第51話 被突撃訪問。はぁ……
【まえがき】
タイトルを、
俺のジョブがおかしい件
↓
俺のジョブがおかしい件 〜可愛いうちの子達と最強になります〜
に変更しました。ご承知おき下さい。
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日曜日。
昨日は新たにエンシェントテイマーの能力に気付いた。まさか、テイムすればテイムするほど俺自身が強くなるとは。
そこで寝る時に考えたのだが、もしかしたら俺にはラン先生が教えてくれたテイマーの動きは必要ないのかも知れない。
いや、必要ないは言いすぎているかも知れないが、通常のテイマーよりかは自由度が飛躍的に高いだろうと思う。
もしラン先生の教えを無視するならば、俺も自由に動けるしうちの子達も合わせて動ける。厄介な連携の要である頭役の俺を倒そうにも、俺自身も強い。
それに、俺以外、例えばノワにショウを、アイファにリオンを、ラン先生にフブキを同行させれば、離れて移動していても常に皆と連絡を取り合うことが出来る。
俺とテイムしたうちの子達だけでなく、それに追加で強力な戦力と密な連携が取れるかもしれないよな。それも俺が強くなるだけでだ。
これまじ最強じゃね?
と、考えたは良いものの、結論まだまだ俺自身は弱いので取り敢えずはラン先生の言う立ち回りを煮詰めていこうと思い直しましたとさ。
なんて夢のある妄想を布団の中で膨らませていると、いつの間にか夢の世界に飛び立っていた。両脇と頭の上がもふもふで快眠過ぎるのが悪い。
そうして心地の良い夢から目覚めた――いや、突然の来訪で目覚めさせられて今に至るという訳だ。
「なによヴェイル?」
「いや、今はなんでもないよマイル姉さん」
「なんか含みがある言い方ね」
「なにもー?」
俺は今マイル姉さんと一緒に雑貨屋に来ている。
それもこれも今朝のマイル姉さんの『突撃! ヴェイルの部屋急に訪問してみた!』の際に、リオン達の部屋を見られたのがきっかけだ。
というかそもそも、この前マイル姉さんの部屋に行った時はうちの子達を誰も連れて行っていなかったから、マイル姉さんはリオン達の事すら知らなかった。
そこで俺の部屋に突撃されたことで存在を知られたのだが、流石は俺の姉ということで、一瞬でうちの子達にメロメロなのだ。
で、そうなるとあれを怒られる訳で……
『ヴェイル! なんでこの子達の部屋がこんな質素なのよ!』
『ゔぇっ!? そのぅ……』
『そのぅ……じゃない! 買いに行くわよ!』
『……はい』
とまぁこうなる訳です。
いやね、ひとつ言い訳をさせて欲しい。
俺が学園に行っている時は、誰かが一緒に来たり、誰も来なかったり、皆来たりって感じなんだ。それに、来なかった子も街の散策とかに行って部屋にいないんだよ。
で、まだこの子達専用のベッドが届いてないから寝る時は当然俺のベッドで一緒に寝てるんだ。
つまりあの部屋全然使ってないんだよ! だから後回しにしてました。はい、すみません。
とりあえず、上寮住みのマイル姉さんを特寮に入れて俺の部屋に案内したアイギラ先輩には文句を言っておこうと思う。
「これなんてどうかしら?」
「どれ?」
マイル姉さんが見せてきたのは、ドギツイピンク色をした小さな棚だった。しかも何故か取手だけが何年も放置した池みたいな汚い緑色をしている。
「え、マイル姉さんこれ本気で言ってる……?」
「え? ええ、勿論本気に決まってるじゃない」
「……却下で」
「なんでよ!」
マイル姉さん相変わらずセンス崩壊してるなぁ。なんであんな頭良さそうな名前の職業でこんななんだよ……。
「そうよ! 店員さんに聞くわよ!」
「俺はこっちの方が良いと思うけどね」
「店員さん! どっちが良いかしら!」
「そちらの男性の方ですね」
「そんなっ……!」
容赦のない店員さんの一言。そして膝から崩れ落ちるマイル姉さん。
母さん、今日もマイル姉さんは絶好調です。
そんな風にマイル姉さんの提案、俺の却下、そして最終的に俺が選んだ物が店員さんに選ばれる。なんてのを数回繰り返していれば、約束の時間が近くなってきたので寮に戻る。
寮に着いたらささっと買った荷物を置いて、目的の場所に行くだけだ。
歩くこと数分、目的の場所に到着した。
眼の前にある扉をノックし、返事を待つ。
「はい」
「あ、マリエルさん。ヴェイルです」
「ヴェイル様ですね。今お開けします」
相変わらず声や立ち振舞だけを見れば出来たメイドさんの雰囲気を醸し出しているマリエルさんに扉を開けてもらい、部屋の中に入る。
部屋の中は、壁が一面薄い灰色で塗り替えられており、置かれている家具も白や黒、灰色といった落ち着いた色で統一されていた。
それでいて目が楽しくないという事もなく、子供心を刺激するような部屋ではないが、静かに心を盛り上げてくれるような芸術に近い部屋が完成していた。
「同じ部屋の作りなのに俺の部屋とはえらく違うな」
「マリエルはそこら辺のセンスも良いのよ」
俺の独り言に部屋の主であるノワから返事が帰ってきた。
そう、まぁマリエルさんが居ることからもお分かりの通り、俺達がやって来たのはノワの部屋だ。
今日はこれから公爵邸に行く予定なので、お昼近くにノワの部屋に集合という話になっていたのだ。
でもなんで今更ノワの部屋集合なのだろうか。いつものように特寮の玄関集合でも良かったと思うんだけどな。
そう考えていると、ノワが少し真剣な表情をして口を開いた。
「今日私の部屋に来て貰ったのは他でもないわ。先にあなた達、主にヴェイルに提案したいことがあるのよ」
「提案?」
「……提案ですか?」
俺はもう流石にノワと話すのに緊張なんてものは1個もないが、ほとんど関わりのないマイル姉さんは俺の服をちょこんとつまみながらビビり散らかしている。
「あなた達、今の家から引っ越さない?」
「引っ越しぃ!?」
引っ越しってお前あれか? あの引っ越しだよな? 荷造りして新しいお家に行きましょうね~ってやつだろ?
引っ越しなんてね! そんなものを気軽にぽんぽんできるお金は家にはありませんっ! 王都は家とか土地の値段馬鹿げてるんだから!
「いやいや、引っ越しなんて。そんなのいくら掛かるか分かんないから無理だって。なぁマイル姉さん?」
「う、うん! そんなお金ないわよ……!」
「はぁ……ヴェイル。マイルさんは仕方ないとして、あなたは本当に学ばないわね」
「え?」
なんで俺急にダメ出し喰らったんだ?
学ばないっていったい――あ。
「あなた学園のお金はどうしたのかしら?」
「スーー……ノワ様に頂いた金券のお陰で払えております」
「そうよね?」
「はい」
「そういうことよ」
「……はい」
俺とノワが静かに納得し、マイル姉さんは「え? え?」と困惑している。
まぁそうですよね。良く考えれば分かりますよね。今までノワ様から俺に頼んできた事で、1度も俺にお金払わせてないですもんね。ノワ様が払ってくれるって事っすね。
その話を混乱しているマイル姉さんに教えて、取り敢えず落ち着いてもらう。
理解して貰うと貰うで、今度はお金を使って貰うことに対してマイル姉さんが猛反対しだした。まぁそれも当然だ。俺だって流石にその金額は大きすぎると思う。申し訳ない。
「いやっ、でも家なんて……いくら何でもお金が大きすぎます! ブルノイル公爵家にもご迷惑になってしまわないですか!?」
「そうね端的に言うと全く迷惑じゃないわ。貴族街はそもそも平民が住めないから無理としても、あなた達の実家がある南東区域で中央広場に近い居住エリアだとしても、一家族の住む家を用意するくらいはブルノイル公爵家の財力からしたら端金よ。それにお金を出すのはブルノイル家じゃなくて私だもの」
「ノワが!?」
「ええそうよ。私も事業の1つや2つくらいやっているもの。ヴェイルには前子飼いの部隊を作るって言ったじゃない。それをこう、活用するのよ」
「まじか……」
同い年の子がもう事業を展開してるのか。貴族の子ってやっぱ口だけじゃなくて本当に優秀なんだな。
ノワに関しては今更か。
なんて俺が感心してる間にも、マイル姉さんはノワに反論していた。どうやら緊張もどこかに飛んでいってしまったみたいだ。どうしても申し訳ない気持ちが勝つらしい。
「それとマイルさん、あなたは何も気にしなくて良いのよ。そうよねヴェイル?」
「え? ああ、気にしなくて良いと思うぞ」
なんで俺に矛先が向いたのかは分からないが、はいと言えというノワの雰囲気に気圧されて取り敢えず頷く。
「でも……」
「良いのよ。子供がもうすぐ産まれるのでしょう? それにお父様が稼ぎ頭よね。今のあの家はスラム街に近くて、女性と子供だけが家に残っている状況は危ないわ。申し訳ない事にヴェイルが私と深い関係を持った時点で、あなた達家族も狙われる可能性があるのよ」
「ノワ様……」
ノワが心の底から心配しているといった表情でマイル姉さんの手を握っている。どうにも嘘くさい。
「というかそもそもヴェイルが後で全部返すって言ってくれているんだから気にする必要ないわ」
「えっ」
ノワさん!? それは学園費用とベッドとかの話で……
「そうなの……?」
「そうよね?」
マイル姉さんの潤む瞳、ノワの笑み。そしてマリエルさんのよだれ……よだれ!? なにしてんだあの人!
ああいかんいかん、今は関係ない。
マイル姉さん……ノワ……はぁ。
「……はい、そうです」
頷くしかないじゃんよう、こんなの……。
母さん、今日も俺は絶好調です。
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