15-12話 ふりだしから決まってた

「…………そもそも、だ。」

「はい。」


 何を言われたとしても怯んでやるものかと笑みを浮かべた私の強固な意志は、だが続く言葉に簡単につまづいた。


「貴様はミラルドから愛を告げられているだろうが!それを放置してどうこう言うな!!!!」

「ぐっっっっ、」


 完全なクロスカウンターに鈍い声をあげて思わずうずくまった。いや分かる。これは実際私の不誠実さはあるが、それにしたって


「どうレスポンスしようにもタイミングがなかったじゃないですか!ずっとここ数日吸精鬼ヴァンプメアの居所探しでバタバタしてましたし!!」

「煩い!ここでこの箱のゲームをやっている間はいくらでも暇があるだろうが!分かったらとっとと行け!」


 そう言うや否や、私の腕を鷲掴みにする。普段の彼らしくもない乱暴さだ。


「ちょ、ルイスさ……うわっっ!!!!」


 男性の腕力に遠心力を組み合わせてぶん回されれば、たたらを踏んで防音魔法をかけていた領域を容易く放り出された。


「わ、ちょ、ちょ……!」

「あれぇ、シグちゃん。どうしたんですか?」


 つんのめってたたらを踏んだその先、のんびりとした声に私の肩は大きく跳ねた。悪いことをしたわけでもないのに後ろめたさを感じながら顔をあげれば、アメジストの無垢な瞳とかちあった。



 ◆ ◇ ◆



「(……先程から騒がしい。彼奴きやつらは何をしているんだ)」


 自分ハイネには詳しいことは分からぬ。漸く一週目を終えたゲームを手に、今後の動きを誰に聞くものかと首を傾げるしか出来ない。

 登場人物たちの作中での差異は中々ひどいものだったが、あらかじめシグルトから言い含められていたことも功を奏して無事にこうして一つの幕をおろせたようだ。


 あの“えんどろぅる”とやらを飛ばす手法も聞いておけばよかったが……。その辺りについて詳しそうなシグルトは、どうやらミラルドと話をするようだ。なればもう一方、吸精鬼ヴァンプメアの出る道筋を当てた男へと話を聞くか。

 防音魔法は未だ効力を残しているようだが、一人シグルトが突き飛ばされた以上、中に入っても支障はあるまい。魔力が張られた空間へと足を踏み入れる。


「フェルディーン。一度目が終わったが、次の道筋とやらは貴様が知っているのだろう?ここからどうす……れ、ば。」


 足が止まった。


 ──よもや、話もできない状態だとは思わなかったが。これは危ういかもしれんな。

 そう考えながらもどこか愉快な気持ちが湧き上がるのも事実。



「どうした?フェルディーン。顔どころか首まで真っ赤だが。なれでも風邪をひくことがあるようだな。」

「………っ〜〜〜!!!」


 何せこちらを屈服させるとあれだけ豪語していた男が、こうまで動揺する姿を見せるとは!


 耳を押さえていた手を離してそのまま衝動的に手に持っていたげぇむをこちらへと投げつけてきたのを受け止める。碧髪の隙間から覗く耳も顔同様に真っ赤に染まっていて、益々もって笑みが深まる。

 この男にこんな顔をさせられるのは、其方そなたくらいしかおらぬのだろうな。


なれらしくもない。このげぇむとやらは衝撃や熱で簡単に壊れてしまうから扱いには十分注意するようにと、シグルトは言っていただろう?」

「ちっ……!知った口を。

 ゲームを終えて次にやることを探しているんだったら今さっさと貴様がやるべき道筋を記してやるからそちらの壁と顔を突き合わせて犬よろしく待機することだな」

「随分と早口な。何を言われたかは判らぬが、相当望外のところから彼……彼女に一撃くらったらしい。」


 口元を覆って笑えば、露骨ろこつなほどにしかめられた顔がいっそ晴々しい。


「はっ、あの愚か者らしい与太だ。兄のを借りて……全くもってふてぶてしいものだ。」

 いったい何を言われたのやら。好奇心は当然のように湧く。が、その点を深く掘る代わりに口元を吊り上げた。


「ふてぶてしさをなれが語るか。その点では汝らはいい勝負だろうに。」

「煩い。」

「小気味いいな。われはこの件ではシグルト寄りの中立故。……諦めろ、フェルディーン。あのセレモニカの儀で彼奴を探しに向かった時点で、汝の負けだ。」


 床を思いきり蹴り上げながら勢いよくフェルディーンが立ち上がる。ここいらが潮時か。先ほどのシグルトの二の舞を演じる前に立ち去るとしよう。


 従者をモノだと呼びながらも、自らの足で探しに行かねば気が済まなかった男。ソルディアとしてすべきは第三者の生徒に捜索を依頼して、自らの責務を全うすることだったはずなのに。

 それを選ばなかった時点で、自ら手放せないと豪語したも同然だ。


 さて、あの男は一体どこで諦めて受け入れることになるか。ユーリカより向けられている思慕に気がつく気配もない朴念仁の折れる様を楽しみに、消えかけていた魔法を再び潜った。

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