14-10話 違和の正体
作戦の主軸は分かりやすい。
かの魔獣が氷結に似せた幻惑魔法を操る可能性が高いのなら、それを無効化できる誰かが囮になればよいという話。
「それ、私に囮になれって仰っています?」
そこまで聞いたところで確認するように自らを指差す。いえ、なれというのなら拒否する理由もありませんが。私とてソルディアの一員ですし。
「……いいや。指輪さえあるのなら誰しもが囮になる条件を満たすことになる。大体貴様は
それはたしかにと頷く。
彼らがどれほど情報共有を果たしているかはわからないが、違和感を持たれる可能性はなるべくならば排除すべきだ。
だが、ミラルドはそうは思わなかったらしい。不服の色を瞳に乗せて口を尖らせた。
「えぇ〜。逆に、だからこそ注意を引っ張れそうとかルイルイなら言いそうな気がしましたけれどぉ。」
「それはまあ、確かに。」
失礼な感想だとも思うが、ルイシアーノなら言いそうだ。珍しく本人も幾許かの自覚はあったのだろう、
「え、なんですかその顔……変なものでも食べたんです?」
「エイリアでもあるまいしそんな訳がなかろう。」
「ルイシアーノ様はわっちをなだど思っどるんで!?」
「文句があるのならその方言を直せ。母上に言いつけるぞ?」
「ご無体なぁ!」
こう言ったやり取りばかりは何歳になっても変わらない。精霊に選ばれるかは魂が定着する7つまでに決まるのと同じとはよく言ったものだ。
途中からはじまったエイリアとルイスのやり取りに苦笑をにじませていれば、ここ数日のうちにすっかり爆弾魔になった青年がまたまた
「うんうん、まさかシグちゃんのその格好がやだから別の人に囮させて指輪どうぞ〜ってさせようなんて……ないですよねぇ」
「っ、」
「は?」
途端、大きく肩を跳ねさせるルイシアーノを見て私は今度こそ目を丸くさせた。どういう意味だそれ。
先ほどまで横暴なまでにエイリアに嫌味を言っていた男へと目を向ければ、あからさまに目をそらしてくる。
…………は?まさか図星なのか?
──ふーん、ほーん……。そういう態度をとるわけですか。
「ルイシアーノ様、まさか今のミラルドの言葉本当です??気まずいのは一億歩譲って私の責任にしても、さすがのそれは道理が通らないと言いますか、公私混同では?」
「……囮にされる側の文句ならいざ知らず貴様に文句を言われる謂れがどこにある。シグルト。」
「ソルディアとしての公よりも個人的感情を理由にされたらその一員としては文句も言いたくなりますが??」
思わず数歩詰め寄って睨みつける。
エイリアの前だから性別認識変換魔法についてや告白についてまで口にすることはしないが、それくらいこの男の頭の回転力なら察しているだろう。察しろ。
だというのにいつものように嫌味めかした文句を言い返すこともなく、むしろ岩のようにだんまりを決め込むルイシアーノに、腹の奥がふつふつと沸き立ってきた。
……思えば告白して以降は何だかんだと避けられていたが、村に来てからはそれがより顕著だった。
情報収集だからと意図して距離を置かれ。何より頑なに、彼が私を呼ぶ名も変わらぬまま。
幼少期から知られていた者たちを除けば、彼は学院に入って誰よりも先に、私の性と本名を知ったはずなのに。
そんなに私の告白は予想外だったか?戸惑ったか?
拒絶したいと思っているのか?
──そんなに。
衝動のままに足元の石を踏み潰すと、無意識に強化魔法を使っていたのだろう。鈍い音をしてひび割れる音。
傍にいたエイリアが若干顔色を青ざめて息を飲み込んだ。
「……重要なのは敵方からの呪文の影響を受けないこと、でしょう?なら別に私でも問題はないかと。
そもそもソルディアの一員でありあの日
行きましょう、エイリア。巻き込んでしまってすみませんが西の森に行く準備と案内をよろしくお願いします。」
「わ、わっちはかまわねども……」
「シグルト!!」
気弱な少女の言葉を遮った怒声。だが私もそれをうかうかと聞くつもりはない。
肩を跳ねさせたエイリアを庇うように半歩進んだ上で、怒りに燃える金を睨み返した。
「今の私をその名で呼んだところで頷くつもりはありませんよ。ルイシアーノ。今の私は貴方と対等なソルディアの一員であり、女性であるシグリアなのですから。」
そうとだけ言い放って、エイリアの腕を掴んで歩き出す。こんな時にすら名前を呼んでくれない男に心底苛立ちを覚えながら。
こうなったらどこの魔族の配下だか知らないが全力で八つ当たりしてやるからな!!タイミングの悪さを恨め!!
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