第59話 修行。フッ!
掲示板で模擬戦の詳細を確認した翌日。
フブキとリオンとショウともふもふ睡眠をして、幸せな空間で疲れを癒やして目が覚める。もふもふがお腹の上で飛んでいる衝撃とともに。
ベッドから体を起こして外を見れば、まだ日が地平線から顔を出したばかりだ。
「リオン、ショウおはよう。起こしてくれてありがとう」
「おはよう王よ」
「おはようございます主」
「フブキは……まだ寝てるね」
お腹の上を見れば1匹だけまだ寝ている。
よくあの揺れで起きなかったな。
「むにゃむにゃ……雪……雪崩……遭難……」
「なんか大変な目に合ってない?」
「フブキが雪にやられることは無いですから大丈夫ですよ」
「そっか、なら良いか」
フブキを起こさないようにそっと持ち上げて、そっとベッドに置く。一切起きる様子もなく快眠そうだ。
「王よ、早速出かけるか?」
「もうちょっと待ってリオン。顔洗って着替えてくるよ」
「分かった。我とショウはあの場所で待っている」
「はいよー」
せっかちなリオンがショウを連れて窓から出ていった。あの2人は出かけるたび窓から出入りしているらしい。この高さでよくやるよ。
今日俺がこれだけ早く起きた理由は、勿論明日の模擬戦の為だ。その為だけってわけじゃないが理由の1つだな。
この前、俺は自身が強くなるという事を知った。
それまでは、テイマーの俺がいくら本格的に修行しても焼け石に水だと思っていたから、修行は空いてる時間にちょこっとやれば良いと思っていた。
が、自分が強くなるとなれば状況は変わってくる。本格的に修行すれば、その分結果もついてくる。
じゃあこれから毎日修行するしかないだろう。
強い人間はかっこいい。そしてモテる。この世の摂理だ。
下らないことを妄想しつつ、顔を洗って動きやすい服に着替える。
そして普段は持ち歩いていないが、ベッドの脇に立て掛けてある父さんからのおさがりの剣を持って外に向かう。リオンとショウをあんまり待たせるわけにはいかない。
向かったのは特寮の左側面の裏手。背の高い木が生え揃った中にある、少し開けたスペースだ。
特寮地下の訓練スペースでも良いのだが、朝は朝の心地よい澄んだ空気を肌で感じながら訓練したい。
だから対人訓練なんかの大きな音が出る訓練は、授業終わりの放課後に地下の訓練スペースでやることにする。今は走ったり筋トレをして基礎的な部分を増強しようと思う。後は父さんに教わった剣の型なんかはここでやっても良いな。
『来たか王よ』
『うん。おまたせ』
何処か気づかぬ内に覗かれる可能性もあるため、リオン達との会話は脳内で行う。まぁ普通にうるさくならないようにという配慮も兼ねてだ。
『じゃあ最初は走ろうかな。寮とかこの木が生えてる周辺を走れば相当な距離になるでしょ』
『うむ、付き合おう』
リオンに先導して貰い、適当に寮とその周辺を走る。ショウは俺の横に並んで一緒に走ってくれてる。
リオンは身体が小さいのに、結構走るのが早い。リオンより何倍も大きい人間の俺でも、普通に全力に近い速さだ。
しかもずっと走り続けてもリオンの速度が減速しないという事は、全然本気じゃないのだろう。
走ること30分と少し。リオンに置いて行かれて、待ってもらって追いついてを繰り返しながら、スタート地点の木々の中に戻ってきた。
相当な速さで走り続けたので、全身から大量の汗をかいた。そして、これだけ走ってみて、やっぱり身体能力が上がっていると確認できた。
『皆をテイムする前はこんなに走れなかったよ。やっぱ身体能力が上がってる』
『だろうな。我らをテイムして身体能力が上がらない方がおかしい。これからもこの比ではないくらいに強くなるぞ』
『それは楽しみだな』
走った直後で息は切れていても、脳内での会話だから途切れることなく続けることが出来る。
少し休憩した後は、身体が冷えない内に次の運動に移動する。
これは俺が小さい頃に父さんに貰ったアドバイスだ。最初は走って体を温めて、その後呼吸を整えたら体が冷える前に剣の方の訓練をすると良い。
父さんは俺にそう教えてくれた。実際に父さんも毎日そういう流れで訓練をしていたみたいだった。
それに従って早速剣の型の訓練を始める。
これは俺が父さんから教わった剣の型を繰り返すだけの訓練だ。俺が父さんから教わった型は8種類。
1.自身の頭上まで剣を掲げ、真下にまっすぐ剣を振り下ろす。
2.右上から左下に振り下ろす。
3.右下から左上に斬り上げる。
4.左上から右下に振り下ろす。
5.左下から右上に斬り上げる。
6.右から左に真横に振り斬る。
7.左から右に真横に振り斬る。
8.真っ直ぐ剣を相手に突き出す。
この8種類だ。
「フッ! ハッ!」
気合を入れて剣を振ると、自然と声が漏れる。
8種類を丁寧に繰り返し、意識して真っ直ぐ触れるようにする。
この前のゴブリンとの戦闘を思い出しながら練習する。
敵が飛び上がってきたら、降りてくるのに合わせて下から斬り上げるも良い。もしくは、剣を突き出すのを良いかも知れない。
飛び上がらずに真っ直ぐ突撃してきたら、すれ違いざまに真横に振り切るのも良いな。正面から受け止めるよう上から真っ直ぐ振り下ろすのも良いかも。
そんな事を1人で考えながら剣を振り続ける。そうしていれば次第に剣を振る音も変わってくる。なんだか今の方が上手く剣を振れている気がする。
うん、なかなか良いんじゃないか? 流石に俺が昔見た父さんの剣より綺麗ではないものの、確実にこの前よりは良くなった。
『どうだった? ショウ』
『私は剣を使わないので詳しくはないのですが、良くなってきてるとは思います』
『だよな、ありがとう。……所でリオンはどこに行ったんだ?』
自然とショウに話しかけたが、よく周囲を見てみればリオンの姿がない。リオンのことだから大丈夫だとは思うが、気づかぬ内に居なくなったとなれば気にもなる。
『剣の訓練時は出来ることが無いから走ってくると言ってどこかに行きましたね』
『自由だなおい……まぁ良いんだけどね』
まぁ俺に細かく行動を報告する必要もないし、俺がみんなの行動を制限するのもおかしい。これくらいの緩さが丁度いいだろう。
『よし! じゃあ俺はもうちょっとだけ剣を振るよ。ショウも行きたい所があったら行ってもいいぞ?』
『いえ、私は主のそばに居ます。気にしないで訓練を続けて下さい』
『分かった』
ショウに見られながら剣を振り続ける。
右上から左下。左下から右上。一歩引いて中段の構えを整えて、飛び込んできた敵に剣を突き出す。
明日の模擬戦に向け、何度も何度も剣の型の訓練をし続ける。
――見えない所で蠢いている、不穏な気配には一切気づかずに。
◆◆ ◆◆
「模擬戦の内容を確認した。予定とは違ったが、やることは同じだ。全員事前に決めたクラスを潰すように動け。分かったな?」
「あぁ分かった。やってやるよ」
「分かったわぁ。……あら? なんだか良いオスの匂いねぇ」
不遜な狼、血気盛んな鳥、のらりくらりとしている猫。
「……」
「僕はやること終わったら楽しんで良いんだよね?」
「フリーナはアンタの思い通りにはならない……」
「みんな……それにあれって……」
何も話さない馬、好戦的な兎、不満を隠さない狐、1人視野の広い熊。
作戦日の前日の明け方に集まった7人の獣人は、静かに静かにその時を待つ――
「じゃあ今日はこれで解散だ。……バビディちょっと残ってくれ」
「ん? あぁ良いぜ」
――ある者は前向きに、ある者は何かに思いを馳せて。
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【あとがき】(2024年9月12日)
みなさんどうも。笹葉の朔夜です。
近況ノートに『大陸』『スレイン王国』『王都』『学園』の図を投稿しました。
筆者が執筆する際の資料を活用しましたので、手書きになっています。少し汚いのはすみません。
皆さんの想像を補強してくれると思いますので、是非読んでみて下さい。
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