閑話3
エンディガルド暦61年
(本編開始前、リュミエル就学年)
『わが愛しの妹シグリアへ
拝啓。大樹の新芽が芽吹く頃合い、いかががお過ごしかな?春の精霊たちは皆華やかに己の力を発揮しているようだ。
さて、既に父上から聞き及んでいるかもしれないが、ソルディアに所属することが決まったよ。
もしかしたら別の家から祝いの品が送られてくるかもしれないけれど、包み紙やリボンが黒ずんでいるものは開けないように。或いは開ける前に鑑定術を依頼するように。
ご姉妹がいらっしゃるかとかそれとない見合いの打診も来ているけど、一旦は蹴りでいいかな?
別にうちは成りあがりたいわけじゃないから、爵位はそんな必要ないしね。
ああ、でもシグが『あの家の子が気になってて……』とおねだりしてくるなら別だけど。その時にはお兄ちゃん頑張っちゃうぞ★
リュミエルより』
『リュミエル兄へ
前略。
まずは栄誉あるソルディア入りへのお祝いを述べさせていただきます。
それはそれとして、鑑定術の件については予め仔細にご説明を述べてくださいませ。
うちにいた使用人の一人が、贈られてきた貴金属に目がくらんだようで封を開けてしまい、危うく爆発に巻き込まれるところでした。
まじないがかけられていると分かっていればその旨も
あと、お見合いについてはお父様とお兄様のご意向のままに。私とてクアンタール家の娘。家の為という立場は理解しております。
まあ、さすがに野望むき出しの脂ぎった年配の方に嫁げといわれたらその理由について半日余り問い詰めさせていただく
それでは、学院生活がご
お祈り申しておりますわ。
シグリア=クアンタール』
エンディガルド暦62年
(シグルトとしてフェルディーン家に仕えはじめてから)
『リュミエル兄へ
(平常よりも震えた筆跡。
激しい感情をこらえていると思われる)
前略。
そちらの学院生活は順調にお過ごしされておりますか?私は今次会った時にお父様をどうぎゃふんといわせて差し上げるかで思い悩んでおります。
現時点はちょっとお父様の嫌いなクモの大きい模型を特注して寝ている間に布団の周りをぐるりと囲うのが最良案でしょうか。
もしリュミエル兄も良い案がありましたら謹んで募集をさせて頂きますね。ただし私の負担の大きさの
あとは、同い年の頭でっかちに勝つ方法もお聞きしてもよろしいでしょうか。
かつて兄さんがゲンストルメンズ家にお仕えしていた時にあれだけ
それでは、良案お待ち申し上げます。
シグルト=クアンタール』
『愛しのシグへ
風の精霊が眠りにつき、冬の精霊が踊り出した今日、いかがお過ごしだろうか。
俺は頂いた手紙を朝食の席で何の気なしにあけた結果、思わず
一体そっちでは何があったんだい?友達に呆れた顔で足でつついて生存確認されたんだから理由くらい教えてほしいね。
まあ父さんに聞けばおおよそのことが分かるだろうからいいけれどさ。
それと、ゲンストルスメンズ家からの
リュミエルより』
『リュミエル兄へ
前略。
笑い過ぎでは??いえ、笑い過ぎでは???
すげない対応が出来るくらい気安いご友人がいることは安心いたしましたが、それはそれとして笑い過ぎでは?
ご自身の腹筋を鍛える機会が出来たと思って精進なさってください。なので教えません。
あとそういった感謝状は確かにありましたが同時に『あの息子さん一体何なんですか????』的な文面も合わせて送られていましたよ。認知してくださいませ。
シグルト=クアンタールより』
エンディガルド暦64年
(アーノルド家との見合い後)
『リュミエル兄、あるいはえるにえへ
前段とかまだるっこしい挨拶不要ですよね?不要ですね。
あの後ロクに話せませんでしたがつまり貴方私がチョコクラッカー……改めて名前をこうやって書くとなんかとても妙な心地になりますが。
とにかく、前世がある人間だと理解していたのですか?一体いつから?
というか、えるにえってそもそもこのゲームどれくらいご存じでしたっけ。キリキリ吐いてください。』
『愛しのシグへ
木枯らしを吹かせるべく冬の精霊が風の精霊と舞い踊る姿を見たよ。彼らは本当に踊りが好きだね。一つ舞うごとに寒さもますます深まってきたけれどいかがお過ごしかな?
そしてナニコレ尋問?笑う。
といってもゲームについては”チョコクラッカー”さんの方が詳しいだろ。俺がそれを知ったのも精霊と契約してからだし、実際ほとんど知ってることはないし。
まあでもシグが”チョコクラッカー”さんだったらあれだけ文句言ってた攻略対象に対して放置や静観はしないだろうなと思ってたから。
魂はそうだと前から思ってて、思い出しているって確信を持てたのはミラルド坊ちゃんの名前聞いて秒でお断りした辺りか。
ぽやぽや天然のやばいのがいるって話は聞いてたけどまさかメッドの弟だったなんてな、笑った。今度あいつに弟とのやりとりはどうなってるか聞いてみるよ。期待はしないでほしいけど。
愛を込めて リュミエルより』
最後に受け取った手紙を流し読み終えたところで丁寧に折りたたむ。
いや、あの兄貴魂見るとかそんなチート能力持ってたのかよとか、それ下手したら私が生まれた時から認知してたんじゃないかとか、どんな気持ちでこれまで一緒にいたんだとか問い詰めたいことは山ほどあるのだけれど。
「はぁ……えるにえがゲームについてもう少しでも情報があればよかったんですが」
とはいえこればかりは、ないものは仕方がないかと深々と息を吐き出す。
とはいえ確かにえるにえは前世でも
「攻略対象、後は教師と先輩と……あとは噂の隠しキャラだっけ?」
小さな皮で出来た手帳を取り出し、羽ペンを用いて書き記していく。時折滲むインクは記憶を探るための足跡だ。
自分を入れて五人のルート。
一通りハッピーエンドは見たが、ノーマルエンドとバッドエンドは見たり見なかったり。情報も大分過多がある。
「最悪の時には乱入出来るくらいに、鍛えておかないといけませんが……。」
物理は最終手段だが、それでも選択肢として持つに越したことはない。しみじみと呟いて自身の腕を見下ろす。
鍛えているお陰もあって年頃の女子よりは力もあるが、それでも少しずつ、ルイシアーノとの鍛錬でも黒星が増えてきたのも事実で。
「──ううん。複雑ですね。」
筋力差もあるからいつかは追い付けなくなる日も来るかもしれない。
分かっていながらも変わってしまう時勢に胸中穏やかではいられず。投げ出すように机に顔を伏せた。
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