9-2話 顔合わせとステータス
ソルディアの一員として今年から二人の生徒が増えた。とあらば挨拶と今後の流れの打ち合わせはどのような組織でも必定となる。
故に入学式の翌日に集められた私たちは、一堂にソルディアの執務室へと介していた。
ゲームの中でもこれが攻略対象たちと初の顔合わせをする場面だったか。昨日ハイネ先輩と出くわしているのは見たから、彼以外のメンバーと彼女が初対面ということになる。
「ええと……改めまして、二学年に編入することになりましたユーリカ=ウィジットと申します。
まだ学院については右も左もわかっていないので、何分ご迷惑をおかけしてしまうと思いますが、よろしくお願いします……!」
忙しなく左右を見回しながらも背を伸ばし、小動物のようなしぐさで一礼をする、ヒロイン改めユーリカはその仕草も合わせてとても愛らしい。
気丈でありながらも不安そうにする彼女へ、安心させるように微笑みかけた。
「迷惑だなんてそんな。いきなりこのような場所に入ることになって戸惑うことも多いでしょう。気がかりなことがありましたら遠慮なくお声かけください。」
ゲームの中でもシグルトはこういった言葉を投げかけていたことを思い出しながら顔を覗き込むと、後ろからため息が聞こえてきた。
「貴様、本当にブレんな……」
「クアンタール、いい加減その悪癖は改善したほうがいいと思うぞ。」
失礼じゃありません?? ルイスと先生の胸倉をつかみひねりたくなる気持ちをぐっとこらえる。
何もおかしなことは言っていないだろう。そこでふんぞり返っているお前のほうがどうかと思うぞ俺様ルイス様。
いや、たしかゲームではシグルトの発言を鼻で笑って、『お声がけくださいだと? 俺の従者としての仕事一つとってもまともにできていない貴様が一体何を世話するつもりだ?』とか一瞬で好感度下げていたんだよな。
この発言だけ聞いたら乙女ゲームの攻略対象とはおよそ思えない。まあルイスの場合は最初の初対面の印象を最悪にしてからの優秀さでプレイヤーの好感度を調整していくタイプだったが。
さておき、初見一発目でやばいことを言い出すことがなかったのは良いとしよう。拳を振るわないのはそのおかげだ自らの行いに感謝しろ。
「右も左も分からない新入生の方に親切にするのは至極当然のことではありませんか? ミラルドも、分からないことがありましたら遠慮なく聞いてくださいね。」
「えへへ。はぁい、よろしくお願いしまぁす。」
ユーリカの隣に並んで立っているのは、ふわふわとした銀の髪とアメジストの瞳を持つ青年。ミラルド。
ラジティヴ公爵夫人開催のパーティー以来だから、さほど間を置かずしての再会だ。同じ制服を着ていると殊更彼の背が伸びたことがうかがえる。
相変わらず気が抜けそうな笑みを満面に浮かべて手のひらを大きく振った。
「シグちゃん、ルイルイお久しぶりですぅ~、ミラルド=アーノルドですよぉ。よろしくお願いします。」
「ルイル……っ、貴様その物言いは相変わらずだな。」
「えへへ、そんなことありませんよぉ。」
「褒めていないが???」
天然ってやっぱり強いんだなぁ。子ども並みの感想が浮かんだ。
/////
さて、ソルディアへの加入イベントが終わったとなれば、次はどうなる?
ゲームとしても、学院の暦としても何があるかは分かりきっている。次ははじめての精霊行事、セレモニカの儀だ。
「ということで、今後はセレモニカの儀に向けた練習を行っていく。アーノルドとウィジットは冬のパートだ。」
「春の方が人数が少なくなりますが、大丈夫でしょうか?」
「通常ならば春のパートを多くすべきだろう、だがフェルディーンは緑の加護持ちだ。精霊の相性次第ではあるが、
その言葉に頷きを返す。ミラルドもユーリカもまだ精霊と契約をして間もないことを考えれば、バランスとしてはいいかもしれない。
「曲目は去年と同じものを活用する。都度不具合が出れば調整するが、問題はないと判断した。
曲についてはフェルディーン、シドウ。パートとしての魔力の発動についてはクアンタール。それぞれが必要に応じて指導に付き合うように。」
「はい。」
「分かりました。」
口々に返事をする中に混ざりながら、思い出すのは前世での記憶。ノアクルでのゲームシステムだ。
ソルディアの一員となることで様々な精霊行事に関わることになるヒロイン。その成否に関わってくるのが彼女自身のステータスとなる。
これらのステータスは授業の選択や放課後の攻略対象との精霊行事に向けた特訓で上げることができる。とくに後者は一緒に特訓した攻略対象との好感度もまとめて上がる仕組みだ。
ヒロインがどのステータスを上げるかによって攻略対象からの心象も変わってくるし、恋愛イベントでもそれらのステータスが関わってくることもある。
今回のセレモニカでは
「……歌となると、肺活量はあった方がいいでしょうか。お二人とも運動などは何かされていますか?」
ハイネ先輩と初手イベントをしていたのを見かけた影響もあり、真っ先に確認してかかってしまったのが彼から逃げられるかの脚力……SPDなのは許してほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます