第13話 テイム。おおう

「え?」


 なぜだかシュミレイは俺が魔物をテイムしに来たと知っている。

 なんでだ、俺はテイマーだとは言っていないし、情報が何処から漏れたか分からない。シュミレイは公爵家の人間なのか? それとも……


「おーい、どうした。もしかしてテイムじゃなかったのか? じゃあ倒しちゃうぞ?」


 そう言ってシュミレイは大剣をカチャリと鳴らした。

 罠か? 俺にテイムだよって言わせるための罠なのか!? 


 そう考えている内にシュミレイは大剣を上に挙げ、振り下ろす段階まで来てしまった。そして大剣が……


「まって! テイムする! するから!」

「なんだよ合ってるじゃねぇか。早く言えよ」


 シュミレイの大剣は兎の頭に当たる寸前で止まり、兎は未だにバタバタと元気に逃げようとしていた。


 俺がテイマーだとバラしてしまったのだが、未だになんでシュミレイが俺がテイマーという事を知っていたのかが分からない。悪い人には見えないし、ここまでバラしてしまったのならもう本人に聞くしか無い。


「シュミレイはなんで俺がテイマーだって知ってたんだ?」

「あーいや、知ってたわけじゃないぞ。お前がこの時期特有の魔物討伐依頼を知らないって言ってただろ? てことは冒険者ではないか、依頼にある討伐なんかは考えていないってことだ」


 お互いに草原に座り込み、話をする体勢を取る。


「それなのにレッサーラビットとミニマムスライムを探してるってことは、討伐以外にどうにか活用するってことだろ。その2種類の魔物からは貴重な素材も取れないし、それから何かを生産しても大した経験にならない。だから、生産系は違いそうだって思ってな。そしたらもう後は駆け出しテイマーくらいか~。って予想しただけだ。自分で討伐じゃなくて探しに来たとも言ってたしな」

「シュミレイ頭良かったんだな」

「何だお前失礼だな!」


 いやぁこんな脳筋みたいな人が論理的に答えを導き出せるとは思わなかった。いや別に馬鹿にはしてないよ? うん。



 最初の目的だったミニマムスライムではないのは残念だが、レッサーラビットも目的の1つであることには変わりないし、ここまでミニマムスライムが見つからないのならもう今日は無理だろう。

 ということでレッサーラビットをテイムしてみる。


「で、テイムってどうやるんだ?」


 シュミレイがレッサーラビットを俺に手渡し、興味津々な様子で聞いてきた。

 ちなみにレッサーラビットは暴れても俺が平気で捕まえられる程度の魔物だ。本当に無害すぎる。

 

「俺もまだテイムをしたことがないから調べた内容だけど、テイムをするには主に2種類の方法があるらしい。1つ目は魔物を瀕死にして屈服させて配下にする方法。2つ目は好物を与えて仲間にする方法だ」

「痛めつけるか餌付けするかってことか」

「う、うーん、言い方は悪いけどまぁそんな感じ」


 シュミレイはそうか……と言うと何もない空間にまた手を突っ込み、今度は手のひらサイズの小さなナイフを取り出した。


「ほら、これ貸してやるよ」

「え? なんでナイフ?」

「いや殴るよりも切ったほうが手っ取り早いだろ? 瀕死にするの」


 瀕死にするの……あ、そっちの方法でテイムすると思ってんのかこいつ!


「俺はそっちの方法でテイムしないよ! ちゃんと好物持ってきてるから!」

「あ、なんだよそうだったのか。てっきり瀕死にするもんだと思ってたぜ」


 シュミレイはばつが悪そうにナイフをしまった。

 そんなシュミレイに呆れながらも、俺はポケットから1つの小さな包み紙を取り出してその包み紙を開く。こっちの包み紙の中にはレッサーラビット専用の餌が入っている。


「それがレッサーラビットの好物なのか? 食べ物には見えないな」

「そう、これがレッサーラビットの餌だよ」


 レッサーラビットの好物だと言われているこの餌は、見た目は親指の先サイズの深い緑の丸団子で、野菜クズや果物の皮なんかをベースとなる材料に混ぜているそうだ。専用の餌だな。


 テイマーはマイナーかつ不遇職ではあるが、それでも一定の人口は存在する。そして俺が住んでいるのは仮にも王都と呼ばれる大都市であり、この国で最も大きく最も人が多い街である。

 探せば初心者御用達のレッサーラビット用の餌くらい売っているのだ。更に言えば、公爵家のツテを使えば尚更簡単に手に入る。


「ほら早く食べさせろよ」


 俺が初めてのテイムに緊張していると、シュミレイが急かしてくる。

 

「分かってるよ。ほら、餌だぞ。良く噛んで食べるんだぞ」

『キュキュイッ』


 レッサーラビットは暴れるのをやめ、恐る恐る餌に鼻を近づけた。匂いで何か食べられないものが混ざっていないか確かめているのだろう。


 スンスンと鼻をひくつかせながら匂いを嗅いでいる姿をじっくり眺めていると、しばらくして餌を食べてくれた。

 むしゃむしゃと両手を使って細かく食べている。魔物とは分かっていても非常に癒やされる光景だ。


「お~よく食べるんだぞ~可愛いなぁおいおい~」

「デレデレ過ぎないかヴェイル」

「なんだよシュミレイ。お前も食べさせてみろよ可愛いぞ」


 なんだかシュミレイが文句を言ってきたので、1つ餌を渡した。

 まったく、この可愛さが理解できないのかこいつは?


「ほ、ほら、食べてみろ」


 シュミレイが手のひらに餌を乗せて恐る恐る手を出すと、レッサーラビットは今度は警戒もほぼせずにすぐに食べていた。


 むしゃむしゃ、むしゃむしゃ


『キュイっ!』

「か、可愛いな……」


 シュミレイがにへらっと気の抜けた笑い方をした。

 シュミレイは子どもも好きみたいだし、この感じだと小動物も好きそうだな。もしかして結構乙女……!?


「なんだよ」

「いや、なんでもないよ」


 そのままシュミレイと2人で餌を与え、レッサーラビットは手の平に頬ずりしてくるまでに仲良くなった。

 これならテイムできるだろう。


「そろそろテイムしてみるよ」

「お、おう。頼んだぞ」


 ここからのテイムの仕方は簡単だ。職業を獲得した際に自然と使い方が分かるようになった魔力を、どこでも良いので体の一部分を触れ合わせて送るだけだ。仲間になれ~仲間になれ~って感じで。

 そうすることで魔物も自分の魔力を送り返してくれて、お互いの魔力を魔核に刻むことでテイム出来るらしい。


 

 俺はその方法をもう一度脳内で復唱し、ゆっくりとレッサーラビットに魔力を送った。ゆっくりゆっくり、レッサーラビットがびっくりしないように。かつ全力で。


『キュッ?』


 レッサーラビットは俺の魔力を感じたのか、大きな反応は見せずに小首をかしげてこちらを見つめてきた。魔力も送り返されていない。


 んー少ないのか?


 そう思いほんの少しだけ多く送る。まだか。また少しだけ多く送る。ちょっと反応があったような……結構多めに送ってみるか。


『キュキュッ!?』

「ぶへぇっ!」


 魔力を多めに送った瞬間、レッサーラビットは何か化け物でも見たかのように跳ね上がり、俺の顔に飛び蹴りを食らわせて逃げていった。


「な、なんでぇ……」

「何やってんだお前」


 俺は急に飛び蹴りを食らった衝撃で固まり、シュミレイは可愛い兎が逃げちゃったショックで放心していた。


「なんでだ、なんで逃げたんだ。本にはここまで来たら断られて殺されることはあっても、絶対に逃げることはないって書かれてたのに……」

「なんでって言われても、お前が何かミスっただけだろ」

「いやまぁそうなんだろうけどさ」


 結局さっきのレッサーラビットの姿はもう見えなくなってしまった。それに先程シュミレイとその他冒険者たちが魔物を大量虐殺したので、ここら辺の魔物が本当に居なくなってしまったと予想できるので、今日の探索はここで終わりとなった。




 東の森から大量の魔物が出てきたことも、なんで俺があそこまで良好な関係を築けたレッサーラビットに拒絶されたのかも分からずじまいだ。

 まぁでも大量の魔物の方は俺に何とか出来ることじゃないからシュミレイに任せよう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る