第29話 魔法陣。すげぇ……
翌朝。
寮の食堂で朝ご飯を食べて、寮の前でノワとアイファを待つ。昨日の夜にノワの従者が俺の部屋に訪れて、3人で一緒に登校しようと言ってきたのだ。断る理由もないからもちろん了承した。
徒歩3分とかだから別にバラバラでも良いと思うんだけどね。
「待たせたわねヴェイル」
「おはようヴェイルくん」
「2人ともおはよう」
当たり前なのだろうが、ノワとアイファの身だしなみは完璧だった。髪や服に急いで用意したような乱れはないし、顔もスッキリとしていて目もぱっちりと開いている。
人によっては死んだような表情をしている人もいるのだ。さっきから何人かそんな感じの人が前を通っていった。
おはようと言ったは良いものの、今は朝というかお昼だけどな。太陽も真上で眩しく輝いており、もうすぐ13時だ。
煌々と輝いている太陽の光を感じながら、俺達3人は教室に向かう。徒歩3分の近さは伊達じゃなく、軽く雑談をしていればすぐに到着する。
食堂の朝食の話をしていたらもう教室に着いた。
「おはようございますアイファ様」
「おはようございますノワ様」
教室に入った途端、何人もの貴族令嬢や貴族子息がノワとアイファに挨拶に来る。相変わらずの人望だ。ゴマすりの意図もあるのかも知れないが……。
挨拶ラッシュも一段落し、俺達3人は横並びに座って会話を続ける。
ちなみに教室の座り順には指定がない。だから俺とノワとアイファは教室の中央部分に3人で座っている。教壇から見て左から順にノワ、俺、アイファの順番だ。
今日こんなに登校時間が遅い理由は、例の職業能力を高める魔法陣の使用時間がクラスによって決まっているからだ。1組から順番に使っていくため、俺のクラスである7組は14時の予定となっている。
「それにしても職業能力を高めるってどうなってるんだ? そんな事可能なのか?」
今までの先輩方がやってるのだから可能だとは分かっているのだが、どうしても疑問を口にしてしまった。
だって考えてもみて欲しい。職業は大別しても戦闘職や研究職や生産職等に分かれるのだ。もっと細かく分類したらそれこそ千差万別で、それら全てに適応できるような強化案なんてあるわけがないだろう。
それなのに職業強化をする魔法陣は1つしか無いのだと言う。どうやるの? って俺が思うのも自然なことだろう。
そんな俺の疑問にノワが答えてくれた。
「あの魔法陣は正確には転移陣よ。それも今の人類では再現できないレベルの代物ね」
「再現できない?」
「そうよ。あれは初代国王が設置した魔法陣なのよ。初代国王が制作したのか、もしくはその仲間が制作したのか、はたまた人知の及ばない存在が制作したのか。その真偽は未だに分かっていないけれど、初代国王が関与していることは確かね」
「でも転移陣は一部では使われているだろう? それこそ特寮なんかがいい例だ。ってことは作れる人が現代にも居るってことじゃないのか?」
転移陣。
魔法陣はただでさえ作るのが難しいと言われているが、その中でも群を抜いて難解な魔法陣の一種だと本に書かれていた。そんな風に本に書かれているということは、作れる人が現代にも居るという事だろう。
「ただの転移陣なら比較的簡単なのよ。王宮の魔法使いや公爵家の私兵にも使える人材は少数居るわ」
「じゃあ何で職業強化の方は再現できないんだ?」
「ただの転移じゃないからよ。あれは――」
「はいおはようみんな。集まってるねー?」
ノワの説明が途中だったが、先生が教室にやってきてしまった。
「――そうね、先生も来た事だしこの話は終わりにしましょう。どうせもうすぐ行くことになるのだし、実際に使ってみれば分かるわよ」
「まぁ確かにそうか」
こうなってしまえば無理やり聞くのもダメそうなので、俺は素直に黙ることにする。ノワの言う通り、どうせ後少しで魔法陣のもとに行くんだ。
というかアイファが一切会話に入ってこなかったな。どうしたんだ?
そう思いチラッとアイファの方を見てみると、目が合った。
「実は私もあの魔法陣を作成しない理由は知らなかいんだ。興味がなかったものでな」
口を俺の耳に近づけたアイファは、先生に聞こえないように小さな声で俺に囁いた。
アイファの淀みのない芯の通った声の囁きを耳元で聞くのは、非常に心臓に悪い。ただ囁かれただけなのに魔法で魅了されたかのよな衝撃を受ける。
そんな煩悩に塗れている考え事をしている間にも、先生の説明が進んでいた。
「14時に着くようにここを出発するけど、それまでの間に少しだけ説明するからね。魔法陣に乗ったら特殊な空間に転移するから、そこで起こる出来事に身を任せてね」
「先生、何が起こるんですか?」
ネイリア先生の発言に、キラニアさんが質問をした。
昨日もそうだったが、キラニアさんは物怖じせずに発言出来る子のようだ。クラスに1人でもそういう子がいると、疑問を解決してくれるからありがたい。
「何が起こるかは人によって全く違うんだよね。ある人は特殊な本を手に入れて魔法の手数が増えたり、ある人は時の流れが違う場所に行ってひたすら修業をすることになったり、ある人は特殊な薬の製造法を伝授してもらったり。本当に千差万別だね」
「なるほど。ありがとうございます」
ネイリアさんは先生の答えに満足して、深くお辞儀をして席に座り直した。先生もにっこり笑顔だ。
その後もちょっとした注意説明などをされ、後は時間になるまで休憩時間ということになった。
そんな休憩時間もノワとアイファと話をしてればあっという間に過ぎ、早速魔法陣へと移動することになった。
◆◆ ◆◆
「これが魔法陣か、すげぇな……」
「実物は初めて見るわね」
「ほう、凄いな」
眼の前には直径10メートル程の巨大な魔法陣が鎮座していた。目が肥えているであろうノアとアイファまでもが、純粋に感嘆の声を漏らしている。
その魔法陣は10メートルという巨大なサイズだと言うのに、びっしりと幾何学的な模様が書かれているのだ。素人が見てもひと目でこれは俺達が考えるのも出来ないくらいの労力をかけて、凄い効果を秘めさせた魔法陣なのだろうと判断できる。
むしろ芸術性すら感じられるほどだ。
「この魔法陣は最大で50人まで同時に入れるんだ。だからクラスごとに時間を分けてるって事だね」
ネイリア先生が魔法陣を指さしながら言う。後数分で定刻となるのだが、まだ最後の一人が出てきていないようなのだ。だから先生が話をして場を繋いでいる。
「君たちはどんな力を手に入れるだろうね。もう既に努力をして段々と力を手に入れている君たちが、更に新しい力を手に入れるんだよ。ワクワクしないかい?」
ネイリア先生の問いかけにみんなが共感する。頷いて共感を示したり、口には出さないもののソワソワとしながら高揚感を隠しきれない様子だ。。
そんなみんなを見ている俺もワクワクが止まらない1人だ。俺は未だに自分の力を十全に使えていない。テイム済みの魔物とはしっかりと意思疎通できるが、テイムされていない魔物からは凄く希薄でぼんやりとした感情のようなものしか感じられない。というかそもそも魔物をテイム出来ていない。
そんな俺も、今日から新しい力に目覚める可能性があるんだ。ワクワクしてしまうのも仕方ない。
「お、最後の1人が出てきたね」
魔法陣が淡く光り、そこから1人の女の子が出てきた。輝く金色の髪をくるくると縦ロールさせてツインテールにしている。ただ歩くだけで人目を引く、カリスマとも呼べる雰囲気を放っている女の子だ。なんとも嫌な思い出が蘇る子だ。
「あら、ノワじゃない」
「サラリナ・ウィンテスター」
黒と金の髪が対比の様に映え、2人の視線が交わる場所には火花が散っているかのように見えた。
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