第12話 魔物。えぇ…
「なんでだ……」
またしても俺は草原で大の字になっていた。
「流石に魔物居なすぎじゃない? 流石にだよ流石に……」
魔物を探し始めてから4時間、本当に魔物が1匹も居ない。冒険者はちらほら見かけるけど、みんな凄く暇そうにしている。
そりゃそうだよねぇこんなに魔物居ないんだもん。忙しくする理由がないよ。
そう思いながら頭を悩ませていると、1人の女性がこちらに近寄ってきた。
「君も魔物を探しているのかい?」
「はい? そうです。でもなかなかいないですね」
話しかけてきた女性は、綺麗な朱色の髪を首まで伸ばしていて、その色が非常に似合う勝ち気そうな顔つきをしていた。身長も女性にしては高く、カッコいいという表現が似合う細身の若い女性だ。
「そりゃそうだ、この時期は討伐依頼が高報酬で出てるからな。魔物を倒さなくても見回りをするだけで報酬が出るとなったらみんな依頼を受けるさ」
「え、そんな依頼出てるんですか!?」
「そうだぞ、やっぱりお前も知らなかったのか?」
「知りませんでした……」
俺は今日は冒険者ギルドに行っていないし、昨日は依頼を受けるつもりがなかったから依頼ボードの方を見ていない。
それに今まで冒険者ギルドに行くのも父さんと一緒に行って、俺は手伝いのようなものだったから、この時期にのみ出るとか期間限定的な依頼を知らないのだ。
「やっぱりな。この時期はお前みたいなこの時期特有の依頼を知らないガキが多いんだ。それで今日食べる飯を買うための金も稼げずに、腹を空かせるガキが多いこと多いこと……ま、お前はそんなに貧乏そうでもないから心配ないだろうが。念の為な」
「そうだったんですか。俺は食事に困るほど貧乏ではないので大丈夫ですよ」
この人は少し口が悪いが、凄く良い人なのだろう。この人の言う腹を空かせるガキっていうのは、多分貧民街の住民たちのことだ。俺の家なんて比にならないほどの貧困問題を抱えている人達。
この人は自分の稼ぎにもならないのに、そんな子供がお腹を空かせることが無いように見回りをしているらしい。良い人だ。
「良い人ですね……えっと、名前聞いてもいいですか?」
「あー自己紹介をしてなかったな。俺はシュミレイだ、お前は?」
「俺はヴェイルです。よろしくお願いしますシュミレイさん」
「あーずっと思ってたが俺に敬語なんて使わなくて良い。俺みたいな荒くれ者には、敬語みたいな言葉は逆にムズムズしちまうんだよ。シュミレイって呼んでくれ」
「分かり――分かった。よろしくシュミレイ」
「おうよろしくなヴェイル」
俺達2人は握手を交わし、なんだかこの僅かな時間で仲良くなれたような気がした。
「それで結局ヴェイルは何をしに来たんだ?」
「俺はミニマムスライムかレッサーラビットを探しに来たんだ」
「ふーん、超初心者用魔物だな。見た目的にも職業を授かったばっかか? 挑戦し始めた駆け出し冒険者って所だな」
シュミレイはそれ以上深く聞かず、なにか考えているようだった。
「よし!」
「ん? どうしたシュミレイ?」
シュミレイは座っていた自分の太ももをパチンと叩くと、急に立ち上がってニカリと笑った。
笑い方熱血感凄いな。
「魔物呼びの笛を使おう!」
「は? 何言ってんのシュミレイ!?」
魔物呼びの笛。通称『命知らずの必需品』。
魔物呼びの笛はその名の通り魔物を呼ぶ笛であり、上手く活用すれば素材の大量確保や効率の良い修行となるが、途轍も無いデメリットが存在する。
そのデメリットとは効果範囲が広すぎるということと、全ての魔物が笛の使用者に向かうことだ。
効果範囲は優に1キロを超え、強い弱い関係なく周囲に存在する魔物を片っ端から引き寄せる。冒険者の中ではこれを使うやつは死にたがりだと言われているほどだ。というか冒険者ではない俺でも知ってるくらいだ。
「この笛を知ってるのか」
「いや取り出すの早いよ! そんな危ない笛しまって! どれだけ危険か分かってるの!?」
「ん? あぁよく分かってるぞ。俺もこの笛のせいで何回も死にかけてるからな。だからこそ分かる。ここなら平気だ」
「いやいや死にかけてるって……ちょ、なに吹こうとしてん――」
――ピィィィィィ
小さな小さな子どもが癇癪を起こして泣いているような音。言い方は悪いが少々不快な音色だ。そして超特徴的なこの音を冒険者は全員知ってるわけで……
「ちょっと! お前何をしてんだ!」
「おい! ってまたお前かシュミレイ! てめぇが死んだら俺等に来るんだぞ!」
「あんた強いからって何でもして良いと思ってんだろ!」
「くそっ! なんで今周囲に子供が居ないんだ! 子ども連れてこい! シュミレイを落ち着かせるんだ!」
「いや隣に子供いるだろ! なんでそれで暴走してんだアイツ!」
などなど。
うわぁ……この感じシュミレイ初犯じゃないわこれ。何回かやらかしてるわこれ。もしかしてだけどヤバい奴なんじゃないかこいつ?
「おいおい! お前ら酷い言いようだな! お前らも分かってるだろ? この時期は俺達のお陰で魔物が少ない! 笛を吹いた所でそんな量来ねぇよ!」
と、犯人は供述しているのですが……。
「お、おぉ? なんか多くねぇか?」
「シュミレイ、どう見ても大量の魔物なんだけど……?」
「うーん、なんでだろうな。あの方向は東の森か? なにか異変が起こってるのかも知れないな」
「真剣に考えてる所悪いけど、今起こってる異常はシュミレイのせいだよ」
「たはは! 違いねぇ! いっちょ暴れてやるかぁ!」
そう言うとシュミレイは急に両手を伸ばし、そして両手は何処かに消えてしまった。いや、どっかにめり込んでる?
その現象を不思議に思い見ていると、なにもない左右の空間からぬるっと1本ずつ大剣が出てきた。
「大剣で双剣……?」
「きひっ! ぶち殺しまくれぇぇぇぇぇ!!」
シュミレイは先程までの熱血感のある笑顔ではなく、何かに取り憑かれているかのような狂気に満ちた笑顔を見せて、魔物の群れに突っ込んでいった。
相対する魔物の群れは……スレイブゴブリンにレッサーコボルトにフォレストウルフが多いな。
スレイブゴブリンはガリガリの痩せた身体でシュミレイに飛びかかり、レッサーコボルトはゴブリンを盾にして突進を仕掛けてきている。フォレストウルフは持ち前の機動力で一撃離脱を繰り返している。
だがその全てをシュミレイは正面から蹴破っていた。
身の丈ほどの大剣を2本持って暴れるシュミレイの姿は、まさに悪鬼羅刹のようで、少しだけカッコいいと思ってしまった。
「きひっ! ヒヒヒッアハッハハハハーーー! おいおいおいそんなもんかぁ! もっとかかってこいやぁ!!」
やっぱりカッコいいってのは撤回しようと思う。もうほぼ魔物だあれ。カッコいい通り越して憧れるまである。最高かよ。
「アイツ子ども好きの良いやつなんだけど戦ってる時がなぁ……」
「美人なのに……美人なのに……」
「こえぇよまじで。あれで子ども好きというのが逆に心霊現象というかなんというか」
「逆にってなんだ逆にって。強すぎて怖いってのは同感だがな」
回りの冒険者からはそんな評価を受けているようだった。
分かってないね。あれぐらい振り切ってるからこその美しさじゃないか? 勝ち気な姉御肌の美人さんが、あれだけ狂ったように魔物を殺戮しているからこそ、シュミレイの美しさが映えるというものじゃないか。もはや芸術だよあれは一種の。
なんて偉そうに評論家ぶっていると、あっという間に戦闘が終わってしまった。周囲には大量の魔物の死骸が転がっている。真っ二つに両断されている魔物もいるため性格な数は分からないが、ざっと100体は居ると思う。
周囲の冒険者たちもシュミレイの攻撃に巻き込まれないように手伝っていたようだが、この死体の殆どはシュミレイが倒した魔物だ。シュミレイ超強い。
「ほらヴェイル、お目当ての魔物だ」
俺が死骸の方に注目していると、シュミレイが一匹の魔物を捕まえて持ってきた。小さくてふわふわした角も何も無い白い魔物だ。
「これってレッサーラビット?」
「おう。ミニマムスライムは見つかんなかったからな、こいつも探してたろ? ほら、早くテイムしろよ」
「え?」
いやありがたいけど、めちゃくちゃありがたいけど。
……なんでシュミレイは俺が魔物をテイムしに来たって知ってるんだ?
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