第8話 食事会。これは!
絵画のある部屋から戻り、そんなに椅子が必要かと疑問を抱くくらい広い食卓につく。
少し待っていると料理が運ばれてくる。
「ありがとうございます」
アインさんやマリエルさんによって運ばれてきた料理は、どれもこれも俺の人生の中で見たこと無いほど豪華で、とても美味しそうだった。
「ヴェイル君、我が家の料理長が腕によりをかけて作った料理だ、気楽に堪能していってくれ」
「はい、ありがとうございます。どれも凄く美味しそうです」
もちろん俺は食事のマナーなんて習っていないし、何か食事会で気をつけなければいけないことなんて知らない。
まぁでもミルガーさんもこう言ってくれていることだし、普通に汚くない食べ方をしていれば大丈夫だろう。幸い家族に食べ方を注意されたことはない。
まずはサラダからいただこう。うん、美味しい。流石に瑞々しくて新鮮だな。このコロコロとした穀物のような物が触感が良くて良い。
次はステーキだ、食べる順番もまぁ良いだろ。一口サイズ……にはしておくか一応。うっま! なんだこれヤバすぎ! 噛んだ瞬間に濃厚な肉の味が溢れるのに、後味は重すぎずすぐに溶けていくぞ! 豚っぽい味だけどどうも複雑で表現しがたいな!
スープも行ってみよう。少し黄色がかった半透明のスープか、見た目はコンソメスープに似ているか? ん、これは人参……? 人参スープにしては色が薄いが、味は甘みの強い人参だ。野菜好きな俺としては好きな味だな、さっぱりしていてステーキとの食べ合わせも抜群だ。
なんて心の中で偉そうにも料理を評価しながら食事を楽しんだ。あまりにも美味しすぎて、あっという間に食べ終わってしまった。
「満足してもらえたようで嬉しいよ」
「いやもう本当に最高でした! 美味しすぎて叫びたくなるくらいでした!」
「うふふ、可愛いわね」
そんな風に雑談をすることしばらく、このまま楽しむだけ楽しんで帰るのもいいと思ったが、流石に気になっていたことを聞くことにした。
「あの、1つだけ聞いてもいいですか?」
「1つと言わずなんでも聞いていいよ」
「なんで俺をブルノイル家に招待してくれたんですか? 俺みたいな平民なんて、こんな丁寧な扱いをしなくても平気だと思います。それこそ少し命令をすれば、逆らうことなんて出来ません」
俺が質問を投げかけると、ミルガーさんとルフィーラさんとノワがお互いの顔を見合わせて笑っていた。
何かおかしなことを言ったか?
「ヴェイル君は面白いことを言うね、それは僕たちに向かってもっと酷い扱いをして下さいと言っているのかい?」
「いや、そうじゃなくて……!」
「分かってるよ。そうだね、たしかに貴族は絶大な権力を持っているよ、特に公爵家にまでなると王族以外は誰も逆らえないほどにね」
ミルガーさんが穏やかに答えてくれる。
「でもその権力をどう扱うかは僕たちの勝手だろう? 貴族の中には権力を笠に着て、横暴の限りを尽くす奴らも存在する。それは隠すことの出来ない事実だ。だが、僕たちブルノイル公爵家を舐めないで欲しい」
ミルガーさんから放たれる威圧感に、誰かの息を飲む音が聞こえる。
「僕たちは権力を笠に理不尽を強いるようなことはしない。強力な手段の1つとして使うことはあっても、卑劣な道具として使うことはない。……それにね、僕達は面白い人間が好きだ。そんな面白い人間を身分の違いで遠ざけてしまったら、僕たちにとっても勿体無いじゃないか?」
ミルガーさんは肩を竦めながら、お茶目な笑顔を俺に向けて話を締めた。
やっぱりこの人は貴族だ。身分を気にしない良い人だけれど、それはこの人が貴族だからこそ出る考えであり、そこにはどうしても理解し合えない感性がある。
貴族は貴族という生き物であり、平民とは根本から別の思考回路を持っている。だからこそ、平民は貴族を恐れるし、貴族は平民を何処かで見下している。それはミルガーさんもルフィーラさんもノワもそうだ。
けれど、俺はどうもこの人達の事を好きになってしまったようだ。居心地が良いし、この人達が困っているのなら無条件で助けたいとすら思える。
……これが貴族のカリスマというやつだろうか。
「そう、だったんですね。失礼なことを言ってすみませんでした。……あれ? 結局なんで俺が呼ばれたのか分かってなくないですか?」
いやそうじゃん、なんで呼ばれたのか分かってないじゃん。なんか上手く流される所だったじゃん。
「ははは、やっぱりヴェイル君は上手く流されてくれないものだね。正直なことを言うと、これはノワの独断専行でもあるし、ブルノイル公爵家としてではなくノワが主導している企画でもあるんだ。だからノワに聞いてもらえるかな?」
その言葉を聞いてノワの方を向くと、ノワはもっさもっさとデザートを頬張っている最中だった。
えぇ……大貴族の令嬢の食べ方じゃないですやん……ほっぺパンパンですやん……。
くそっ! そんなノワが可愛いと思ってしまったっ!!
「ははっ、ヴェイル君とは気が合いそうだね。今のノワの姿を見て可愛いと思っただろう? 貴族令嬢のそんな姿を見て可愛いと思うのはヴェイル君と僕くらいだよ、やっぱりヴェイル君も変人だね。ほら、その証拠にルフィーラがノワに説教しに行ったよ。普段はノワも気をつけているんだけどね、どうやらヴェイル君のせいで楽しくて羽目を外しすぎちゃったみたいだね。罪な男だねヴェイル君は。ねぇ、ヴェイル君もそう思うだろう? うちの可愛い娘であるノワを虜にしてねぇ? ねぇそうだろう、そう思うよね?」
「ちょっ、ミルガーさん怖い! なんで! そんな近くで早口で話さないで! 怖いから! 怖いからぁぁぁ!」
「ほっほっほっ賑やかな食卓ですな」
アインさん、和まないで! 助けてぇぇ!
なんだかんだミルガーさんも落ち着き、ルフィーラさんのお説教も終わったようだった。
そして、ノワによる説明が始まった。
「じゃあ改めてこの券をヴェイルに渡すわね。職業も申し分ないものだって分かったのだから、今度は受け取って貰えるわよね?」
「うん、ありがたく貰うよ」
金色の券を受け取る。何処にしまおうか悩むが、取り敢えずはテーブルの上に置いておこう。保管方法は後で相談しよう。
「その券は、元を辿ると王家から発行されているものよ」
「王家から!?」
じゃあノワは公爵家の責任でいたる所に入れるって言ってたけど、実際にこの券を使う場合は王家のことも考えないといけないのか!? じゃあやっぱりこの券は無理だ!
「ちょ、ノワこれやっぱ――」
「最後まで聞きなさい」
返そうと立ち上がる瞬間、ノワに待てをされてしまった。なんで俺は飼い犬でもないのに律儀に立ち上がる姿勢のまま固まってんだ。
そう思い座り直した。
「王家の発行だけれど、それは特殊な加工をしているからであって、しっかりと公爵家の物よ」
「なんだ、それなら良かった」
ほっと胸をなでおろす。
……いや公爵家の物でも十分やばいか。
「それで、その券は実際に貴族の中で流通している物を特別な方法で加工した物なのよ。存在を知っている人が良く見たら分かるレベルの精密な加工ね。加工前の貴族間で流通している物は、貴族という事を簡単に表すことのできる道具ね」
「へぇ、そんな道具があったのか」
身分を証明する物って感じか。
「で、その特殊な加工をされた券は銀・金ってあるんだけど、それぞれ特殊銀券・特殊金券って言われているわ。銀券が伯爵と辺境伯と侯爵、金券が公爵と王族ね」
「金券と銀券は違いがあるのか?」
「王族は金と銀に違いは無いって言っていたわね。けれどあの油断ならない王族たちの事よ? どう考えても金券の方が優秀な人材を集められるよねって意図が丸見えね」
ノワはそこで一旦区切ると、俺の顔をみてニヤリと笑った。
「まぁとにかく、この特殊銀券と特殊金券は私達世代の中でも特別優秀な人材を確保する為の施策ってことよ」
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