第38話 テイマーギルド。おぉ!
張り切って寮を出ようとしたのだが、もっと重大な問題に気づいてしまった。
うちの可愛い可愛い3匹達は魔物だ。それにテイム登録していない。つまりは、今は野生の魔物が街の中に居るのと変わらない状況なのだ。
これは非常にまずい。買い物の前に、テイマーギルドに行ってテイム登録をしないといけない。
というわけで3匹と一緒に学園から出て、賑わいを見せる街にやってきた。
王都は相変わらずの賑わいで、老若男女人種問わず様々な人が楽しそうに生活している。
露店を見れば美味しそうな串焼きが売られているし、小さな冒険者が美味しそうに食べている。
『主様~僕もあのお肉食べたい~』
「テイマーギルドに行くのが先だな。もう少しだけ我慢してくれ」
『え~分かった~』
というほのぼのとするやり取りをしながらも、目的地に向けて歩を進めていく。
ちなみに人前では3匹とも人間の言葉を発さないことになっている。人語を解す魔物は非常に珍しい為、目立つのを避ける目的で俺との会話は念話でしているのだ。
最初の目的地はテイマーギルド。テイマーギルドは王都の北東側に位置するギルド街の一角に存在する。学園にも比較的近い。
テイマーギルドはその名の通りテイマーが在籍するギルドとなっており、テイマーとそのテイマーがテイムしている魔物の管理に加え、魔物の分布や生態系の調査や研究を行っている。
そもそもギルドとは何なのかという話だが、簡単に言えば巨大な互助組織のことである。
例えば冒険者が在籍して様々な依頼をこなしている冒険者ギルドは、言わずと知れた世界規模の組織であり、大陸西部の中立都市『アドベイルム』に本部を据えて大陸全ての国に支部を設置している。強力な力を持つ職業人達の力を発散させる場を公的に用意する組織であり、それを利用して困っている人達を救う組織にもなっているというわけだ。
冒険者ギルドと同等規模のギルドは商人ギルドのみであり、商人ギルドは大陸西部の商業都市『ムルイレア』に本部を置いている。商品や技術の市場価値を決める役割を担っており、暴利を貪る悪徳事業を取り締まる役割も持っている。
そして今回俺が目指しているテイマーギルドは、冒険者ギルドや商人ギルドと同じギルドという単語が使われてはいるが、その規模や権力は到底及ばない小さいものとなっている。
世界的な巨大ギルドは冒険者ギルドと商人ギルドのみであり、その他のテイマーギルドや錬金術師ギルドなんかは、下位互換に過ぎない。各国の首脳陣が、職業を持つ俺達を効率よく管理する為に作っている組織に他ならないのだ。
まぁ冒険者ギルドと商業ギルドと違って、トップが王国だよって事だ。
だからテイマーギルドに所属していても、冒険者ギルドや商人ギルドに登録して何の問題もない。
そんな風にギルドについて考えている内に、目的地であるテイマーギルドに到着した。
テイマーギルドは2階建てで他の民家なんかに比べても大きな建物であり、不遇職だからといってボロボロの建物でギルドが運営されている、なんてことはない。さっきも言ったが、国がトップなのだ。ボロボロなんてありえない。
ささっと用事を済ませて3匹たちのプライベート空間を造りたいので、テイマーギルドの外観や内装をじっくり見ることはせずに受付へと進む。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか」
受付嬢は薄い水色の髪をした可愛らしい女性だった。何処かで見た事があるような既視感がある。
「あの?」
「あ、いえ! テイムした魔物の登録に来ました」
「登録ですね。そちらの3匹でよろしいでしょうか?」
凛とした表情で問いかけられた。無表情ながらも何処か優しさを感じる笑顔だ。例えるなら静かに子どもたちを見守る保母さんのような感じかな。
「はい。この子達の登録です」
「分かりました。では、こちらの書類に必要事項を記入して下さい」
そう言って渡された3枚の紙には名前、種族、性別、年齢、特技という項目があった。
「種族は必須ですが、その他の項目は任意となっています。ほとんどの方は全て埋めていかれますが、埋めない欄があっても貴方とテイムされた魔物が不利益を被るような事はありませんので、ご安心下さい」
「分かりました」
渡された紙に名前、性別、特技を書いた。
名前と性別は書いても問題ないし、特技は属性を書いただけなので大丈夫だろう。
問題は種族と年齢だ。
まず年齢だが、単純にこの子達の年齢を知らない。あの箱から出てきたのを産まれると形容するならば、この子達は紛れもなく0歳だ。
どうしようか。……いや、普通にこれくらいの子猫なら1歳いかないくらいか?
とまぁ色々考えたが、これから先明らかに大きくなるこの子達の事も考えて面倒になったので、年齢は書かないことにした。
そして種族なのだが、もう思い切って獅子と書いてしまうことにした。
種族名は『マイナーライオン』っと。小さい獅子だから嘘ではない。この子達は明らかに大きくなるので、ただの猫と書くは無理がある。それならいっその事、少し弱めだけどライオンですよーって書いてしまった方が怪しまれない。
「リオンくん、ショウくん、フブキくんですね。承諾いたしました。では少々お待ち下さい」
受付嬢さんはニコリと控えめな笑みでうちの子達に笑いかけると、受付の裏に行ってしまった。
『主様~僕あの人好き~優しい人だよ~』
フブキが脳内に直接話しかけてきた。どうやらさっきの受付嬢さんの笑顔にフブキがやられてしまったようだ。もしや他の子もか?
『我はアイファの方が好みだな。あの様に覇気を纏っている者が好ましい』
『私はノワ殿ですね。賢く狡猾なあの者は優秀です』
リオンとショウまで俺に好ましい女性を言ってきやがった。
おのれ! うちの子達を誑かしやがって! 許さんぞ!
と心のなかで冗談交じりに憤慨していると、先程の受付嬢さんが3つのアクセサリーを持って戻ってきた。
「こちら、テイムされてる魔物の証となるリングです。見える所に装着して下さい。3体目までは無料となりますが、それ以降は有料ですのでお気をつけ下さい。依頼と帳消しという方法も取れますので、ぜひご検討を」
「分かりました」
渡されたリングは俺の手首より少し大きいくらいのサイズをした金色の輪っかだった。
今の3匹の大きさなら首につけて丁度良いだろうが、成長してしまえば着けるのは難しくなるだろう。それこそ王と呼ぶに相応しい大きさになるのだとしたら、手首だろうと無理そうなサイズだ。
「あの、これってこの子達が成長したらどうすれば良いんですかね?」
「サイズの自動調整機能が付いているので問題ないですよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
どうやらただの装飾品ではなく魔道具だったようだ。
その言葉に安心して3匹それぞれにアクセサリーを付けていく。3匹の意見も聞いて希望の場所に着けてあげることにした。
リオンは右手、ショウは左手、フブキは尻尾の先端に着けて俺の魔力を込める。
すると、3匹のアクセサリーがキツくも緩くもない程度に締まり、フブキがブンブンと尻尾を振っても落ちないようになった。非常に便利だ。
それに俺が魔力を込めて魔道具を起動したため、簡単にうちの子だと分かるようになったみたいだ。うちの子達にとって一種の身分証明書のような役割も果たしているのだと思う。
「ではこれで登録は完了いたしました。何かありましたら私、リンまでお訪ね下さい」
「分かりました、ありがとうございました」
薄水色の髪をした受付嬢――リンさんに軽く頭を下げ、この場を後にする。今度はこの子達専用の空間を作るために商会エリアに行かなくてはならない――と、出口に向かおうと後ろを振り向くと見覚えのある女性がギルドに入ってきた。
後ろが長いふさふさの猫耳帽子を深く被り、特徴的な髪色を隠している女性。だが、可愛らしい猫目の風貌に帽子の猫耳がマッチしており、ちらりと見える透き通る白髪がより幻想さを醸し出している。
「あれ? ラン先生?」
「ん……? ……あ、試験の時の子」
「もしかして今忘れてました?」
「ううん。忘れてないよ。認識するのが遅くなっただけ」
「いや、それはそれで……」
相変わらず猫耳の帽子を深く被ったこの先生は不思議な感じだ。掴み所がなくてふわふわしてるっていうか、それこそ自由奔放な猫みたいな。
そんな先生が何をしにここに来たのだろうか。まぁ先生もテイマーなのだからテイマーギルドに来ても何ら不思議ではないのだが。
なんだか気になってラン先生の姿を目で追っていると、そのまま俺の隣に来てリンさんに話しかけた。
「リン姉さん、テイムした」
「ランちゃん。いつも言ってるけど言葉が足りないわ。『リン姉さん、新しい魔物をテイムした』でしょう? さっきの言い方だと私をテイムしたみたいになってるわよ」
「うん、ごめん。新しい子」
「はぁ……ランちゃんはいつも言葉が足りなくて絡まれてるっていうのに……。あぁいいわ、今度はどんな子かしら?」
ん? リン姉さん? ラン先生とリンさんって姉妹だったの!? 言われてみればリンさんに感じてた既視感ってラン先生の事だったのか!
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