12-4話 錯綜と懸念点

「ねえねえユーちゃん。シグちゃんとルイルイを一緒にって言ったのはどうしてですかぁ?」

「えっ、も、もしかして何か不味かったでしょうか……!?」


 場面が変わりこちらは二角うさぎダウミラージェ捕獲のための三人組。……ではあったのだが。ハイネが二角うさぎダウミラージェを驚くべき速さで一匹捕らえたこともあり、早々にすべきことがなくなった面々とも言える。

 その為時間までは他に捕獲できるものがいないかと周囲の索敵をしながら、待ち合わせ先へのんびり向かう道中だ。


「ううん。でもボクとユーちゃんはこの森に来るのはじめてでしょ?だったらボクとユーちゃんは分けて、それぞればらばらの方が良かったんじゃないかなって思って。」

「……考えとしては順当か。二人初見がいようと、自分に問題はないが。」

「ハイちゃん先輩お仕事早かったですもんねぇ。」


 ミラルドとしても不満は特にない。強いていうのならシグちゃんと一緒だったらお喋りが楽しめるなとか。ルイルイと一緒だったらシグちゃんについて聞いてみたいなと思ったくらいで。


「ええと、深い意味はなかったんです。ただ、ルイシアーノさんとシグルトさんは長いお付き合いというお話でしたから、森で動き回るとなると、お二人だけの方が連携が取れるのではないかと思いまして。」

「そうだな。昨年もあの二人は共に組ませた方が相性は良かったか。」


 ユーリカの言葉に同意するようにハイネが頷きを返す。でもミラルドとしては納得がいかないようで、その言葉に唇を尖らせた。


「えぇ〜?でも、ずっとおんなじ人とばっかり一緒だと、他の人とのれんけいも伸びなやんじゃいませんか?そんなに強くない子たちだったら、たまにはちょっと違うのも楽しいと思いますよぉ!」

「……アーノルド。魔の森は遠足ではない。」

「ふふ。でも確かにそうですね。次にまた分かれて動くことになるのでしたら、今度は違う組み合わせも良さそうです。ルイシアーノさんともあんまりご一緒する機会はありませんでしたし。」


 出てきた名前に分かりやすくハイネが複雑そうな顔をする。セレモニカの儀で人となりの理解は進んだとはいえ、それとこれとは話が別なのだろう。


「……あの男の何処がいいんだ。」

「あ、え。何処が、ですか!?」

「んも〜、ハイちゃん先輩。そんな風にいきなり聞いたらユーちゃんもびっくりしちゃいますよぉ〜。」

「い、いえ!ルイシアーノさんは確かに言い方は厳しいですけれど、間違ったことは言いませんし。

 ……あとはやっぱり、最初に会った時の印象は大きいですね。私、夢で魔法を見たことは沢山ありましたけれど、実際にあんなステキな魔法を見たのは初めてだったんです。潰れた花が蘇るみたいに……!」

「…………。」


 目を輝かせるユーリカとは裏腹に周囲の空気が重くなるハイネ。対称的な動きを見てミラルドは小さくわぁと声を上げた。


「そんな顔するのならハイちゃん先輩、聞かなければいいのに〜。」

「……五月蝿い。後悔はしてる。」

「え?え??」

「ほら、ユーちゃんが困っちゃってます。ユーちゃんがルイルイのこと好きだからって、あんまり質問しつこくしちゃ駄目ですよ。」

「すっ!好きなんてそんな……!」


 真っ赤になって慌て出すユーリカに違うのかと銀の髪の持ち主に首を傾げた。


「違うんですかぁ?いっつもテストで良い点を取ると嬉しそうにルイルイに声掛けてるなって思いましたけど。」

「あ、あれは。ルイシアーノさんは忌憚きたんない感想をくださりますから。自分の至らなかった場所もよく分かるから……!」


 やや過剰にも見える否定の様子。恥ずかしいんですかね?とミラルドが傍らの男性の顔を見れば、分かりやすくその眉間にはシワが刻まれていた。


「ハイちゃん先輩、そんなこわいお顔しちゃだめですよ?」

「アーノルド。……ユーリカ。課題点や懸念点を知りたいのなら、自分も力になる。フェルディーンとは得意な科目も異なるだろうが、聞きたいことがあるなら聞いて構わない。」

「あ、ありがとうございます!」


 ぱっと顔を綻ばせたユーリカに、漸くハイネも表情を緩ませる。分かりやすいなぁと小さくミラルドが笑っていたところで、ふと何かに気がついたように視線が下へと落ちる。


「ああ。ユーリカが良ければ明日の放課後にでも……、……アーノルド?」

「どうかなさったんですか?」

「あれ、二人ともこれ、落としましたかぁ?」


 そう言って拾い上げたのは小さな金属製の塊。森で磨き上げられた金属片が自然発生するわけもない。土に埋もれてもいなかったのを見るに、この場にいる誰かの落とし物かとも思ったのだけれど。

 けれどもこの場にいる面々の物ではないようで、口々から否定が返ってくる。それでは一体何なのだろうかと疑問符を浮かべていると、変化はもう一つ。


「──あれ。お二人とも、向こうの方から、声が聞こえてきませんか?」

「声……?」

「うぅん、ボクには聞こえないです。」


 男性陣二人には聞こえない声。一体何事だろうか。疑問はこの場で解決できるようなものではなく。


「ユーリカ。その声とやらはどちらから聞こえてきて、何を言っているか判るか?」

「方角は向こう側だと思うのですが、何を言ってるかまでは……。」


 そういって指し示す方角は、森の奥へと続いている。通常ソルディアのメンバーも必要以上に奥に入ることはない地。鬱蒼とした森は陽の光も遮り、漂う魔力濃度も濃い。

 拾い上げた金属片といい、気のせいで片付けるには少々懸念が大きい案件だ。


「……確認は必要だが、まずは合流を優先すべきだな。ユーリカ。その声が聞こえなくなったら教えてもらってもいいか?」

「は、はい!」


 通常なら起きえない事がこの魔の森で起きている予感。自然と緊張を抱きながらも、一先ずは別れている二人との合流を急ぐべく、それぞれの歩を進めた。

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