第11話 資料。ちょ、おい

「ここよ~」


 受付嬢さんについていくと地下に案内された。そこは確かに資料室であり、俺が想像しているより沢山の資料が置かれていた。というか乱雑に積み上げられていた。

 ほんとにここ資料室か? 外からの光もあんまり入っていないし、本を読むための机とかもないぞ?


「どうしたの? 何か疑問でもあった?」

「え、いや~ここって本当に資料室なのかなって思って。なんか冒険者たちが入って調べ物をするような部屋に見えなくて」

「え~そりゃそうよ。ギルド職員以外立ち入り禁止だものこの部屋……あれぇ? じゃあ坊やもここに来ちゃ駄目じゃない?」

「はい? ……いやいやいや駄目でしょう! 何て所に案内してるんですか!」


 こいつやりやがった! どうもおかしいと思ったんだ! 冒険者が見るための資料がこんな地下にあるわけないよな! こんなギルドの裏側みたいな所来ないよな!


「な、なにしてるんですか! お姉さんは職員だから問題ないですけど俺は部外者ですよ!? 見つかったら怒られるの俺じゃないですか!」

「あらあら~」

「あらあらじゃなくて!」


 なんて騒いでいると、部屋の扉がノックされた。あ、終わった。


「誰かいるのか? この時間帯は資料室の申請は無かったはずだが……」

「ちょっ人来ちゃったじゃないですか! しかも申請が必要だなんて……! 無断侵入に申請も無し、お姉さんはサボり……終わった……」

「あらあら~」

「だからあらあらじゃなくて……」


 そうこうしている内に部屋の扉が開かれ、ノックをした人物が扉の奥から顔を覗かせた。


 その男は子供が見たら泣きそうな程に強面であり、顔のど真ん中を斜めに跨ぐ様な大きな傷が走っていた。声も野太く低く、それに比例しているかのように筋骨隆々の大男だ。


 この見た目にあの話し方、ギルドマスターだ……これ絶対マスターだ。どうしようどうしよう無断侵入だし絶対に衛兵に突き出される。……最悪ブルノイル公爵家の金券使うか? いやでもそれは公爵家に迷惑が……。


「お前……一体そこで何をしているんだ……!」


 強面が歪み、低い声が更に低く唸る。


「ここは資料室だ、それに今は申請時間外。そして受付嬢たちはみんなせっせと働いている。なのになんでお前がここにいるんだ……」

「いやこれは――」

「ギルドマスター!」

「へ?」

「あらあら~」


 ギルドマスター? あらあら~? えっと、え? ……え!?


 なんど男性を見ても、俺の後ろにいる女性を見ている。何度交互に顔を見ても、女性を見て言っている。


「ギ、ギルドマスターだったの!?」

「あらあら、言ってなかったかしら? 私スレイン王国王都支部のギルドマスターよ。ミレイラって言うわ、よろしくね坊や」

「あ、どうも丁寧に。ヴェイルって言います。……じゃなくて! あ、あの、すみません俺はここが部外者以外入っちゃいけないって知らなくて! 彼女……ミレイラさんに資料室の場所聞いたらここを案内されて……!」

「はぁ……」

 

 俺が必死に強面の男性職員に説明すると、強面さんは眉間を抑えて大きな大きなため息をついてしまった。


「ヴェイル、と言ったか。大体の事情は察した。このアホギルマスは有能なんだが抜けてるところが多いアホなんだ。今回の件はアホの責任で勿論不問にするし、というかもうどうせならここの資料室は使ってもらって構わない。アホが悪いから何も咎めたりはしないから安心すると良い。サブギルドマスターとして保証する」

「あ、ありがとうございます!」


 この強面さんはどうやらサブギルドマスターのようだった。それにこの感じ、だいぶミレイラさんのせいで苦労しているようだ。


「もう~シュバインちゃん顔が怖いわよ。それにそんなにピリピリしていたら顔の皺が増えちゃうわ。後アホって言い過ぎよ。傷ついちゃうわ」

「なっ! 誰のせいで苦労してると思って……!」


 強面さん改めシュバインさんが額に青筋を浮かべながら拳を握りしめている。ゴブリンも逃げ去るような憤怒顔だ。


「あらあら~暴力は駄目よ? シュバインちゃんは弱いんだから怪我しちゃうわ」

「くっ! ……はぁ、俺が弱いんじゃなくてお前が強すぎる――言っても無駄か。あーもう良い、俺は業務に戻る。アホギルマスはヴェイルと一緒に本でも読んでろ。じゃあなヴェイル、あのアホのお守りは任せた。……アホギルマスは見る目だけは確かだからな」

「え、ちょっとシュバインさん!」


 それだけ言うとシュバインさんはその図体からは考えられないほどの速さで部屋を後にしたのだった。最後の言葉が聞こえないくらいに早く。

 いやはっや、どれだけ早くここを去りたかったんだよ。


「シュバインちゃん逃げちゃったわね~。まぁそれは一旦置いておいて、どの本を探してるのかしら? お姉さんがなんでも教えてあげるわよ」

「えっとじゃあ――」



 そうして今日は1日中ミレイラさんと本を読むことになったのだった。


 本当はとりあえず知りたいことだけを調べて王都の外に出る予定だったのだが、職員専用の資料室は資料が豊富で、なおかつミレイラさんはギルマスと言うだけあって知識も豊富だった。

 この機を逃すわけにはいかなかったので、知りたいことを片っ端から調べて知識を吸収する日にしたのだ。


 テイマーの事、魔物の事、学園の事。知りたいことはほとんど知れた。ただ、1つだけ調べきれなかったので、後日中央図書館に行くことにする。






 そして翌日。

 今日は調べたことを活用するために王都の外にやってきた。いつも俺が行く小さな森ではなく、少し小高い草が生えている草原だ。


 本日の目的はそう! 魔物だ! ババーン!


 俺の職業はテイマー、テイマーというのは魔物が居ないと成立しないわけであります。俺は勿論魔物のペットなんて飼っていないし、そんな暴挙に出るテイマー以外の職業持ちはほぼ居ない。トレイナーとかが馬の魔物とかを飼育しているのは例外ね。



 それで昨日テイマーが初めてテイムするのにおすすめの魔物を調べたというわけであります。こういう情報は冒険者ギルドが一番なんだ。


 テイマーギルドという手もあったのだが、魔物をテイムしてから行きたいっていうこだわりがあるから辞めた。

 そんで調べた結果、俺的おすすめの魔物は5種類。

 ・レッサーラビット:角も無い、しかもレッサー。ほぼ兎。

 ・ミニマムスライム:小さいスライム、無害。

 ・ホワイトバード:攻撃性無し、癒やし、希少。

 ・雪兎:真っ白の兎、ほぼ愛玩動物。

 ・紫蚕:紫色の糸を吐く蚕、生産系に重宝される魔物、無害。

 

 とまぁこんな感じ。

 でもこれはあくまでも初心者テイマーにおすすめの魔物という大きな括りであり、スレイラ王国王都の初心者テイマーなら雪兎と紫蚕は対象外だ。王都の周囲に雪兎と紫蚕はそもそも生息していないからな。

 ということで候補はレッサーラビットとミニマムスライムとホワイトバードなわけだが、ホワイトバードは希少なため、テイムするのは時間がかかって現実的ではない。そもそも出会えないレベルだろう。つまりは実質2択なわけで……


「よし、まずはミニマムスライムを探そう!」


 とりあえずミニマムスライムに決定だ。



「おーい、スライムちゃんやーい」


 父さんが昔使っていた剣を片手に、見通しの良い草むらを闊歩する。勿論勝手に借りてきたのではなくちゃんと借りると父さんに言ってあるぞ。


 ミニマムスライムは見つけるのが大変な魔物だ。名前の通り小さく、この背の高い草むらの中では草に隠れて見つけづらいのだ。


「でも森の方に行っちゃうと強めの魔物出てくるしなー。やっぱ草むらでいいや、俺弱いし」


 そう思い直して魔物を探すこと1時間。


「い、いねぇ……ミニマムスライムどころか魔物が一匹も……」


 俺は背の低い草むらに大の字になって寝っ転がっていた。

 仕方ないだろう。1時間、ずっとこの広い草むらを探し回っていたのだ。いやまぁ1時間動くこと自体は別にそんなに苦でもないのだが、魔物が1匹も居ないというのが心に効いた。


「そりゃそうか、王都近郊の草むらなんて冒険者に狩られすぎて超安全地帯だよな」


 最初からそれは知っていたが、俺みたいな弱い職業の人間は強い魔物がいる森に入るべきじゃない。草原がお似合いだ。


「もうちょっと、頑張ってみるか」


 萎えそうな心に活を入れ、もう少しだけ頑張ってみることにした。

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