第2章 学園勢力抗争編

第55話 「獣誇」 sideガウル・ウルフガンド

 獣人は誇り高き戦士である。

 何者にも屈せず、何者にも諂うこと無く、常に上に立つ存在だ。




 俺は親父にそう教えられた。

 だから小さい頃から訓練を欠かさなかったし、勉強にだって力を入れてきた。

 今どき、力だけの馬鹿は必要ない。力もあって頭も良いのが長たるものとして当然の義務だ。俺はそう考えている。


「お前如きが長になれる訳無いだろう」

「もう少し広い視野で将来を見据えろ」

 

 力だけの馬鹿兄貴、頭だけの馬鹿姉貴がそんな事を言ってくるが、全て無視だ。

 アイツらは外の世界を見てから弱腰になってやがる。負け狼の遠吠えとでも思っておけば良い。


 何故かって? 親父は俺に1番期待してるからだ。

 勿論この自信には根拠がある。誰が聞いてもはっきりと理解できる理由だ。だから俺の意見が一番正しい。




 俺はウルフ族の長一家、ウルフガンド家の四男だ。

 四男と考えれば微妙な立ち位置かも知れないが、今回に限っては最高の立ち位置と言える。長男にも長女にもない特別な立ち位置だ。


 その理由は『獣人族未来同盟』という取り組みにある。


 この取り組みは、スレイン王国に存在する獣人種族の長達が共同して動いている計画であり、現在大きく幅を利かせている人間に取って代わって、スレイン王国を支配する為の政策だ。


 いずれは獣王国すらも併合して――なんて構想は未来も未来の話だな。

 今日はその為の第一歩だ。小さな範囲から支配していき、段々と支配領域を増やしていく。かの帝国がそうしたように、俺達獣人もそうしていくんだ。


「今日はよく集まってくれた皆。俺はウルフ族長一家のガウル・ウルフガンドだ」


 学園のとある貸し教室に集まった6人の同級生を見渡す。驚くことに、俺を含めた7人全員が各獣人種族の長の子だ。


「てめぇが仕切ってんじゃねえよガウル」

「そうねぇ、私の方がリーダーは向いてるんじゃなくて?」


 俺に対して反抗的な態度の2人は、トリ族のバビディ・ハーピリアとネコ族のミーミャ・キャングルだ。


「バビディ。取り敢えず俺が声をかけて集めたから仕切ってるだけだ。俺らの中に上下はない」

「けっ、なら良いがよ。トリだからって舐められちゃいけねぇんだ」


 トリ族は他の獣人に舐められがちだ。バビディのこの態度も自身の種族を守るためだと思えば可愛らしいとすら思える。

 接し方を間違えなければ、強力な友になってくれる。空を飛べる種族は、それだけで強力だ。


「ミーミャも分かってくれるか? 俺は自分をリーダーなんて言ってないからな。やりたきゃ俺ら全員で公正に判断するんだ」

「分かってるわよう。便乗してみただけよ」


 ネコ族は基本的に意見があっちこっちに飛躍しがちだ。こいつの意見を真に受けてちゃいけねぇ。

 だが、コイツも上手く活用すれば優秀な駒になる。素早さと気配の断ち方は俺らの中でも秀でているからな。




 そんで、さっきから何も喋らずにニヤニヤこちらを観察してるのが、ウサギ族のシュラ・ミミアリアだ。

 こいつはここに集まったメンツの中で、1番警戒しなきゃいけない女だ。いつ裏切るかも分からない。


「どうしたんだいガウル君。そんなに僕を見つめてちゃ勘違いしちゃうよ」

「言ってろシュラ。お前には協力しろとは言わない。邪魔だけはしないでくれよ」

「ふふっ了解」


 了承してくれたは良いものの、コイツの返事を信じるのだけはよろしくねぇ。ミーミャと合わせて要注意だな。




 キツネ族とベア族の2人についてはなんの問題もない。少し強く言えば勝手に動いてくれるだろう。言っちゃなんだが警戒する必要もない駒だ。


「フリーナ、キューラ」

「……なに」

「な、何かな。ガウル君」

「お前たちは自分で判断をしないで俺に聞いてから動け。その方がお前たちからしても楽だろう?」

「……そう」

「わ、分かったよ」


 こいつらは良く言えば無害、悪く言えば無能だ。片方はやる気を感じないし、片方は能力の無駄遣い。

 族長の子という事もあって能力は多少秀でているが、それを上手く活用できない、しないで人生を浪費している。俺から言わせれば愚の骨頂だ。

 そんなでも他の奴らに比べれば有能な駒だ。この2人は仲が良いから二人一組で動かせば渋々動くだろう。




 そして最後の一人が一番掴みどころのない奴だ。

 ウマ族の族長の息子であるメイズ・ノーンブルウ。多分だがコイツは相当強い。だが、戦闘に関して決して俺達に重要な場面を見せたことがないし、話し方や考え方も分からない。

 基本的に何も言わずに従ってくれるのだが、それが不気味で仕方ない。こいつには、使いやすいのに使いにくいという矛盾を抱えさせられる。


「メイズには指示を出すから待っていてくれ」


 相変わらずメイズは頷くだけで声を発さない。まぁいつものことだ。気にしないが吉だな。




 この総勢7名が『獣人族未来同盟』の要であり、これから学園を牛耳ることになるトップ達だ。

 少々トップを任せるには心許ない奴もいるが、それすらも上手く活用してこそ、獣人全体の長……いや、王としての威厳が生まれるというものだろう。


「お前ら、俺達はこれから学園を牛耳る王となる! 現状人間どもがデカい面をしてやがるが、本当のこの世界の支配者は獣人たる俺達だ!」

「へへっそうだな」

「そうよねぇ?」


 バビディが羽を広げて同意し、ミーミャが尻尾を振りながら同意している。フリーナとメイズは無表情だが、満更でもなさそうだ。シュラはいつもの如くニコニコと享楽的な笑みを浮かべて楽しそうにしている。

 キューラの野郎が浮かない表情だが、まぁ良い。アイツ1人に何が出来るとも思えねぇ。


 今はこの士気で十分だ。俺達獣人がトップに立てると分かればコイツら、特にキューラの野郎も少しは変わるだろ。


「じゃあこれから具体的な作戦を伝える。計画は単純明快、『力で頂点に立つ』だ。学園内で俺達こそが頂点に立つべき存在だと周囲に知らしめるには、各クラスのトップを潰せば良い」


 各クラスのトップを潰す。その為には適切な分配が大切だ。



 俺達は好都合なことに、全員がクラスがバラバラに割り当てられている。


 ガウル・ウルフガンド:1年1組

 シュラ・ミミアリア:1年2組

 バビディ・ハーピリア:1年4組

 キューラ・フラウベア:1年6組

 フリーナ・ランコンリア:1年8組

 ミーミャ・キャングル:1年9組

 メイズ・ノーンブルウ:1年10組

 

 ってな感じの為、空いている3組、5組、7組をどうにかしないといけない。

 その他にも、クラスによっては俺達が学園を牛耳るのに明確な障害物となる危険人物が居て、荷が重いやつもいる。


 特に注意すべき危険人物は今のところコイツらだろう。


 ミイナ・グランヴェル:1年2組

 サラリナ・ウィンテスター:1年6組

 ミエイル・ディ・スレイン:1年6組

 ノワ・ブルノイル:1年7組

 アイファ・ディ・スレイン1年7組


 これを踏まえて牛耳るクラスの割当をしなくちゃならない。


「1組と3組は俺、2組はミイナ・グランヴェルがいて大変だろうが、シュラ1人」

「えー僕がミイナちゃんと戦うのかい~? 勝てないと思うけどね~」

「良いから頼んだぞ。バビディには4組と5組を頼む」

「おう、任せとけ」

「キューラとフリーナは2人で行動して6組7組8組の3つを頼む。ここは要注意人物が多いが、キューラが知り合いなんだろう? 懐柔の方向でも良い」

「う、うん……やってみるよ……」

「ミーミャは9組、メイズは10組。2人共自分のクラスは速攻で終わらせて、キューラとフリーナの援護にすぐ入ってくれ。俺とバビディもそうする」

「良いわよぉ」


 よし、これでクラスの配分は良いだろう。

 キューラとフリーナの負担が大きいが、なに、俺やミーミャ達が合流するまでの時間稼ぎだ。

 あの2人は攻める気概が少ないから時間がかかるだろうが、その分相手も敵対しにくい。だからズルズルとそこが長引いてる間に、俺達が合流する為の駒として適任だ。



「決行は来週水曜日のだ。そこで俺が教師に最強を決める提案をする! 任せたぞお前ら」



 全員の返事を確認し、今日は解散する。

 この土日で各自作戦を練ってくるだろう。実に水曜日が楽しみだ。





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【あとがき】

 担当クラスまとめ



◆ガウル・ウルフガンド

 →1組、3組:特記相手無し。終了後キューラとフリーナに合流


◆シュラ・ミミアリア

 →2組:ミイナ・グランヴェル


◆バビディ・ハーピリア

 →4組、5組:特記相手無し。終了後キューラとフリーナに合流


◆キューラ・フラウベア&フリーナ・ランコンリア

 →6組、7組、8組:サラリナ・ウィンテスター、ミエイル・ディスレイン、ノワ・ブルノイル、アイファ・ディ・スレイン


◆ミーミャ・キャングル

 →9組:特記相手無し。終了後キューラとフリーナに合流


◆メイズ・ノーンブルウ

 →10組:特記相手無し。終了後キューラとフリーナに合流

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