第66話 それぞれの思惑。よし

 アイファといっしょに行動しているリオンから連絡があった。

 どうやらアイファは積極的に動き回って、気配を感じ次第すぐに戦闘を仕掛けるという戦闘狂みたいな行動を繰り返しているらしい。その成果には驚愕で、もう既にリオンと2人で10人以上のクラスメイトの腕輪を光らせたらしい。


「暴れてんな~アイファ」

「アイファがどうしたの?」


 俺の独り言にノワが反応したので、丁寧にアイファの戦闘狂っぷりを教えてあげる。


「相変わらず強いわね」

「強い強いとは思っていたけど、正直想像以上だよ。本心から敵じゃなくて良かったって思うね」

「それもそうね」


 ノワと2人で雑談をしているが、俺達がアイファに任せきりでサボっている訳では無い。一応俺達もちゃんと仕事中だ。


「それにしてもこんなので本当に来るのかしら?」

「来るだろ」

「まぁ確かに偏りはあるでしょうけど来るわよね」


 ノワが不満げな様子で岩山の天辺にある氷像を見ている。だが不服ながらも文句を言わずに一緒に見ているということは、内心では有効な手段だとノワも思っているということだ。



 お察しの通りこの氷はフブキが作った物で、とある2人の人物を象った像だ。

 1人は髪を腰まで伸ばして凛とした姿勢で隣の人物を見つめている少女。もう1人は優しげな風貌をした少年。


 そしてこの像で最も重要なのは、少女が少年の頬に手を添えている所だ。


「はぁ……私がいつ貴方にこんな事をしたのかしら?」

「してないな。別にクラスメイトを誘き寄せるための策なんだから事実じゃなくても良いだろ」

「事実じゃなくてもクラスメイトには事実として広がるわよ」

「まぁそれならそれで良いんじゃないか?」

「……確かにそうね。ヴェイルに言われて気づくなんて不覚だわ。一生の」


 そう。この像は俺とノワの像だ。

 俺はさっきの2人組との戦闘を経て、テイマーだからといって無能扱いをされないようにしたいと思った。


 が、こちらから動き回って目立ちすぎると、俺の家族とノワの家族以外にエンシェントテイマーであることを言わないという、ノワとの約束を守れないかもしれない。

 

 だから、俺等の所に誘き寄せる必要があると考えた。



 じゃあどうするか。

 そう、これもあの2人組との戦闘を経てのアイデアなのだが、ノワと仲良いアピールをして、模擬戦開始前に嫉妬してた男子共を釣ろうという作戦を思いついた。


「そろそろ来るかな?」

「良い頃合いね」


 俺がそろそろ敵が来ないか坂道を覗くために立ち上がると、寝転がっていたフブキも一緒に立ち上がった。


『主様~やっぱり僕はこうした方が効率が良いと思うな~』

『こうするってどうするんだ?』


 俺の疑問にフブキは詳しく答えず、「こうするんだよ~」と言って氷の像が飾られている所まで登っていった。

 新しく何かを付け加えるのだろうか。


『え~い。こっちの方が絶対に良いよ~』


 フブキがそう言いながら作ったのは、新しい氷の像だった。それも2体。


 1体はノワとは反対側の俺の隣で仁王立ちをしており、強そうな雰囲気を感じる。なのに、俺との距離は0距離でくっついている。

 もう1体は俺の足元で丸まって寝ている。そして、こちらも案の定俺の足にピッタリくっついている。


 ここまで言えばお分かりだろう。アイファとラン先生だ。


『ちょ、何してんのさ!』

『え~僕はランさんの事好きだし~リオンはアイファの事好きでしょ~? それでショウはノワさんの事好きだから~ほら~丁度いいよ~』

『いやそういう問題じゃ――』

「ヴェイルてめぇこらぁぁぁ! ノワ様だけじゃなくてアイファ様に噂の猫帽子先生もだぁぁぁぁ!?」


 俺がフブキに抗議していると、嫉妬に狂った男子生徒が狂ったように叫んでいた。

 まだ距離はある。でも結構近い。それと多い。


「くそっもう収集つかないよこれ!」

「あら貴方の作戦じゃない。頑張りなさい」


 そう言ってノワは気配を消して、岩に隠れた。そして、そのノワにはショウが付き添っている。


『あれ何人ぐらいいる?』

『5人ぐらい~?』

『6人です』


 俺の問いに、フブキがのんびりと適当に答えて、ささっとショウが正確に答えてくれる。

 

 2対6かぁ……無理だってフブキは魔法系で俺は本職じゃない剣士だよ? 厳しいって。


「はぁ……自分で撒いた種だよね。頑張ろ」


 俺は虚空にそう呟き、腰に携えていた剣を鞘から引き抜く。まだまだ一人前と言えない素人だが、どうにか前衛を張れるように頑張ろうと思う。


『じゃあフブキさっきと同じ戦法で取り敢えず行こう』

『了解~』


 俺の合図でフブキが頭上に魔法陣を浮かび上がらせ、そこから大きな氷の玉が顔を出す。いつでも発射できる状態だ。


「お~い! お前ら! これから氷の玉大量に放り投げるから死ぬなよ~!」

「はぁ!? 舐めんなよどんと来いやぁ!」

 

 俺が如何にも余裕ですよ、という態度を取りながら軽く挑発すると、先頭の男子が面白いぐらい狙い通りに挑発に乗ってくれる。その調子で氷に突っ込んでくれたら嬉しい。



 あーあれは確か入学してすぐの時に、ネイリア先生にチビって言ってシメられてたグロウ君? ……なんかそういう性格変わってないのね彼。

 で、残りの5人は獣人が3人と人間が2人だ。どの生徒も血気盛んなイメージがある。


『よし行くぞフブキ! 発射だ! 超連打!』

『お~いえ~』


 俺のノリに合わせてフブキも右前足を上げて、地面にその足を下ろすと同時に氷の玉達が飛んで行った。そして、坂を転がり落ちていく。


「アブねぇ!」

「やばべへぇっ」

「うわっちょい!」

「あやぁぁい!」

「しゅべびっ」

「ぎゅろぉぉ!?」


 さっき戦った2人組の時の倍ほどの量の氷の玉をフブキが連打し、その玉を6人がそれぞれ対処している。

 ていうかグロウ君以外意味わかんない言葉を発している。


 グロウ君は素早い動きで氷の玉を避け、獣人の3人は受け止めたり壊したりしている。人間の2人は……あ、轢かれた。


「俺は生産職なんだよ……!」

「俺は研究職だぞっ!」


 氷の玉に轢かれても、魔道具のお陰でフラフラとしながらも2人は立ち上がる。さっき来た2人組やグロウ君達と違って、戦闘職じゃない2人は後一発当てたら倒れそうだ。


「なんで戦闘職じゃない奴が明らかな罠に飛び込んでくるんだよ……」


 俺の小さな呟きは6人に届くことはなく、未だ必死に坂を登ってきている。

 そして、変わらず続いている氷の玉連のせいか俺にも疲労が蓄積してくる。長時間歩いた後にベッドに入ったら身体がめちゃくちゃ重たいあの感じだ。


『ごめんフブキ、ちょっと魔力が減ってきた。少し玉をうつペースを落として欲しい。あと、さっき氷に轢かれた2人を集中的に狙って!』

『分かった~』


 その会話をして氷の玉の数を減らしたと同時に、グロウ君達の坂を登るスピードも上がる。特に集中して狙われていない4人は顕著だ。


「おらてめぇヴェイル! 本来そこは俺様の立場のはずだろう! クラスの人気者は俺のはずだ! なんでてめぇ如きがアイファ様とノワ様と一緒にいやがるんだよ!」

「そうだそうだ! 俺にも分けろ!」

「そうだー!」

「やんややんや!」


 グロウ君の叫びに他の3人も合いの手を入れる。なんだかその姿は異様な光景だ。


 どうも、グロウ君は心の底からキレているようだけど、他の3人はそれほど俺に嫉妬しているというわけでもなさそうだった。叫びにも心が籠もっていない。


「ほいっ」

「それぇっ」

「よいしょぉ!」


 グロウ君はひたすらに俺のことだけを見て駆け上っているが、残りの3人は見栄えの良い派手な技や、わざわざ受け止める必要のない氷を受け取めたりしている。

 あ、因みに最初に轢かれた2人は、それぞれが研究成果を叫んだり生産した道具を投げまくったりして、もう既に再度轢かれて腕輪光ってます。



 うーん、やっぱりそうだよな。もしかしてだけど、この3人――既に腕輪光った2人も――は目立って活躍の場が欲しいだけなんじゃないか? 

 良くも悪くも目立つグロウ君に付き添ってるだけなのかもしれない。

 

 そんな仮説を思いついて改めてグロウ君以外を観察する。そしてゆっくりとこの前のノワへの相談の時のことを思い出す。



 ……そうだよ、やっぱあれ全員貴族だ。


 言っちゃ何だが貴族は女遊びが激しい印象がある。地位に金もあれば欲求を満たしたくなるのも理解は出来る。

 それに、貴族ならアイファとノワは高望みし過ぎだって分かってるはずだ。口で言いはしても、本心からあの2人と結婚とかまで行けるわけがないと分かってるだろう。


「おっけーそういう事ね」


 そこで俺は非常に良い案が浮かぶ。戦闘をフブキに任せられるからこそ、戦闘中にも関わらずこんな良い案が浮かぶ。最高だね。

 

『ショウ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど』

『はっ、何でしょうか』

『先頭で坂を登ってる子以外は、特に危険も無さそうだからショウが相手して欲しい。それとフブキも』

『僕も~?』

『一応相手は3人いるから2人でお願いね』

『では主はあの先頭の者と戦うのでしょうか?』

『そうなるね』


 俺はショウとフブキにグロウ君以外を任せる事にする。もちろん、あの3人が派手な技とかでアピールできるように、手助けして欲しいというのも頼む。


 俺はグロウ君の相手だ。


「グロウ君! 今氷の玉を止めるからこっちに来てよ!」

「んだと!? 舐めてんのかてめぇ!」


 俺の言葉にグロウ君はキレ散らかす。

 今回は普通に誘ったつもりなんだけど、普通に考えたら超煽り行為だ。地理的優位も優勢な状況も、全部捨ててグロウ君を自分の所に呼んでるんだからな。


「舐めてないよ! 分業さ! フブキ、ショウ! あっちは任せたよ!」

「グルル!」

「にゃ~ん」


 俺はわざと他の人や魔道具越しにこっちを見てるであろう先生達に聞こえるように、大声でショウとフブキを呼ぶ。それに合わせてショウとフブキもそれぞれ吠える。


 そうすれば自然な流れでショウフブキ対他3名、俺対グロウ君の戦いに出来る。


 テイマーとしての強さと、俺自身の強さと、ショウフブキの強さをすべて見せられる良い状況だ。それに、あの3人組にも活躍の機会をあげられた事を考えれば一石何鳥か分からないぞ。



 この作戦、絶対うまく活かすぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る