第57話 生徒会と風紀委員。かっこいい……
生徒会と風紀委員会。
それは学園生徒のトップとも言える、生徒達が代表して運営している自治組織だ。
教師の介入は一切なく、むしろ教師と対等の立場で学園をより良くするために活動している。教師による独裁を防ぐ目的もあるのだとか。
生徒会と風紀委員会は同じ目標を持って活動しているが、その活動の内容や担っている役割は異なっている。
生徒会は、生徒が学園生活を快適に過ごせるように教師や外部機関から守る役割を担っており、主に学園行事の調整や生徒の抱える問題を解決している。
風紀委員会は、生徒が学園生活を快適に過ごせるように生徒間の秩序を守る役割を担っており、学園内で発生した問題の解決や危険がないかの見回りを行っている。
更にこの2つの組織は、お互いがお互いを監視し続けている。
生徒の頂点とも言える立場に就いているからと、横暴な働きをしないようにお互いのストッパーとしての役割も担っているらしい。
そんな生徒会と風紀委員会への推薦が、水曜日の全クラス合同模擬戦で貰えるとなれば、クラスメイト達のやる気もみるみる上昇している。
「そういう事だから皆頑張ろうね。全クラス合同模擬戦の詳細については、1年生用の掲示板に貼ってあるから見てね。じゃあ今日も頑張っていこ~」
ネイリア先生がゆる~くそう締めくくると、皆が一斉に色んな所へ動き出す。
教室で本を開いて勉強を始める者に、次の授業のために移動する者。お弁当を出してご飯を食べる者。……えっもうご飯!?
今日は午前中が選択授業の時間のため、皆向かう場所がバラバラだ。ご飯を食べてる子は朝ご飯を食べるのを忘れたんだろう。
俺もご飯を食べてる子のように最初は授業が何も無い。
俺も学園の食堂に行くか……? 図書館で調べ物もありだな。いや、さっき先生が言ってた掲示板を見に行くのも……ラン先生は多分授業でいないよな。
んーどうしようか。
「じゃあヴェイル私は授業行くわよ。また後で」
「ん? あーノワは行動心理学の授業があるのか。了解、頑張ってこいよ~」
「頑張るまでもないわよ」
ノワは自信満々に笑いながら教室を出ていった。残されたのは俺とアイファだ。どうやらアイファも選択科目の授業がないらしい。
「アイファも1限はないのか?」
「うむ、ないな」
「じゃあお互い暇か。ってか、アイファは選択授業何を取ったんだ?」
「私は帝王学、実践武学、身体制御学、機能解剖学、応用戦闘学だな」
「なんともまぁ戦闘関連ばっかだな」
「知識面は幼い頃から城で嫌と言うほど学んできたからな。学園では戦闘に関連した授業を取ろうと思っていたんだ。帝王学は必ずとれと言われたから仕方なくだな」
「なるほどねぇ」
もっと政治関連の授業を取るもんだと思っていたが、確かに言われてみれば王族なんだから幼い頃から更に高度な講義を受けてるよな。
「それでこの空き時間をヴェイルくんはどう潰すんだ?」
「そうだなー食堂か図書館。さっき先生が言ってた掲示板なんかも見に行ってもいいな」
「取り敢えず掲示板を見に行ってみないか?」
「そうだな、行くか」
アイファの提案で掲示板を見に行くことにする。
入学時に配られた年間予定表で模擬戦の存在だけは知っていたが、詳しい内容までは知らなかったから丁度いいね。
掲示板があるのは1年生の授業棟の玄関前だ。まぁ歩いてすぐのとこだな。
「皆見に来てそうだな」
「ヴェイルくんの言う通りそうなってるだろうな」
早速アイファ、リオン、フブキと一緒に掲示板に向かう。
到着した掲示板の前には大勢の生徒が並んでおり、想定したいた以上に皆が模擬戦の内容を見に来ているようだった。
「ちょ、押すなよ! まだ見てるだろ!」
「俺だって見たいんだよ! 1限授業だから譲ってくれ!」
「じゃあ後で見に来いよ!」
「授業終わりは訓練するんだよ!」
到着した掲示板の前では、複数の生徒がもみくちゃになって軽い揉め事が起こっているようだった。
「……うわぁ、これは想定以上だな」
「自分で言うのも何だが、私が来て道を譲られないというのは新鮮で良いな」
この様子では全クラス合同模擬戦は、俺が考えている以上に重要な行事なのかも知れない。
まぁ確かに良く考えてみれば、全クラス合同模擬戦は王都内でも有数と言える広大な敷地がある学園でさえ、丸一日使わなくては終わらない規模の行事だ。
やはりそういう行事というのは人を集めるもので、1年生だけでなく教師や他の学年の生徒も見にくる。串焼きなんかの軽い食事をが出来る屋台も出ると聞いた。
それがただの街のお祭りだったならば、賑やかで良いね。だけですむ話なのだが、ここは我が国で最も大きい教育機関のスレイン王立学園なのだ。
王立学園自体が、更には学園に通っている生徒や教師が、貴族や大商人、有名研究機関や高ランク冒険者への人脈を持っている。
となれば見物しに来ている人達の目的は1つだ。
『優秀な人材の発掘』
学園には、王族もいれば平民もいる。
平民からしてみれば、この結果次第で将来の就職先が早く決まると考えてもおかしくない。
というか平民だけじゃなくて貴族にしても、五男なんかの兄弟の多い家に関しては、将来は平民落ちという話も少なくない。
そんな人達は、この合同模擬戦へ懸けている思いが人一倍強い。
『ここで機会を活かさなくちゃ王立学園に来た意味がない!』
『ただの就職先じゃ駄目だ……俺は王城に勤めるんだ!』
てな感じに。
王立学園に来るような人は向上心の塊だ。上に上に、もっと高みに登ろうとしている生徒ばかり。
だからこそ、ただの掲示板の前でもこれだけの騒ぎになる。
「どうするアイファ? これじゃしばらく掲示板見えそうにないぞ」
「……ふむ、仕方ない。ここは私が止めに――」
「静まれぇぇ!!!!」
アイファが騒ぎを鎮めようと前に出ようとした瞬間、俺達が来た方とは反対側から怒りを感じさせる叫び声が聞こえてきた。
「貴様らには規律というものがないのか! スレイン王国が誇る学園の一員として模範のある行動をしろ!」
「相変わらず君はうるさいね。怒鳴ってばかりじゃシワが増えるよ」
人混み越しに見えるその声の発生源には、2人の男女がいた。
片方は深い紺色の髪の毛をしたメガネの賢そうなイケメン男性。もう片方は深い赤銅色の長い髪の毛をそのまま垂らしている凛々しい女性。
大声を出していたのが女性の方だ。声の出し方からも分かるように、凛々しさの中に情熱を感じるかっこいい女性だ。
「私は風紀委員会副委員長をしている4年アイリス・グーディリアだ」
「僕は4年5組のレイナルド・アップラーン。一応生徒会副会長だよ」
「風紀が乱れていると聞いてな、たまたま私の手が空いていたから駆けつけた。1年共、ここはどこだ?」
俺達は派手な登場と唐突な問いかけに呆然として、誰も返事を返せない。先程もまでの騒ぎが嘘だったかのように静かだ。
そんな状況を見て、アイリス先輩の表情が明らかに変わる。
「貴様らは何も言えないのかあっ!!」
なんの返答もない俺達に対して、アイリス先輩が烈火のごとく怒っている。美人があれだけ感情むき出しに怒っている所なんて見たことがない。
こえぇわまじで。
「ここはスレイン王立学園だ! その意味がわかるか? 国の名前と王という地位名称が入っているんだ! 貴様らは腐っても優秀な貴族、豪商、平民なのだろう! そうともあろう者共がこの体たらくでどうする!! 規律を守り、全世界の模範となれるようにしろバカ者共が!!!」
律する様な怒り方ではなく、ただただ憤怒を表出させているような怒り方をするアイリス先輩に対して、その隣りでレイナルド先輩はやれやれといった態度を示している。
「落ち着きなよアイリス。彼らはまだ入学して1週間と少しだ。模範や規律なんて意識をしてる子のほうが少ないよ。まずは見せしめに誰か1人が罰を受ければ……」
レイナルド先輩はまともな人なのか……と思った矢先にとんでもない事を言い出した。
だが、今度はその発言に対してアイリス先輩がピクリと反応した。
「おいレイナルド。それは風紀委員の領域だ。生徒会が口を挟むべき話題ではない」
「ふぅん……そうだね。たしかにその通りだ」
眼の前で起こっている会話に、1年集団の中から息を呑む音が聞こえる。
俺だって今の会話にはドン引きだ。罰って何よ怖いって。
「――少し待ってくれないだろうか」
そんな俺達のビビリ加減を知ってか知らずか、1年の誰もが口を開かない状況の中で、アイファだけが臆すること無く口を開いたのだった。
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