第90話 冒険者活動。おや?

 ベッドが家に来てから1週間と少しが経過した。


 今日は土曜日なので、新しい依頼を受けるために冒険者ギルドに来ている。最近はノワに言われた事もあって、冒険者活動を積極的に行っているのだ。


 模擬戦が終わってからというもの、俺もうちの子たち全員も修行に超励んでいる。

 

 まず早朝の訓練は欠かさず行っている。

 それに加え、平日は放課後に王都のすぐ近くの森で討伐や薬草採取なんかの軽い依頼をこなしている。授業が午前中で終わる場合は、午後に少し遠い所で必要討伐数が多い依頼を受けたりして、臨機応変に受ける依頼を変えている。

 休日はそれこそ午前午後で別の依頼を受けたり、ラン先生の所の子と模擬戦をしたりした。

 食後に時間があれば夜訓練もしてるしね。


 1番修行をした日を思い出してみれば、相当な過酷さで活動していた気がする。


【とある日のヴェイルの1日】

 4時~6時:朝訓練。

 6時~12時:学園。自習と授業。今日は午前で終わり。

 12時~13時:昼食。その後冒険者ギルドへ。

 13時~18時:冒険者活動。街外依頼2つ。

 18時~19時:ラン先生とご飯。研究の話。

 19時~20時:冒険者活動。街中依頼1つ。

 20時~22時:夜訓練。不定期。

 22時~23時:自習。

 23時~:就寝。


 こんな感じで、ここ1週間以上頑張って冒険者活動をしたお陰で、昨日の放課後に行った依頼で冒険者ランクがFからEに上がった。


 だから今日は今までよりも上のランクの依頼を受けられる。

 俺は依頼ボードから良さげな依頼を1つ取って、それを受付に持っていく。


「シュバインさんおはようございます」

「ヴェイルか、おはよう。昨日Eランクに上がったんだってな」


 俺が向かった受付は、他の受付と比べて人が全く居ない所だ。

 そこには、筋骨隆々で少しでも無礼なことをしたら殺されそうな程に強面の男性が座っている。話し方も素っ気なく、聞く人によっては威圧感で萎縮してしまうかもしれない。


「はい、やっとランク上がりましたよ。早くもっと上に行きたいですね」

「無理はするもんじゃないぞ」

「分かってます。俺も死にたくないですしね」

「分かってるなら良い」


 ぶっきらぼうに言いながらも、毎回毎回心配してくれるこの人はすごく優しい良い人だ。ギルド職員からの評判も良いらしい。冒険者は寄り付かないけど……。


「シュバインさんの受付は相変わらず冒険者が居ないですね」

「いつものことだ」


 それもそのはず、シュバインさんは冒険者ギルドのサブギルドマスターであり、実際に違反をした冒険者に制裁を加える立場も担っているらしい。

 だから冒険者に怖がられて受付業務が滞るため、受付業務が1番苦手なのだとか。面倒見が良くて凄く冒険者活動がしやすいと俺は思うんだけどね。

 

「今日はフォレストウルフ20体討伐の依頼を受けようと思います」

「早速Eランクの依頼を受けるんだな。まぁヴェイルの依頼達成率を見れば大丈夫だとは思うが、万が一もある。気をつけていくんだぞ」

「ありがとうございます! 行ってきます!」


 シュバインさんに受ける依頼を伝え、受付を済ませて貰えたので、冒険者ギルドを出て王都の外へと向かう。


 冒険者ギルドの受付は、その依頼を受ける冒険者の依頼達成率や実力を評価して、その依頼を受けるに足る人物かを判断する役割を持つ。 

 だから、俺の身の丈にあっていない依頼だと受付に思われたら、さっき受けたフォレストウルフ討伐の依頼の許可を貰えなかったかもしれないのだ。


『早く討伐して午後も依頼受けるぞ皆。シュバインさんは俺達の事を結構評価してくれてるから頑張ろうな』

『任せろ王よ。フォレストウルフなど我が瞬殺してくれる』

『主のためなら、私の命をも活用してみせましょう』

『頑張るよ~』


 王都の街を走りながら、冒険者ギルドから一番近い東門へと向かう。

 走りながら脳内で会話している3匹は、リオンが俺の右肩に、ショウが俺の横を走り、フブキが頭の上でぐでーんとなっている。


『なんかさ、皆大きくなったよね?』

『なっているな。特に我が1番成長しているだろう』

『僕はそんなに変わってないよ~僕全然成長しないから~』

『私も少しですが大きくなりました』


 最近薄々思っていたのだが、うちの子達が大きくなっている。


 リオンが1番変化が分かりやすく、まだまだ肩には乗せられるが、はっきり重さが増した感覚がある。順調に獅子へと成長しているようだ

 ショウも大きくはなっているが、リオンと比べるとそこまでではない。それにリオンは全体的に大きくなって筋肉がついてきた様に思えるが、ショウはスリムな成長の仕方をしている気がする。

 フブキは本人が言っている通り、全然大きくなっていない。若干変わったのかな? って言われてみれば思えてくるぐらいの変化だ。どうやらフブキはそれほどまで大きくならないみたいだ。ずっと子猫って事かな?


『でも皆の成長と一緒に、俺の成長も感じるね。2人を乗せてるのに全然苦じゃないよ』

『我らは身体が成長するとともに、その能力も成長している』

『僕達が強くなったら主様も強くなるからね~』

『主の成長の速さは通常の4倍ですから。魔物をテイムすればするほど成長速度は上がりますよ』

『なるほどね。でも新しくうちの子にしたいって子は居ないよなぁ……』


 そこで丁度東門に到着し、門兵さんに冒険者カードとフブキ達のテイムの証である輪を見せて外に出る。

 門を出ればフォレストウルフが多く出現する森まで一直線だ。だけどまだ少し距離があるので、そのまま走って目的の森まで向かう。


 森に到着するまでに、さっきのテイムすればするほど強くなるという話を考える。


 テイムすればするほど強くなるというのは非常に魅力的だけど、だからと言って何でもかんでもうちの子にしたい訳ではない。

 やっぱり一人ひとりに愛情を持って関わっていきたいし、しっかりと大切にしていきたい。

 それに俺の身体は1つしか無いし、うちの子が増えれば増えるほど厳しくなってくる事だってある。食費なんかのお金関係もそうだし、そもそも皆がのびのびと生活できる場所がない。

 うちの子達がのびのびと暮らせなくてストレスを抱えるなんて事はあってはならない。かと言って、俺自身の生活の質を犠牲にするのは良くない。俺の感情はうちの子たちに伝わってしまうんだ。


『やっぱりそんな簡単にうちの子は増やせないな』

『でもそもそもね~主様は大切なこと忘れてるよ~』


 俺が改めてこのまま行こうかなと皆に伝えようとすると、フブキが珍しく食い気味に言葉を遮ってきた。


『忘れてるって何をだ?』

『この前ランさんとも話てたじゃん~覚えてないの~?』

『ラン先生? なんだったっけ? ……あ、あれか!』

『思い出した~?』

『思い出したよフブキ。そっか、そうだったな。俺普通の魔物テイム出来ないんだったわ』

『そうだよ~』


 衝撃的過ぎて忘れていた。俺は普通の魔物をテイム出来ない。

 これは俺の体質なのか、エンシェントテイマーという職業のせいなのかは分からないけれど、俺がテイム出来る魔物は『特殊個体』という条件が必要だとラン先生と予測をした。


 この条件になったのには理由がある。先週の休日にラン先生と実験をした結果からこう結論付けたのだ。


 その理由とは、まじで俺がテイム出来る魔物が居ないということ。ラン先生協力の元、俺はいろんな魔物をテイム出来ないか挑戦してみた。

 

 うん、尽く失敗した。

 なんなら全員に逃げられた。


 なんで?

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