【改稿版】1-3話 絶望、そして吹っ切れ
──目が覚めた時、不思議とすっきりとした気分だった。前世の友人たちを夢見たからだろうか。
ゲームの情報を思い出した一方、自分の生活像や家族の顔すら思い出せないあたり、前世の私はかなりの親不孝者かもしれない。あるいはゲームに付随する記憶しか思い出せていないというべきか。
その証拠に、夢で出会った人々とは多かれ少なかれ、このゲームを通して繋がりを持っていたはずだ。
夢の私はリア友に勧められたゲームについて愚痴という名の感想をマシンガンの様に語り、オンラインゲームの友人をPvP、俗に云うプレイヤー同士の戦闘でフルボッコにしていた。
……どれだけストレスが溜まってたんだ、私。特にオンラインゲームの友人はどう考えても関係ないだろう、本当に申し訳ない。
さて、そんな夢を見て気が晴れたのか、今の私は運命を諦めて受け入れるための覚悟を決めはじめていた。
妥協かといわれたら否定できないけど。むしろ笑顔で肯定するけど。でもそれだけじゃないったら。
そもそも、だ。この世界が本当にゲームそのままとは限らない。
たしかに世界観や人物の名前などは見事なまでに似通ってはいる。
とはいえ未来への確証がない以上は単なる偶然とか、私のデジャヴが予知能力レベルで発達してしまった可能性だってあるだろう。
……無理があるんじゃないかとか言わないでください。それくらい分かってます。
だが、既にゲームとは異なる点が出ているのも事実。その最たるものが私自身である。
ノアクルでのシグルト=クアンタールの性別は当然の事ながら男だ。
ご褒美スチルでシグルトの水着姿が手に入ったと狂喜乱舞したリア友から見せられた上半身はまごうことなき男性のものだった。
だが、シグリア=クアンタールとして生まれてこの方、私の性別はまごうことなき女。これは明らかに矛盾している。
そこ、「性別認識変換魔法でスチルが描き換えられたんじゃね?」とか「あの父親ならこの後性別が変えられてもおかしくないよな」とか言わないでください。あながち否定できない。
でもそんな大きな変化があったなら、シナリオエピソードで少しくらい話題になるはずでしょう。
また、万一この世界がゲームの中そのままとなる運命だとして。すでに未来を知っている私がみすみすそんなことをさせると思っているのか?
幸い、この世界の“今”はゲームの始まる五年前の時間軸だ。
ノアクルは学院が舞台ということもあり、攻略対象は一人をのぞいて全員学生。いくらゲームの彼らがヤンデレとして人間性が壊滅していても、この世界では大半がまだ未成年。
洗脳……もとい、調教……もとい、改心をさせるならば今の内だ。
え?物騒?ナニイッテルノカワタシワカリマセンヨ?
一度は攻略した相手に対しての愛情はないのか!とリア友の声なき叫びが聞こえてくる。
が、あえて言おう。ヤンデレにかける情けはないと。
たしかに前世ではノアクルだけでなくいくつもの乙女ゲームを攻略したし、乙女ゲーム自体が好きか嫌いかで問われれば大好きだ。
ゲームに出てくるイケメンの攻略対象、彼らと繰り広げられる甘いロマンスは胸踊るものがある。
だが、私にとって乙女ゲームをする最大の要因。
それは個性豊かな見目麗しい攻略対象でも、ましてや彼らの色気溢れるスチルの数々でもない。
私が乙女ゲームをプレイする最大要因、それはヒロインだ。
時に苦難に涙し、時に恋心に揺れる可憐な少女が逆境を乗り越えて自分の運命の相手を見つける。
そんな姿を見るのが私にとっての乙女ゲームの
イケメンのスチルや甘いボイスなんて二の次三の次。ヒロインがどれだけ可愛らしいかこそが私にとっては重要!!
そんな私がノアクルをやる羽目になったのは、夢でも見たリア友が鼻息荒くもこのゲームを激推しして来たからだ。
──このゲームのヒロインはかわいいよ!
『ちょっと』大変な目に遭うことも多いけど『ハッピーエンドでは』ちゃんと攻略対象と幸せな結末を築くから!!
………そうだな、ヒロインは可愛かった。それは認めよう。
だが、ヒロインを愛し、愛される対象である攻略者がヤンデレなのは許さん。
監禁?暴力?ストーカー?精神的苦痛?ふざけるな。
ヒロインと攻略対象がきゃっきゃうふふしていれば満足な私が、液晶邪魔だ!と思ったのはこの時くらいだ。
ハッピーエンド?
そこに至る前にヒロインの拒絶が有ったら成立してねえよ健気な乙女心にこれ幸いと甘えてんじゃねぇこのすっとこどっこい共一発殴らせろ!
もちろん、攻略対象には彼等なりの苦労や苦悩もあったわけだが。それとこれとは話が別だ。なにヒロインを泣かせてんだ手前ら。
辛うじて一通り攻略対象のハッピーエンドは見た物の、もう一度あの可哀想なヒロインの姿を見て、更に悲惨なノーマルエンド(停滞パターン)とバッドエンド(ヒロイン死亡)なんて見る気になるか?いやならない。
ましてや隠しキャラを探す気など微塵も起きず、如何にこのゲームがヒロインに優しくないかをリア友へ全力で愚痴ったのだった。
あれ?今日の夢は正夢でしたね。
そんな私に攻略対象の一人で死亡フラグが立っている状態とはいえ、あの苛立って堪らなかったゲームの、それもゲームより前の時間軸に来た。
ならば私のヤる事は一つ。
「シグリ……シグルト。もうすぐ侯爵家に着くよ。」
漂っていた意識が父の声で引き戻される。
大貴族の家へと向かう道中。
家で一番上等な馬車に乗っているためか、道が魔法により舗装されているためか、外の揺れを感じる事なく物思いに耽ってしまったようだ。
この馬、羽根が付いてるのに飛ばないのかとか無粋なツッコミはしない。
全ての家がそれをやったら事故が起きやすいとかそんな理由で空を飛ぶ時の条件が取り決められていたはずだし。
「解っております、お父様。……後生ですからあちらに着いてから呼び名を間違えるようなミスをしないで下さいね。」
「済まないね。…にしても、お前は落ち着いているね。昨日とは別人の様だ。」
「私も、腹は決まりましたから。」
待っているがいい、ルイシアーノ=フェルディーン。ここで会ったが百年目だ。
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