第80話 準々決勝開始。明確な差

 準々決勝第1試合の戦闘が始まった。

 準々決勝第1試合は、ビビット・サライラエちゃん……君、さん? と、サラリナ・ウィンテスター様の試合だ。


 ビビットちゃん……さんは魔道具を活用して鳥人族のバビディ君に勝ったので、生産職ながらも戦闘能力は高いと思う。

 サラリナ様は、前回の試合が対ミエイル様で、ミエイル様が棄権をしたから強さが分かってない。


 どっちが勝つか予想がつかない。



 今のところ、両者一進一退で互角の戦いをしている。それもこれもビビットさんがバビディ戦で使った靴の魔道具を使って空に飛んでいるからだ。そして距離を取りながら攻撃できる爆弾なんかを投下している。

 サラリナ様は避けつつ破片にあたったりして、多少の傷を負いながらも負ける様子はない。ナイフだったり魔法だったりを使って反撃もしているが、上空に向けての攻撃は威力が落ち、ビビットさんの防御の魔道具を貫けない。


 今思ったけど自分の作った魔道具なら何個でも持ち込めるって結構ズルくね?


 そんな事を思いつつ一進一退の手に汗握る攻防を観ていると、サラリナ様が壊れた地面の破片に躓いて転んでしまう。

 そして、その大きな隙を見過ごすほどビビットさんも甘くない。


 所々で使用していた爆弾と、それに似たなにか――おそらく別種の爆弾――を一気に地上のサラリナ様に投下した。それなのに何故か大量の爆弾を投下した本人が焦っていた。


「「「きゃあーー!」」」

「「「うおおおお……」」」


 その爆発の威力は凄まじく、爆風が観客席にも吹いた。明らかに過剰な威力。俺が直接あれをくらったなら、命が助かる保証はないかもしれない。

 爆発とともに舞った煙が次第に晴れ、先程までサラリナ様がいた場所が明るくなる。


 煙が晴れたその時、静かな闘技場内に誰かの呟きが響いた。


「いない……」


 煙が晴れてきたそこにはサラリナ様の姿は一切なかった。肉片も残らないほど粉微塵に――


「ぐあぁ――ッ!」


 静まり返った闘技場内にビビットさんの苦しむ声が響く。その声に皆が空中に浮かんでいたビビットさんの方を見る。

 すると、ビビットさんのお腹から剣が生えているのが見えた。そして、その後ろには何故か空中に立っているサラリナ様の姿も。


「しょ、勝者! サラリナ・ウィンテスター!」


 こうして、サラリナ様の勝利となった。

 なぜ爆発から逃れられたのか、なぜいきなりビビットさんの後ろに居たのか、なぜ空中に浮いていたのか。謎はいくつもあるけれど、その答えをサラリナ様が語ることは当然無く、そのまま試合は幕引きした。


 ……ってか今の苦しんだ時のビビットさんの声、男っぽかったような……もしかしてビビット君なの?



 閑話休題



 闘技場の修復が終わり、準々決勝第2試合が始まった。

 準々決勝第2試合はエフリア・ウェイド・ミラリア・ルフさんとガウル・ウルフガンド君の試合で、どちらも早々に前回の試合を勝っていて、非常に実力の高い2人だと思う。


 ガウル君は前回の試合よりも早く動いている気がする。

 エフリアさんは風の精霊を呼び出して自身を加速させているが、ガウル君は素の身体能力でエフリアさんに迫る早さをしている。まだ大狼化してないからかも知れないが、ガウル君の身体能力には驚きだ。


『ガウル選手の動きが非常に良いですね。エフリア選手は防御態勢を崩せません。エフリア選手はどう切り崩すべきでしょうか』

『そうだな。ガウルは早くて攻撃力がある。だが、動きが良いとは言い切れないな。曲がる時に無駄に力んで大きく曲がってしまったり、攻撃一つ一つの振りと止めの動作が大き過ぎる。まるで自分の力を制御できていないかのようだな』

『制御できていない、ですか。そこがどう影響するかが気になりますね』


 解説と実況を3割くらい意識を割いて聞きつつ、残る7割で戦闘を見る。

 言われてみれば、確かにガウル君にはアイファの剣のような綺麗さがない。大きく振って、高威力な一撃を当てる。一撃で仕留める。といった動きに見える。


 だが、それでもゴリ押しは強い。思考を停止して脳筋の考え方をすれば、体力が続く限り追いかけていれば、いつかは倒せるのだ。それに相手に強い圧迫感を与えることで、通常より早く疲れさせるという事も期待できる。


 それに、ガウル君にはまだ大狼化という手段も残っている。彼は今ただの身体能力で追いかけているだけだ。



 試合が始まって20分。

 エフリアさんの精霊魔法による攻撃、それを適当に弾くガウル君。ガウル君の力任せの攻撃、それを精霊魔法で上手く弾くエフリアさん。

 そんな攻防を続けて、決着は永遠につかないかのように見えた。けれど、そうはいかないみたいだ。


 エフリアさんは明らかに口での呼吸が大きくなり、肩も大きく上下している。ずっと走り回って逃げながら戦ったことで、体力の限界が近づいてきたようだ。

 それに対して、ガウル君の表情からは疲労を感じられない。常に、標的を狙う獣の瞳を絶やしていない。はっきり言って、そこまでの体力がある相手にどう戦えば良いんだという思いだ。


 それだけでもガウル君が優勢だと分かるのだが、ついにガウル君が大狼化した。


「アオーーーーン!!」


 ガウル君の出した遠吠えは、観客席に居てもよく聞こえるほどの声量で、相対していればその迫力はより凄まじいだろう。

 更に、ガウル君は身体が大きくなったのにも関わらず、素早さが落ちない。つまりは、大きな身体があの早さで迫ってくるのだ。


 それらが合わさって、エフリアさんが感じる圧迫感と恐怖は今までの比ではない事が容易に想像できる。



 その恐怖からか疲労からか、エフリアさんが石に躓いて転んでしまう。その瞬間に後ろを向いて何かを言いかけた。が、その声が発せられる前にガウル君の狂爪がエフリアさんに届いてしまった。


 エフリアさんは声を発すること無く、その場で血を吐いて倒れる。そして、ガウル君はそのエフリアさんの事を眺めながら大狼化を解き、先生の勝利の合図とともに控室に戻っていった。


「なんだか捕食者と非捕食者って感じだったな」

「言いえて妙ね」


 エフリアさんには悪いが、そんな感想が出てきてしまう。エフリアさんも十分に強い。精霊魔法は威力が高いし、精霊に頼る分、親和性があれば魔力の消耗も抑えられる。

 だけど、今回はガウル君の耐久と体力が異次元だった。あそこまで耐えられるのは盾役くらいだと思っていたけれど、超前衛攻撃型のガウル君はそれ並みの耐久をも持っているみたいだ。


 誰もが先程の試合の感想を言っている。聞こえてくる声は、どれもこれもガウル君に恐怖を感じている感想だ。

 逃げても逃げても追いかけてくる。攻撃しても攻撃しても効かない。……あれは夢に出そうだ。


 

 そんな風に考えていれば、次の試合を始める準備が整う。

 次の準々決勝第3試合は、シュラ・ミミアリア対ヴァレア・グーディリアだ。どちらも強く、正当な武闘派という感じがする。どちらも一癖二癖ありそうな職業だし、どんな結果になるかが楽しみだ。


「開始ッ!」


 審判の合図で2人共同時に動き出す。

 ヴァレアとシュラさんは様子見を一切せずに、お互いがお互いに向かって走り出す。ヴァレアは持ち前の手数の多さで攻める。それをシュラは当たり前のように捌いているが、あの大砲のように強い一撃は繰り出せないでいる。

 それでもシュラさんは距離を取ろうとせず、拳、脚、頭。全身を活用して攻撃を仕掛け続ける。




 試合開始から10分が経過した。

 だが、未だに2人の戦闘は衰えずに過激さをどんどんと増している。戦闘の早さもぶつかる攻撃同士の威力も段違いだ。

 それでもまだ、お互いに全力ではないように見える。

 シュラさんは全身を使いつつ蹴撃をメインとした攻め方をし、ヴァレアは双剣で手数の多さにものを言わせた攻め方をしている。まだ2人目は出てきていない。

 それに10分見ていて気付いたが、2人共防御態勢をとっていない。攻撃同士をぶつけて守りにも転用するといった形だ。


 良く言えば正々堂々。悪く言えば考えなしだ。


 そんな超攻撃的な攻防が観客を魅了しつつも、次第にその迫力に慣れてきた頃、試合の流れが変わった。

 シュラさんの周囲に赤いオーラが出現し、それに合わせてヴァレアは2人目を堂々と自身の横に出現させた。


 まだまだ2人の戦闘は熾烈さを増していくみたいだ。

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