第65話 「躍進」 sideキラニア
【まえがき】
どうも。作者の笹葉の朔夜です。
本日は、いつもに比べて少々量が多くなってしまいました。ゆっくりお楽しみくださると幸いです。
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「あと2分ではじめるよ~!」
先生の言葉に私は焦る。
この模擬戦はとっても重要だ。どう考えても成績の大部分を占めていることが予想できる。
しかもこの結果次第では寮だって変わる可能性があるらしい。私は今、下寮に住んでいる。下寮でも普通に快適だし文句はほとんどないけど、3人部屋だからもう少し自分の空間が欲しい所だ。
だから良い成績を残したい。せめてクラス代表10人には入りたい。けど、悲しいことに友達がいない。だから一緒に行動してくれる人が居ない。
「どうしよう……」
不安な気持ちで周囲を見ていると、クラスメイト達はどんどんとグループを形成して話し合いをしているのが視界に入る。中にはもう移動を始めてる人もいる。いや、後2分しかないんだからそれが当然だ。
このままここに居ても、開始と同時にひとりぼっちの私の場所がバレてるだけでメリットがない。
もう他の人と一緒に行動できるって思わないほうが良い? どうしよう、1人で行動するしかない?
そんな風に悩んでいると、2人の男女が私の所にやって来た。
「ちょっと今大丈夫かな?」
2人の内、背が高くて体格の良い茶髪の男性が話しかけてくる。
凄く大きいけれど、顔立ちが優しいお陰かあまり圧迫感はない。そこら辺の細い大人よりも大きそうなのに不思議だ。
「えっと、なんでしょうか?」
「僕はミュード・エルノイア。それで、こっちがキキ・アイビュード」
ミュードと名乗った男性が丁寧に挨拶してくれる。挨拶の姿勢や、名字があることからもこの2人は貴族だろう。いったいお貴族様が私に何の用なのだろう。
「えっと、キラニアです。私にどういったご要件でしょうか……?」
「そんなに堅苦しい言葉遣いをしなくていいよ。クラスメイトだし、僕はそういうの気にしないから。こっちのキキちゃんもね」
「はぁ」
貴族から出るとは思えない言葉に気の抜けた声が出てしまう。これも普通に不敬と捉えられるかも知れないのだが、ミュード様は朗らかに笑っている。
「それで、キラニアさんに話しかけた理由なんだけど、僕達と一緒に行動しない?」
「私がミュード様達とですか?」
「ミュードでいいよ。キラニアさんと一緒に行動したいって思ってたんだ。……っていうかキキちゃんも話してよ! なんで僕だけなの、言い出したのキキちゃんでしょ! なんか僕が女性を口説いてるみたいじゃないか!」
「初めて会う人……緊張する……」
私の様発言にミュードさ……君が反応する。そしてここに来た時から一言も話さないキキさんを揺さぶる。
キキさんはどうやら極度の人見知りみたいだった。人見知りでも、暗い感じというよりは隅っこに隠れてる子猫みたいな守りたい感じだ。
だからミュードくんに隠れてたんだね。
2人共、本当に貴族らしくない、良い意味で変な人だ。
「はぁ……ごめんねキラニアさん。キキちゃんは人見知りなんだ。悪い子じゃないよ」
「えっと、はい。キキさんが悪い人じゃないのは、なんとなく見てて分かります」
「――開始だよーー!」
私とミュード君の間で生暖かい空気が流れていると、唐突に先生の模擬戦開始の合図が聞こえてきた。
そうだ、さっき2分後に開始って言ってたんだからもう始まってもおかしくない。ここに居たら駄目だ、とにかくどこかに隠れて作戦を練らないといけない。
「キラニアさん! 取り敢えずここから移動しよう! 移動しながら話そう!」
「分かった! 行こう!」
ミュード君も同じ考えだったようで、キキさんと3人で大きめの岩の方に向かう。
「取り敢えずあそこに隠れて続きを話そう!」
ミュード君が指差したのは、戦闘が多そうな中央の岩山から1番遠い大岩だった。
確かにあそこならあんまり人も来なそうだ。
「分かった!」
特に反対意見も無いので素直に指示に従って大岩まで向かう。
周囲を気にしながら走ったことで、多少無駄な時間はできたものの数分で目的の大岩に到着した。
「ふぅ……焦ったね」
「うん」
ミュード君が額の汗を拭きながら優しい笑顔でキキさんに話しかける。キキさんも薄ら笑って返事をしているのを見ると、この2人は本当に仲が良いんだと分かる。
そんな2人を眺めていると、ミュード君がこちらに体を向ける。
「なんか流れで一緒になっちゃったけど、キラニアさんはそれで良かった?」
「うん。大丈夫だよ」
「それなら良かった。話し方もそっちの方が親しい感じがして嬉しいね」
「あっ」
私はそこで敬語を忘れていたことに気づいた。よくよく思い出してみたら、先生の開始の声の時から敬語じゃない。
「あんまり気にしないで? 本当に僕達は気にしないから。むしろそっちの方が良いよ! ね、キキちゃん」
「うん。私もそっちの方がいい……あと、キキちゃんって呼んで欲しい……」
「えっと……キキ、ちゃん?」
私が遠慮がちにキキちゃんと呼ぶと、キキちゃんは少し照れくさそうに喜んでいた。
えっこの子可愛すぎない? は? 最高じゃん。守ろうこの子。
「じゃあ改めてよろしくって事で、お互いの情報交換をぱぱっとして、すぐに行動に移ろう!」
「そうだね。そうしよう」
「うん」
ミュード君の言葉に全員が賛成し、お互いの情報を交換する。
ミュード君は『硬鉄城壁使い』、キキちゃんは『祈りの広義支援術師』という職業らしい。簡単に言えば、盾役と回復・支援役だ。
そして、私を誘った理由なのだが、2人の職業を聞けば自ずと理解出来た。
2人は攻撃力がない。
ミュード君が耐えてキキちゃんが回復するという手段で耐久は出来るものの、決定打が致命的に足りない。
そんな時、職業強化の魔法陣から帰ってきた私を見た。血を流してフラフラしていても、しっかりと立って帰ってきた女の子。そして、その瞳に強い意思を感じたと言う。
それで攻撃役の足りない自分達のパーティーに誘いたいと考えていてくれたらしい。そんな風に褒められるのは恥ずかしいけど、悪い気はしない。
「――っていう感じだけどどうかな?」
2人の話を思い出しながら、ミュード君が立てた作戦に同意する。
積極的に敵を倒す。
実に単純明快で私好みの作戦だ。
「じゃあ行こうか!」
「行こう!」
「うん」
隠れていた岩山から飛び出した瞬間に、女子3人組と接敵する。
まずい。普通に周囲を見ないで飛び出してしまった。ろくに陣形も組んでいないこの状況で、準備万端の敵に攻撃されたら誰かしらが怪我をする。私と硬いミュード君ならまだ良いけど、回復役のキキちゃんが怪我をするのだけはダメだ。
そう思いキキちゃんを庇おうとした瞬間、ミュード君が前に飛び出す。
「『鉄製城壁』!」
「きゃあっ!」
ミュード君が叫んだ瞬間、私とキキちゃんを中心に直径4m程の城壁が出来た。硬い鉄で出来た城壁だ。そっと触ってみても、ひんやりとしていてカチコチだ。
女子3人組は唐突に地面から生えてきたそれを見て驚きの声を上げている。
「なにこれ……」
「ミュードの技。本当に硬い」
鉄で出来た城壁。石なんかよりよっぽど硬いし、規格外にも程がある。鉄を斬れる剣士や鉄を壊せる魔法使いじゃなければ、上を飛び越える以外に抜けれない。
「強すぎるよこれ、ほぼ無敵じゃん」
「そんな事はない。お城役の私が中に居ないと城壁が崩れる。それに城壁だから門がある。そこは門番役のミュードが直接守らないといけない。あと空が弱点」
空は私も予想はできたけれど、他にも予想外の弱点があった。
いやでも確かに考えてみればそうだ。壁ではなく城壁なのだから、守るべき城がないと意味が変わってしまう。でもそうなるとミュード君は門の前から動けないし、キキちゃんは城壁の中から動けない。
そして、そこには大きな問題が生じる。
「それじゃあ、キキちゃんの回復と支援もミュード君に届かないんじゃないの?」
そう、ミュード君の事をキキちゃんは視認できない。ということは、回復が出来ないという事だ。視認できなければ回復できないだろう。
「私は大丈夫。私の技は祈りだから――」
そういうとキキちゃんは膝を地面について両手を組む。
「――天におわします尊き神よ。私の片割れたるミュードに剛硬の祝福を与えたまえ」
キキちゃんが祈りの文言を口にするとキキちゃんの周囲に淡い白の光が飛び散り、その光の粒がミュード君が居るであろう場所に壁を貫通して飛んでいく。
「キキちゃんありがとう! キラニアさん、お願いできる?」
ミュード君の大声で私の意識が戦闘へと戻る。
予想以上のミュード君とキキちゃんの凄さに軽い放心状態になっていたが、今は戦闘中だ。攻撃役の私が行かなくては終わらない。
「今行くよ!」
私は返事をすると、あの時の絶望を思い出して跳躍する。
あの時程の絶望は感じられないが、十分に身体能力が上がるのを感じる。絶望のコツは相対している敵とあの時の短身ゲス野郎を重ねることだ。
絶望を思い出した私は一回の跳躍で城壁を越え、ミュード君の前に着地する。目の前にいるのは敵であるアイツらだ。
「遅くなってごめん。こいつらは私が倒す」
「キラニアさん?」
私の様子がおかしいと感じたのだろうか、ミュード君が名前を呼んでくる。だが今は反応しない。反応すると絶望が薄れる。
だから一旦ミュード君の事は無視して、相対する3人を睨みつける。
「逃げないと殺すよ」
「か、かかってきな!」
「生意気言うんじゃないよ!」
「この平民が!」
目の前の3人から火と水と風の魔法が連続で飛んでくる。
私はそれを敢えてほんの少しだけの移動をし続けて避ける。多くの魔法に軽く被弾するが、この痛みも絶望の良い糧になる。
急上昇した身体能力に振り回されすぎないように、絶望の中にも理性を残して3人に肉薄する。
魔法使いの3人は、自分達の魔法の弾幕があるのにも関わらず近づかれた事に動揺して、剣を抜いている剣士に近づかれているのに何も対応しようとしない。
そうなってしまっては魔法使いは終了だ。
「さようなら」
「やめっ――!」
「いやぁ――!」
「うそ――!」
魔法使い3人集は、各々律儀に殺られ言葉を吐いて倒れ込む。
結構深く胴体を切ったからもう起き上がれないはずだ。
それを肯定するように、3人の傷がゆっくりゆっくり塞がったと思ったら、腕に着けている魔道具が光る。
「ふぅ……」
「凄いねキラニアさん」
「凄い」
絶望は幻だったと思い直して一息つくと、いつの間にか2人がそれぞれの武装を解いて近づいていた。
「やっぱり私の判断は間違ってなかった」
「そうだねキキちゃん。キラニアさん凄く強かったよ」
「私も見たかった。残念」
2人がそれぞれの言葉で褒めてくれる。
照れくさい。
「ありがとう2人とも。でも2人だって凄かったよ! 規格外って言って良いぐらいだったよ!」
「へへ。キラニアさんにそう言われると嬉しいね。ありがとう」
「ありがとう……キラニアちゃん」
心が温かくなるやりとりをしているけれど、ここは戦場だ。すぐに気持ちを切り替えないといけない。
「よーし! じゃあ早速次行っちゃおうか!」
「おー!」
「おー」
この調子だ。私達は強い。このまま行けばクラス代表10人も夢じゃない。
心の底からそう思っていた。
でも、この数分後に私達は最大の障壁にぶち当たってしまった。1年7組で最大に警戒すべき2人の内の1人――
「久しぶりだなミュード・エルノイア。それにキキ・アイビュードとキラニアだったか?」
――アイファ・ディ・スレイン王女殿下に。
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【あとがき】
どうも作者です。
今日はキラニアが久々の登場なので、思い出す意味も含めて小話をあとがきに入れようと思います。
この話を友人に見せた時に言われたんですよね。「キラニアって下寮の生徒なのに強すぎじゃない?」って。
36話を読み返して頂ければキラニアの職業『絶望純戦士』について詳しく分かると思うのですが、簡単に言うと純粋な絶望を感じるほど強くなる戦士です。
そこで! キラニアのような普通の街娘が、普通の街で大きな絶望を感じるような生活をしていたでしょうか? 答えは否です。
そんな彼女は学園入学試験当時、大して恩恵もない職業で王国随一の学園に合格して入学しているんです。ヴェイルの様に公爵家の後ろ盾等も無かったことでしょう。そんなほとんど一般人のような子が、下寮とは言っても入学できてる時点で超優秀です。
その優秀な彼女が、自身の職業を最大限活かせる様になってしまいました。後はもう、そういう事です。
以上、キラニア小話でした。
☆☆☆、♡、フォロー、コメントを頂いけたら私が踊って喜びますので、何卒よろしくお願いします。
これからも当作品をよろしくお願いします!
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