第9話 説明。なんで?
「ふぅ……やっと帰ってこれたな」
少し遅くなってしまったが、ようやく家が見えた。
家のすぐ近くまでは公爵家の馬車で来たが、外の空気を吸いたかったので少しだけ離れた所に下ろして貰って、夜空を眺めながらゆっくり歩いた。
今日は疲れた。いや、もう、本当に……。
王族の授職の儀を見て、俺も黒い粒子を纏って職業に目覚めて、でもそれがテイマーで、何故かブルノイル公爵家に行くことになって、公爵家行く前に買い物をして、なんか試験されて、俺の職業は本当は凄いとか言われて、学園に入るってことになって、んでもって現在……っと。
なんて今日の出来事を振り返っていると、あっという間に我が家に到着する。
「ただいま~」
「ヴェイル! 大丈夫ヴェイル!? 怪我はない!?」
「ヴェイル!」
「ヴェイル大丈夫か!」
「ヴェイル兄さん平気!?」
俺が呑気に家の扉を開けた瞬間、母さんに抱きしめられた。
聞こえた声の感じからして家族全員居るだろう。結構夜遅いのに皆待ってるなんて。ナイルなんかは眠いんじゃないか?
「か、母さん……苦しい……首、しまってる……」
「あ、あら! ごめんなさいヴェイル、心配で心配で仕方なくて強く抱きしめすぎちゃったわ」
「母さん、ヴェイル兄さんきっと疲れてるよ。無事に帰ってきてくれたんだし、今日はもう休もうよ」
「そうね、そうよね。あなたもそれでいいかしら?」
「ああそうしよう。ナイル、良く言ってくれたな。お前もヴェイルとマイルと同じで賢い子だ」
少し取り乱していた家族も、ナイルの提案により落ち着きを取り戻した。そしてナイルの提案の通りに今日はもう休むことになり、父さんに髪の毛がグシャグシャになるくらいに撫でられた。
あまり表情には出てなかったけれど、どうやら父さんも心配してくれていたようだ。でもマイル姉さんが暗い表情をしていたのだけが少し引っかかった。
翌朝。
昨日は精神的に疲れたのもあってか、いつもより長く寝てしまった。いつもは遅くても早朝の爽やかな空気が感じられるくらいの時間には起きているのだが、今日はもう完全に日が昇ってしまっている。
「んん~寝すぎたな」
伸びをしながら両隣を見てみるが、ナイルもマイル姉さんももう起きて何処かに出かけているみたいだった。
まぁそりゃそうか。太陽の位置的に大体10時ぐらいだもんな今。
なんだか汗を沢山かいていたので、ササッと着替えてリビングに移動する。
「おはよう母さん」
「おはようヴェイル。こんなに遅くまで寝てるなんて珍しいわね」
「うん、やっぱり疲れてたみたい」
「そうよね。なにか食べる?」
「うーん、でももうお昼も近いよね」
「あと少しでザユードとマイルとナイルも帰ってくると思うから、軽くにしましょうか」
母さんは笑顔でそう言い、裁縫をしていた手を止めて料理を作り始める。
我が家は1日3食だ。家庭によっては1日2食、酷いと1日1食なんて所もあるみたいだが、我が家は父さんが決めたルールでご飯は1日3食食べるということになっているのだ。
食事は成長に大事だからしっかり食べること、だってさ。うん、良いね。
タンタンタンと食材をリズムよく切る音が家の中に響く。温かな日差しが差し込む窓際の椅子に座り、窓を開けば涼しく爽やかな清風が吹き込んでくる。
「あ~いい天気だな~」
「ヴェイル、なんだかおじさんくさいわよ」
なんて母さんの辛辣な言葉も今の俺には癒やしでしか無い。
しばらく待って出てきた軽食をぺろりと食べ、みんなが帰ってくるまで庭の畑の手入れをする。父さんとナイルがメインで手入れしているからやることは少なかったが、たまには俺もやって野菜に愛情を注がなければ。
そんな何の変哲もない日常を謳歌していれば、用事を終えた3人が帰ってくる。
「ただいま~」
帰ってきた3人は三者三様にくつろぎだした。
ナイルは母さんに抱きつきながら何をしてきたのかを喋っているし、父さんは狩ってきた獲物の最終処理をするために庭にいるし、マイル姉さんは無言で部屋に戻っていった。
やっぱりマイル姉さんの様子が変だ。
「ヴェイル兄さん! 今日はずっと寝てたね。今日はマイル姉さんと父さんと一緒に狩りに行ってたんだけど、父さんは勿論強かったけど姉さんの魔法も凄く強かったんだ! やっぱり姉さんは学園に行くだけあって強いね」
俺がマイル姉さんについて考えていると、ナイルが今日あった出来事を矢継ぎ早に教えてくれた。
さっき母さんにも言っていた内容だな。それだけ楽しかったんだろう。
そうだ、ちょうど良い。ナイルにも聞いてみよう。
「ナイル、今日のマイル姉さんの様子はどうだった?」
「どうだったって?」
「んーなんだか元気がなかったり、何か様子がおかしかったりしなかったか?」
俺の質問にうーんと悩む様子を見せていたが、すぐになにか思いついたようだった。
「あ! 確かにあの姉さんには僕も驚いたよ」
「ど、どんなだったんだ……?」
あまりにもナイルが真剣な表情をするため、ついつい俺も真面目な雰囲気になってしまう。
ゴクリと唾を飲み込んで、ナイルの言葉を待っていると、ナイルの後ろからそれが来てしまった。
「ナイル? 私の何に驚いたの?」
「ひっ!」
ナイルの肩にポンと置かれた手は、何の脅威も何の凶器も握っていないのにも関わらず、まるで何人たりとも触れることの出来ない何かを持っているかのようだった。
つまり……怖いってことだ。
「な、なんでもないよ姉さん……じゃ、じゃあね!」
ナイルは速攻で逃亡。何だか来まずそうな表情をしているマイル姉さんと、更に気まずそうな表情をしているだろう俺が残ったのだった。
「なによ」
「いや、なによって言われても……」
「なんなのよ」
「え、えぇ、なんでそんな怒ってんの……」
なんだかマイル姉さんが凄く怒っている。怒っているというか拗ねてる……?
「ふんっ! ヴェイルなんて知らない!」
「え!? ちょっ姉さん!」
結局なんでマイル姉さんが怒っているのか分からないまま、姉さんは庭に出ていってしまった。
追いかけようかとも思ったが、こうなった姉さんはしばらく口を聞いてくれないので、落ち着くまで待つことにした。父さんのところに行ったみたいだからどうにか落ち着いてくれる事を願おう。
こうして一家全員が揃い、お昼ご飯を母さんが作っているので俺も手伝ってサクサク作る。
お昼ご飯を食べる時に昨日のことについて話す事になるのだろう。全てを話すことは出来ないが、しっかりと説明をしなくちゃな。
……学園にも行かなきゃいけないし。
全員で食卓を囲み、美味しい料理を頬張る。やっぱり母さんの料理はものすごく美味しい。公爵家の料理にも引けを取っていない。
「それでヴェイル。昨日何があったか教えてくれるか?」
ある程度食事を食べ進めたところで、父さんから質問をされた。俺から言い出せば良かったのだが、なぜだか言い出しづらくて結局父さんに質問されるまで言い出せなかった。
「うん、話すよ」
だが結局は学園に行かなきゃいけないし、なんでそんな事になったのかも言えない所を省いて伝えなければならない。金券の事は言っても良いって言われているし、なんとか納得して貰えるだろう。
俺は昨日あった出来事をすべて伝えた。
中央広場でノワに出会ったこと。ノワの眼の前で粒子を纏いながら職業を得たこと。公爵家で試験をしたこと。ノワから金券を貰ったこと。そして学園に行かなければいけないこと。
「そう、そうなのね……」
俺が全部を話すと、母さんは少し寂しそうにしながらも、どこか嬉しくもありそうな複雑な顔をしていた。
この顔は姉さんが学園に行くことになった時と同じ顔だ。父さんも神妙な表情をしているし、ナイルに関しては何故か物凄く笑顔だ。「ヴェイル兄さんも凄いんだ!」みたいに思ってるんだろう。可愛い弟だ。
だがマイル姉さんは……
「なんで泣いてるんだよ姉さん」
「だって……だっでぇ……!」
なぜだか大号泣していた。
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