4-1話 現れたヤンデレ2号
ミラルド=アーノルドもノアクルに登場する攻略対象の一人だ。
母親に似た白磁の肌に父親に似た銀の髪。そして祖父譲りのアメジストの瞳と巨大な魔力を持ち、神官の家の出でありながら魔法学院に入学。ソルディアの一員として選ばれるのだ。
ちなみに年齢はヒロインより一つ下。平民の出から二年次に中途入学するヒロインの後輩ポジションだ。
性格はかなりの不思議ちゃんタイプ。栗色の髪を持つヒロインのことを「リスちゃんみたいですね」と懐いて?可愛がって?くる。
厳格な神官の父、論理的な長兄、冷淡な次兄を持っている家庭環境。加えて母親が熱心なソルディア信者という中での突然変異の塊のような少年。
正直家での会話とか全く以て想像出来ない。天然を絵に描いたような青年ではある。が。
Q.彼もヤンデレですか?
A.はい!その通りです!
…………テンションがおかしいって?
ヤケになってるんですソレくらい察しろ。
不思議系という性格に違わず、入学当初からヒロインを愛玩動物扱いしてくるミラルド。頭を撫でたり、抱きついたりと恋愛スイッチが押される前からヒロインへのボディタッチが多い。ヒロインにそんな馴れ馴れしく触れられるなんて羨ましいなそこ代わりやがれ。
だが、その感情が恋愛感情を含めた執着へと変わった辺りでヤンデレスイッチがオンだ。
ヒロインはボクの物ですよね?だから
お前それ平たく言えば、っていうか言わなくても監禁だからなそれ?
確かスチルではヒロインの両手に金色の意趣を凝らした美しいアクセサリーをつけている場面が映っていた。アクセサリーっていうか手錠で、場所はミラルドの個人用宅の一室だった。
いくら念願のソルディア入りした息子のおねだりとはいえ、監禁可能な部屋、下手したら家を丸々与えるとかここの家の親は何やってんだこのモンスターペアレントめ。
しかもこいつの何が厄介かって、唯一他のキャラの様な悲惨な過去が存在しないという事だ。少なくとも私が知る限り、ゲームでそう言った描写はあがっていなかった。
他の奴だったら、例えばルイスの様に何らかのトラウマがある奴だったらその傷抉って……いや、抉っては駄目か。
その傷を何とかしてなくすか新たに調きょ……代わりになるものを見つければいいだけだ。
実際ルイスの傷は癒えるまでいかずとも、幾らかの出来事を変えたおかげだろう。あの性根自体はいくらか改善はしている。
けれども、その過去もないと言うことはこいつは天然物のヤンデレ予備軍と言うことだ。天然物と天然を掛けただろうお前って?おや何のことやら。
……話が逸れた。つまり一筋縄ではいかない相手ということ。
まあ、その分今の内から関係性を築いておいて、もしもの時のストッパーになれるのなら良いかもしれないが。……心の底から面倒くさいなおい。
とまあ記憶の奥底からミラルドの情報を思い返しながら、顔は今現在、全力で笑顔を作っている。
身につけているのは最近身につけていたシンプルながらも動きやすい黒の給仕服とは真逆の、ヒラヒラと艶やかな布地で構成された柔らかな薄桃色のスカート。
結局こちらの固辞をさして気にすることなく、あれよあれよとこのお茶会という名のお見合いがセッティングされてしまった……。
実質我が家での権力構造は、ソルディアとして選ばれた兄がトップである以上逆らいようなかったのは事実だが、一度同意したのが運の尽きということだ。ぐぬ。
胸中で兄への悪態をつきながらも、表面上は笑顔を絶やさない。この場にいたら机下でこれでもかと足を蹴ってやったのに。相席人なら普通保護者だろうと当たり前のようにそこは父に押し付けたらしい。
「わぁ。お人形さんみたいでとってもかわいらしいんですね」
「おほめに与り光栄です。そうおっしゃるそちらこそ、その髪が陽の光を反射して、とても美しいわ」
誉め言葉には一瞬気を緩ませそうになるが、ピシッと気を引き締めて柔らかな笑みで賛辞を告げる。
油断してはならない。
目の前にいる愛らしい少年……彼こそが、先日から話のタネが尽きない元凶、ミラルド=アーノルドだ。
まだ成長期が来ていない顔立ちはまろやかな頬に銀の光を蓄えた睫毛。およそ美少女と呼んでも差支えはない顔立ちだが、その奥に孕んでいる狂気はきっと変わらない……というか、無邪気な子供から変わらなかったからこその狂気ではなかろうか。
いや、勿論この後彼が何かの創作物とかそういうのにハマった結果性癖が捻じ曲がった可能性も零じゃありませんけれど。そんな攻略対象はイヤだ。迫真の顔で言いたくなる。
「ふふ、ありがとうございます。でも本当、かわいいなぁ。……あのね、ボク男だけどかわいいものが好きなんだ。変じゃない、かな?」
おずおずとこちらを見上げてくるその仕草は、抱きかかえているくまのぬいぐるみと相まってとても愛らしい。思わず可愛いもの好きとしてくらっと来てしまいそうだ。庇護欲を沸き立ててくる。
「えぇ、勿論。変だなどと……そんなことありませんよ」
貴族社会が未だ残るこの国には男性ならこうあるべき、女性ならこうあるべきという見本は確かにある。
だが私の前世が生きていた時代を考えればそういった枠に捉われて本当に生きたい自分自身を抑圧する方が問題だろう。だから心底から首を横に振れば、安堵したように目の前のアメジストが輝いた。
「……!えへへ、良かったです。お母さまにお見合いをしなさいって仰られた時は緊張してたのですが、シグリアちゃんがやさしそうな人で安心しましたぁ」
「ええ、そうね。聞けば御兄様と同じく、魔力のコントロールに秀でた御息女ということですから。しっかり仲良くなるのですよ」
いっそ清々しいまでにソルディアへの羨望を隠さない母親に向ける笑みが乾いたものになるのは仕方ないと思う。
うちの父親がせめて文句の一言も言ってくれれば良いのだけれど、笑いながら口髭を撫でつけるだけだ。この基本放任主義男め。
「ふふ、息子と娘は私の自慢です。二人とも私の魔力など遥か昔に追い抜いていますから。駄馬が駿馬を産んだとよく周りには言われますよ。」
「あらあら、そんな卑下なさらずともよろしいのに。」
うふふ、あははと背景に花が舞っていそうなやり取りだが、実際の気温はどことなく冷たい。秋が到来し冬へと差し掛かっているからか、貴族にありがちな社交辞令が原因かは分からないけれど。
それらのやり取りを聞きながら貼り付けている口角が
「お母さま、二人でお庭の散策をしながらお話してもいいですか?ボク、シグリアちゃんに沢山おうちのステキなところを案内してあげたいです〜」
「あら、それは良いわね。楽しんでいらっしゃい」
ナイス横槍!テーブルの下でぐっと握り拳を作れば、父親からの生暖かい視線が向けられる。
体裁としての笑顔は崩していないんだから許してほしい。
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