第37話 帰ってきた。んー?
あの不思議な世界から帰ってきた。
どうやら俺はノワとアイファよりも帰ってくるのが遅かったようで、2人に出迎えられる事になった。
というかクラスメイトの中でも俺は遅かった方のようだ。周囲を見回してみれば、同じクラスの子達が大勢帰ってきている。
クラスの皆はこの短時間で様子が一変していた。落ち込んでいる者もいれば、何を見たのか異常な興奮を見せている者も居た。
特徴的なのはキラニアさんだ。なんだかこの一瞬で幼さが消え、達観した表情になっている気がする。言うなれば大人になった。って表現するのが正しい感じだ。それに左腕を怪我しているし、その場に倒れ込んで先生達に運ばれている。
大丈夫かあれ?
そんなクラスメイト達の例に漏れず、ノワとアイファの2人も様子が変だ。
ノワは無表情様に見えてご機嫌な感じがするし、逆にアイファは笑ってはいるけれど心ここにあらずと言った様子だ。
「どうだった?」
俺は何となく2人にそう問いかけてみた。
この2人なら何の問題もなく強力な能力に目覚めただろう、という信頼もあるが、なんだか聞いたほうが良い気がしたのだ。
「何よ。大丈夫に決まっているでしょう?」
とはノワの言葉だ。
非常にノワらしい。それに最初からノワは平気だと思っていた。俺が気がかりなのはアイファの方だ。
「ん? あぁ、私も大丈夫だよ」
アイファの返答もいつも通りに感じる。
んー気の所為だったか? まぁアイファなら平気だろ。……それにしてもクラスメイトから痛いほど視線を感じるな。
まぁ原因は分かりきっている。肩に乗っているリオンと、腕の中にすっぽり収まっているショウと、頭の上でぐでーんと寝転んでるフブキのせいだろう。
まぁうちの子達が可愛すぎるから仕方ないよな!
「何ニヤけてるのよ。それにその3匹はいったい何処から連れてきたのかしら?」
俺がうちの子達の可愛さを堪能していると、ノワに質問された。アイファも聞きたそうだ。
ノワ達からすれば魔法陣に入っていった友人が、帰ってきたら知らない猫を3体も連れて帰ってきたのだから不思議に思うのも当然だよな。
「この子達はうちの子だ!」
「盗んできたのかしら?」
「なわけあるか!」
ジト目で見ないで欲しい。何処から盗むっていうんだ全く。
「説明するのが難しいけど、転移した先で運命の箱っていう箱に出会って、この子達を貰ったんだ。決して盗んではないぞ!」
「そう、箱ねぇ……まぁ良いわ。それじゃあその3匹をテイムしたって理解で良いのかしら?」
「勿論だ! 頭の上の子がフブキで、肩に乗ってる子がリオンで、抱いてるの子がショウだ。可愛いだろ?」
俺の紹介に合わせて、フブキはぐでーっと右腕を上げ、リオンが大仰に頷き、ショウは無反応だった。
この可愛さにはノワもアイファもメロメロだろう。
「まぁ可愛いのは認めるわ」
「うむ、可愛いな」
えっ! 2人ともこの可愛さにデロデロにならないのか!? ノワさん笑って? アイファさんも笑顔が硬いですよ!?
「なんだか不服だ」
「何がよ」
「……何でもない」
ノワは変人だ。3人の可愛さが分からないのだ、詰めても仕方ない。
あーあ、アイファは可愛がってくれると思ったんだけどなー。
「はーいみんなー、全員揃ったようだから教室に戻るねー」
うちの可愛さがノワ達に通用しなかったことに若干の不満を感じていると、ネイリア先生から声がかかった。いつの間にかクラスメイト全員が戻ってきていたようだ。負傷で1名この場には居ないのは除いて。
後ろに次のクラスが控えているため、取り敢えず俺達は教室に戻ることになった。獲得した力の報告をしなければいけないらしいのだが、それを教室でやってから解散になるようだ。
そういえば俺の話ばかりで2人がどんな力を手に入れたのか聞いてなかったな。
「ノワとアイファはどんな力を手に入れたんだ?」
教室まで向かう途中に聞いてみると、ノワは不気味に笑い、アイファは無表情に返事をした。
「秘密よ」
「秘密だ」
その息ぴったりの姿を見てしまっては、これ以上追求する気力は湧かないというものだ。貴族は秘密主義のきらいがあるしな。
教室に戻り10分と少し。
ネイリア先生から受け取った紙に手に入れた力のことを書いた。
『3匹の魔物のテイム』と。
先生達が聞きたいのはこういう事では無くもっと詳細な情報だと思うのだが、詳細に書いては俺が普通のテイマーとは思われなくなってしまう可能性がある。
『運命の箱にて完璧に意思疎通可能な獅子王・黒獅子王・白獅子王という種族を3体テイム』
こんなん書いたらやばいだろ。
ノワからただのテイマーとして見られるように細心の注意を払えと言われているんだ。ブルノイル公爵家の為にも、俺の為にも必要な事らしい。なんでかはあまり詳しく教えて貰っていないけどな。
それにどうやらノワとアイファも内容をちゃんと書かなかったみたいだ。教師や学園が生徒の能力の詳細を把握しておく必要はないそうだ。
『元々の力を補強する力を獲得。詳細は伏せる』
『秘匿する』
1つ目がノワで2個目がアイファ。本当にこんなんで良いのか?
で、提出しに行くと……
「ノワ君、詳細も書いてくれたりしないかな?」
「しません」
「そっかぁ……」
ネイリア先生しょんぼり。
「アイファ君、少しぐらい書いてくれたりしないかな?」
「すみません、書きません」
「そうだよねぇ……」
ネイリア先生もっとしょんぼり
「ヴェイル君も少ししか書いてないね」
「あ、じゃあもう少し付け足します」
「3匹の魔物の後に(猫)って付けただけじゃないかぁ……」
ネイリア先生またまたしょんぼり。
なんて一幕があった。
俺達以外は普通に書いていたようで、何の問題もなく受け取っていた。まぁそれが普通だろう。上手く誤魔化しているだけの子もいるかもしれないけれど。
気になるのはキラニアさんだな。あんな状態になる程の試練を与えられたのなら、それ相応の報酬を手に入れているはずだ。気になって仕方がないが、彼女は治療室に運ばれたためここにはいないし、気軽に聞けるような関係でもない。キラニアさんとも友達になりたいものだ。
こうして本日の授業は終了となり解散となった。
俺達は揃って寮に戻り、すぐに解散となった。特寮には地下に訓練場があるので自分の力を確認するのに最適だからだ。
どうやら個室の訓練場もあるようで、ノワとアイファは従者を連れてそこを使うらしい。俺は自室で十分だから解散した。
さて、自室に帰ってきて寝室にある椅子に座って気づいたのだが、大きな問題が1つある。
「王よ、我らは何処で過ごせば良いのだ?」
そう、3匹の過ごす場所問題だ。
具体的に言うならば、3匹の寝る場所にトイレだ。
「んー寝るのは俺と一緒のベッドでも良いけど、ちゃんと自分の場所っていう空間は必要だよね。どっちで寝ても良いよって感じの」
いくら魔物と言っても、プライベート空間の確保は必要だ。心休まる場所というのはどんな存在にも重要な空間なのだ。
「主よ、私達3匹は同じ場所で大丈夫です。生まれながらの兄弟のようなものなので、一箇所にまとめて貰って構いません」
「なるほどね、どうしよっか」
3人のプライベート空間について頭を悩ませていると、良い案が浮かんだ。殆ど使ってないし使う予定もない部屋があるのだ。
「倉庫良くないか?」
「倉庫~?」
「そうそう。この部屋からしか行けないんだけど、そこの扉から繋がってる部屋だよ」
ベッドと反対側の壁に3つ並ぶ扉の内の一番右。そこから倉庫に行ける。
あの倉庫は一人暮らしに必要ないほどに広く、3人が悠々自適に暮らせるだけの空間は余裕で確保できる。ある程度大きくなっても問題無いのではないだろうか。
ガチャリとその扉を開けて3匹に倉庫を紹介する。必要最低限の荷物しか持ってきていないため、倉庫の中はガラガラだ。
「この部屋を我らが使って良いのか?」
「わ~広いね~。こんな所良いの~? やった~!」
2人が喜んでくれて何よりだ。ショウも言葉にしてはいないが部屋の中を歩き回って満足そうな雰囲気が出ているので、喜んでくれているだろう。
部屋は決まったが、そうなると後は内装だ。俺が実家から持ってきたのは必要最低限の荷物だけなので、うちの子達のお家を作る材料なんて持っていない。
という事で、早速上の階に行ってノワに確認を取った。あの子達の家を造りたいのでお金を使っても良いですかって。
非常に情けないが、お金がないのです。闘技場で勝ったあのお金の一部も使うけど、一部ノワに返済したし生活費でもあるので厳しいんです。凄く悲しいです。絶対に後で返します。使ったお金はメモしてるので忘れません。
「聞かなくて良いからもっと沢山使いなさいよ」
だそうです。
キャー! ノワ様カッコいい!
という事で、3匹を連れて街に買い物に行くことにした。
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