4-4話 相互対話?なにそれおいしいの?

「あれ?ボクなにかまちがえちゃったかなぁ?」


 聞きなれぬ単語と共に悲鳴をあげた私に対して、気にした様子のないミラルド。小首を傾げれば癖のある柔らかな白銀の髪が揺れる。

 小動物とも見まごう愛らしい仕草だが、それに流されてはいけない。このまま失言を重ねるのもいけない。


「いえ、そうではなくてですね……ちょっと待ってください。」

「はぁい」

 再び制止を促せば今度は素直な返事がかえってくる。手は相変わらず握られたままだから、あとずさりしようがないのは玉にきずだが。

 ひとまず、整理しよう。

 深く息を吐き出して記憶を引っ張り出す。


 先ほどの発言、『きっととってもステキな赤ちゃんが出来る』というものはヒロインを監禁した際にも出ていた台詞だ。


 ヒロインちゃんはボクのものですよね?ボクとヒロインちゃんの赤ちゃん、きっととってもステキなんだろうなぁ。


 うっとりとした顔で舌を絡めるキスをしながらヒロインを押し倒す……監禁シーンでの初暗転場面だったはずだ。ゲームそのものは18禁ではないので濡れ場は大概がそうして省略されている。


 ちなみに明確にこの後濡場だな、と分かりやすい演出を挟んでいるのがこのミラルドともう一人、先輩ポジションのキャラだけだったはずだ。添い寝なのか致してるのか微妙なシーンは他のキャラでもあったけれど。


 精神的に追い詰めるサイドと肉体的に追い詰めるサイド、そして性的に追い詰めるサイドがくっきりと分かれているのもノアクルの特色だった。嬉しくない特色だな??


 押し倒されたシーンでは、年下の少年の狂気にされるがままとなったらバッドエンド。可愛い可愛いボクのペットとしておうちの中にしまわれる。

 その愛らしい相貌からは想像もつかない歪んだ愛着を向けられるのが大好きなファンが多いと友人は熱弁してたが、ヒロインを監禁して自由を奪ってる時点で私としては親指を勢い良く下に下げたい。


 抵抗をして逃げてしまえばノーマルエンドだ。

 拒絶されたミラルドはその理由を心底理解できないと言うように目をみはる。


 それまで自分のやることをなんだかんだと許してくれていたヒロインからの初めての拒絶にそれ以上追い縋ることはない。

 ちなみにこのルートに入るともうミラルド関係のイベントが何も発生しなくなるので、攻略対象同士の絡みを回収したい人には向いていない。


 ハッピーエンドに至るためには?

 実はそもそも、このイベントを発生した時点でハッピーエンドは見込めない。


 天然は一度自分の中で定めてしまえば止まらない。いわば暴走列車も同じ。

 なので私は一度ミラルドのノーマルエンドを見た後にハッピーエンドに行くまで何度もノーマルとバッドを繰り返すというやらかしをしてしまった。


 その時はどうしようも無くなって友人に攻略方法を聞いて以来、やばいエンドに行ったら迷わずヒントだけはその友人にもらうようにしていた。

 おかげで助かりもしたけれど、代わりにそのいかなかったルートの良さ(酷さ?)を語られたから実質イーブンなのでは?


「シグリアちゃん?」

「はっ」

 しまった。ついよけいなことまで考えてしまっていた。変わらずに手を握りしめる少年の、アメジストの目を見て危機感を覚える。ついでに怒りも。


 危機感の理由は先程思い出していたルート分岐。そもそもハッピーエンドの道筋にはヤンデレイベントを起こした時点で詰むのだ。

 つまり今の私は実質詰んでいる。手を握られていなければ何ということかと頭を抱えてしゃがみ込みたくなるところだ。


 だが考え方を変えてみよう。ハッピーエンドに行けないのならばノーマルエンドをせめて選べばいい。

 別に私はヒロインではないのだから、仮に恋愛フラグが折れて何か問題があるか?

 見合いうんぬんの話はあるが、兄も会うだけでいいと言っていた。ここで遠慮なくお断りをしたとしても問題はないわけだ。


 というか親子喧嘩の余波でお見合いさせられた時点で逆ギレも許されるだろう。それに、私は既に逆ギレをするまでもなく怒りを抱いている。


 兄にではない。

 今目の前にいる、或いはゲームの中でのミラルド=アーノルドに対してだ。


 ひょっとしてお前は可愛くてソルディアの関係者の女の子なら誰でもいいのか貴様っ!?!?そんなやばい男に誰がヒロインをやるか!!


 よし、はっきりお断りをしよう。

 世間はそんな可愛くお願いをすれば受け入れてもらえるというほど甘くはないことを伝えてやらねばならない。やんわりと少年の手を外して一歩下がった。


「……申し訳ございませんが、ミラルドくん。私は兄たっての願いでお見合いは受けました。ですが、婚姻までは考えていないのです。」

「そうなのですか?」

「ええ。ですので先ほどの婚姻の申し出も、辞退させてくださいませ」


 ここ暫く参加していた華やかな会合で見せる胸元に手を当てた一礼とはことなり、ドレスの裾を摘み足を半歩引くカーテシー。


「じゃあ、いつになったら結婚してくれるんでしょうか? 学院を卒業してからだと二十歳になったらですか?」

「いやいやいや」


 天然って、怖い。


 結婚を考える年齢になったら否応なしにしようね♡ってことです?

 いや、お見合いからの婚約はその流れが基本ですが、今の私の発言どう聞いてもお断りでしたよね?

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