業が始まる初日から休んで勉強は平気なのかっていう心配もあるし、単純に休んでいる理由を知らないっていうのも気になる要因の1つだ。


 ショウに聞いた所でその答えを得られる訳はないのだが、ただただ気になってそんな事を相談してしまう。


『ご命令とあれば見てきますが、どういたしますか』

『見てくる? 何を?』

『勿論王城の中です』

『へ?』


 王城って言ったこの子? この国で最も警備が厳しい王城?


『王城ってあの?』

『はい。王族の住まう城です』

『いやいやいや無理だって。すぐ見つかっちゃうよ!』

『そうでしょうか? 強者の気配を避ければ忍び込むぐらいは容易いと思うのですが……』

『ダメダメ! もし出来たとしても覗き見みたいなのは良くないし!』

『……分かりました』


 なんだか少し不貞腐れるような返事をするショウの頭を撫でながらゆっくり教室へと歩を進めた。


 ショウは自信家なんだな。



◆◆  ◆◆



「それじゃあ今日の午後から本格的に授業も始まるし、皆にはどんな授業があるのか説明するね」


 教壇に立つネイリア先生が、元気に手を上げながら説明を始めた。

 決して本人には言えないが、ネイリア先生は身長だけでなくその動作も全てが幼い。もう幼児。


「まず皆が絶対に取らなくちゃいけない授業は全部で5つだよ。教養学、貴族学、王国学、基礎魔学、基礎職業学の5つ!」


 5つだけか、意外と少ないな。たった5科目を1年間学ぶとなると、相当深いところまで知れそうだけど、まぁ他にも取らないと駄目な授業があるんだろうな。


「で、その具体的な内容だけど……」


 ネイリア先生は身振り手振りをしながら詳しく授業について教えてくれた。その話をまとめると、必ず取らなくてはならない5個の授業はこんな感じらしい。


 ・教養学:基本的な言語や計算、マナー、地理、歴史等々。普通に生きていく上で役に立つ能力を育てる。

 ・貴族学:主な貴族の成り立ちや義務。主目的は平民や貴族位に相当する立場にない人種以外が貴族と衝突しないようにすること。

 ・王国学:教養学では触れない詳しいスレイン王国の話。地理や成り立ち、他国との関わり、特産品等々。

 ・基礎魔学:魔法学ではなく魔学。魔道具や職業の能力を扱うのに必要な魔力に関する基礎授業。頑張って魔力を使いこなそう。

 ・基礎職業学:職業全般に関係する基本的な内容。応用科目への予習や復習として扱ってる学生がほとんど。


「そんな訳で、この5つは皆取るんだよ。それで、次は選択授業についてだね!」

 

 教壇の下をガサゴソと漁りながらネイリア先生が話を続ける。


「うちの学園は先生の数がすごいでしょ? それと同じぐらい選択授業も膨大な数があって、皆が自由に好きな科目を取っていくっていう形になるよ……っと、あったあった」


 ネイリア先生は教壇の下からネイリア先生の背丈ほどもある一枚の大きな紙を取り出し、全身を使って黒板に紙を張り出した。


 大丈夫か先生? 手伝うか!?


「んっ……よいしょ。で、えーっと、最大科目数に制限はないけど、最低5つは取ってね。でも注意して欲しいのが、たくさん選択する分授業時間も多くなって、成績も落ちやすくなるからね。自分の許容できる授業数を選ぶことが大切だよ。……貼れたぁ!」


 えっ可愛っ。

 小さくて元から可愛い先生が、全身を使って自身の大きさぐらいの紙を頑張って貼る。それだけでも微笑ましくて可愛いのに! なのに!

 苦労してようやく黒板に紙を貼れて、それで満面の笑みでこっちを向いてくるのは反則じゃないですか先生。ねぇ皆もそう思うよね?

 


 虚空に向かって耳を傾ける俺に、クラスメイトの同意する声が聞こえた気がした。……なんてね。




 閑話休題ぃぃぃぃ!!




「じゃあ、この紙に選択科目の一覧が書かれてるから、午後までに教壇の上にある紙に選択科目を記入して私に提出してね。じゃあ解散!」

「「「はーい」」」


 相変わらず端的に説明だけをして、その後は自由時間を多くくれる先生に感謝しながら、選択科目をどうするか考える。



 選択科目の紙にざっと目を通してみると、どうやら基本的には基礎科目から枝分かれしているようだった。


 教養学から〇〇語研究学、〇〇国研究学等々。

 貴族学から発展貴族学、帝王学等々。

 王国学から発展王国歴史学、発展王国地理学等々。

 基礎魔学から応用魔学、循環応用魔学等々。

 基礎職業学から応用職業学、〇〇研究学等々。


 ざっと見るだけでも数百の授業が書かれている。

 その大半を占めているのは魔学と職業学に関連した選択授業で、無数にある職業を出来るだけ細かく分類した状態で授業が用意されている感じだ。


 ラン先生は多分だが『テイマー活用学』ってやつだろう。他にテイマーの授業ないしな。

 これを取ればそのまま授業終わりに続けて研究をすることも出来るし、なんとも効率の良い学びが出来る状況が作れるというものだ。


 1つはこれで良いとして、残り4つをどうするか。ん~……というかそもそも5つだけじゃない方が良いのか? 


「なぁ、ノワは何個ぐらい授業取るんだ?」

「5個ね。帝王学、心理学、行動心理学、人間関係学、幾何魔法学を取るわよ」

「それはなんとも……」

「あら、何か文句でもあるのかしら?」

「いえ、なんでも!」


 最初の帝王学と最後の幾何魔法学は良いとして、心理学に行動心理学、人間関係学って……コイツは何をする気なんだよ。



 と、ノワの選択した授業に若干の恐怖を感じつつも、ノワが5個だけを取るという事なので、ノワとしばらく話し合って俺も『テイマー活用学』『魔物生態学』『応用魔学』『帝王学』『世界地理学』の5個にすることにした。


 『テイマー活用学』と『魔物生態学』と『応用魔学』は俺の基礎的な職業能力を高める為の実践経験と、これからテイマーとしての力を発展させる為の知識補充を目的に選択することにした。

 『帝王学』はこれからも必然的にノワと関わっていく中で、俺がノワと関係のある人物としての振る舞いを身に付ける必要がある事と、ノワの立場上ミエイルやアイファの様な立場の人と接する機会も多いので、その人がどんな考え方をしてるのかを知るために取ることにした。

 『世界地理学』はまぁ……俺の趣味だ。これは今は置いておこう。


「じゃあ紙出しに行くか」

「そうね。行きましょう」


 なんとなく他の皆がどれくらい選択科目を取るのか気になって、半分ほど人が居なくなった教室を見渡してから教室を出る。

 出口に近い人は少しだけ紙を見れたが、キラニアさんがなんだか10個以上……下手したら20個くらい授業をとっていたような気がしたが、流石に気の所為だと思いたい。


「流石に無茶だよな?」

「ん? ヴェイル今何か言ったかしら?」

「あぁいや、何も! 早く行こうぜ」

「ふぅん。まぁ良いわ、行きましょう」



 今日から授業が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る