第33話 真名。んんん?

「ん? ていうか皆どうやって喋ってるの? 口動いてなくない?」


 今更ながら気づいた。3匹とも俺と会話しているのに口が動いていない。いや、息を吸ったりはしているのだが、口の動きが会話している動きじゃないのだ。


「僕たちは思念を直接音にして送りだしてるんだよ~」


 んー思念を音に……なるほど?


「我らは口と喉の構造上、人間と同じ発音を出来ないのだ。だから魔力を使って思念を音に変換する事で、声を出しているかのように人間の言葉を操っている」


 ふむふむ、まぁなんとなく理解は出来た。つまり音魔法の一種って事だな? それの発生源を口内にして、指向性を前にすることで一応口から言葉は出てるってことか。

 でも思念を変換してるから、俺達が話すように口を動かす必要はないと。口を開けるだけで問題はないって事ね。


「それに主だけならば、思念を直接送るという事も出来ます」

『このように』


 おお~! これは俺が魔物の感情を読める事と関係してる感じかな? 俺は魔物の感情がなんとなく読める。読めるというか感じることが出来る。

 前に王都の外でゴブリンなんかに襲われた時は、何も感じなかったが、気性が穏やかな魔物からは薄っすらと感情を読み取ることが出来た。そこから考えるに、俺は俺に対して悪感情を抱いていない――敵愾心など――魔物の意思を読み取れるのだと思う。



 で、この子達3匹は明らかに意思の力が強い。自分という個をしっかりと確立しており、自分の心に、そして自分の脳に素直に生きているのだ。その様は、魔物と言うよりかは人類のそれに近いと俺は考えている。

 そして感覚的に分かるのだが、俺は既にこの子達をテイムした扱いになっている。気の所為かと思っていたが、3匹が俺に触れた時に、魔力を吸われたような感覚が少しだけあったのだ。つまりはその時にだろう。


 魔物側が一方的に契約できるとはこれいかに。


「まぁいいよね? 可愛い子達が仲間になったんだもの!」


 黒い子を持ち上げて、俺の顔面を黒い子のお腹に埋めるのだった。


 スーハースーハー。







 


「よし、じゃあ少し待っててくれ」

「はい」

「うむ」

「わかった~」

 

 気を取り直して3匹の真名を考えるために少しだけ時間を貰う。真名は真の名前と書くように、どう考えても超重要だ。真名次第でその魔物の強さが変わるとも言われているくらいの重要性を持っている。


 

 うーむ、何か良い案はないだろうか。せめてこの子達の情報が見れたりしたら便利なんだけどなぁ……。


 お~よちよち茶色ちゃ~ん可愛いでちゅね~。君はいったいどういう子なんだい~……え?



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真名:未設定

種族:獅子王

性別:オス

称号:封印されし者【影】

属性:光

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 いきなり脳内に情報が流れ込んできた。これは……茶色の子の情報? じゃあもしかして残りの2匹も情報を見たいと願ってみれば?



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真名:未設定

種族:黒獅子王

性別:オス

称号:封印されし者【光】

属性:影

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真名:未設定

種族:白獅子王

性別:オス

称号:封印されし者【炎、墨】

属性:氷、雪

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 出ちゃったよ。


 おいおい3匹とも情報見れるのか。でもテイマーにこんな事が出来るなんてどこにも書かれてなかったよな?


 確かにテイマーについての本は2、3冊しか読んでいないが、どちらとも相当分厚い本だった。その分厚さが証明しているように、載っている情報はとても詳しく、普通に膨大な量があったのだ。


 それなのに俺が知らない情報となると……エンシェントテイマー特有の能力なのか?




 いくら悩んでもこんな何も無い場所では答えを得ることなど出来ず、テイマー関連で頼れるだろうあの人も当然この場所には居ない。つまりは今は考えても仕方ないという事だ。


 よし、切り替え切り替え。真名を考えよう。



 というか正直情報見れたとかもうどうでも良い。いや、だってね? 情報を見る限りさ、この3匹猫じゃなくて獅子なんだよね。ウッソでしょ。って感じだよ。


 まぁでも獅子も猫の仲間と言うし、この子達が可愛いのも間違いない。それに将来はかっこよくなること間違い無しということだ。いやぁもうそれって一石何鳥よ! って感じだよね。だからまぁいい。




 で、真剣に考えるべき真名についてだ。

 3匹はそれぞれ獅子王、黒獅子王、白獅子王という種族で、また同じ順番に属性が光、影、氷と雪という感じだ。どうにかこれらに関係する名前にしたいところだ。


 んー獅子王に光か。黒や白がついていない通常版の王様で光を司るっていうのは、なんだか獅子種族全体の頂点に君臨している感覚が俺の中ではある。英雄的な感じだ。だから希望や勇気を感じられる名前にしたいところだ。


 希望……光……獅子王……頂点……そうだ!


「よし、茶色の毛並みをした君は『リオン』だ。同族達の頂点に立つ王者の風格を持って欲しいという意味を込めた」

「リオン――我はリオン! 王に仕えし獅子王である!」

「頼りにしてるよ。よろしく」


 茶色の子……リオンに真名を授けると、リオンが淡く光った。

 そして、俺の胸の中には先程まで薄っすらと感じていたリオンとの繋がりが、より強固なものになった感覚が響いた。

 それに呼応するように、リオンの情報にも『真名:リオン』と書かれるようになっていた。


 王に仕える王とは。って感じだがツッコまないでおく。


「よーし、じゃあ次は黒の子だ!」

「よろしくお願いします。主よ」


 黒の子を膝に抱えあげ、また真名をどうするか考える。


 この子は真っ黒な所がやっぱり特徴的で、話し方も3匹の中で一番丁寧だ。それに、なんだか目上の者に対する絶対的な忠誠を感じさせてくれる反面、部下に対しては過酷な修行を情け容赦無く叩きつける光景が目に浮かぶ。そして属性は影と……。

 んー規律に厳しそうで、影を司る黒獅子王。暗殺や、その中でも闇討ちを得意としてそうな雰囲気を持っていることを考えると……よし、決めた。


「君は『ショウ』だ。宵闇に紛れて暗躍する影を意味してる」

「はっ。私はショウ。影を司る黒獅子の王として、主のためにこの身を捧げたいと考えます」

「自分の命優先でいいからね? まぁこれからよろしく」


 ショウもリオンと同じく淡く光だし、胸の中のつながりを強く感じるようになった。そして情報も『真名:ショウ』と変わっている。


「よし、最後に白の子だ!」

「わ~い! 主様よろしく~」


 白の子を膝に乗せて頭を撫でながら真名を考える。


 この子はショウと正反対で真っ白だ。属性が雪や氷というだけあり、豪雪地帯にこの子を解き放てば、見つけるのが困難となりそうなほどに白一色。

 そうだな……真っ白で幻想的な様子が見られるが、実際は末っ子気質で元気いっぱいの可愛い子だ。だが、その可愛さを持ってしてもやはり幻想さを感じさせるその雪のような見た目……よし、これにしよう。


「決めたぞ!」

「なになに~?」

「君の名前は『フブキ』だ。真っ白な雪の中でも元気にその存在を示してくれるという意味を込めた」

「わ~! 僕はフブキ! 主様が楽しめるように僕も頑張るね!」

「よろしくなフブキ」


 そして例のごとくフブキも淡く光り、胸の中に感じる繋がりが強くなった。そして情報の方も『真名:フブキ』となっている。




 これで3匹とも名前が付け終わった。


 リオンにショウにフブキ。


 これから先この3匹はどんな魔物になっていくのだろうか。将来が楽しみで仕方ない。




 3匹に名前をつけ終えたタイミングで、テントが消えた。そして相変わらず真っ白なこの空間も明滅している。


「王よ、どうやら時間のようだな。そろそろ王が過ごす世界に戻るようだ」


 何が起こっているのかと不安になったが、リオンのお陰で原因が分かった。

 勝手に元の世界に戻ってくれるというのなら、このまま何もせずに待っていれば良いだろう。


 そう考え、俺は3匹を抱えてその時を待つ。

 リオンは腕から俺の肩に移り、ショウは静かに抱きかかえられている。フブキは俺の頭の上でぐでーんと四肢を放り投げて寝転んでるよ。可愛すぎるわ、うちの子達。


 とまぁ癒やされている間に視界がぐらりと歪み、気づいた時には元居た魔法陣の上に立っていた。

 戻ってくる時は不快感に苛まれないようだ。良かった。

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