12-2話 魔の森
魔の森は木々が鬱蒼と生い茂っており、昼間だというのに薄暗い。
幾度か通ったことのある獣道を歩くが、春の精霊が目覚めたこともあってか前回ここに来た時よりも周囲の草木が伸びた気がする。
「またカーマイン先生にお願いして草刈りをしてもらった方がいいでしょうか?」
「カーマイン先生、草刈りも出来るんですねぇ。」
「私たちがやってもいいんですけれど、範囲とか種類を絞るのが面倒なんですよね。」
昨年の夏ごろに先生が呪文一つで草を刈ったのは圧巻だった。細かな調整をするとなると、どうしても呪文の式が長くなるので。
今度コツを教えてもらおうと思っていれば、茂みが揺れる。
「あ、可愛いうさぎさんです。角が生えてますよ!」
「
「ルイシアーノさんは草木を成長できますけれど、あの応用で成長を抑制は出来ないのですか?」
「出来なくはないだろうが得意ではないな。俺に与えられている精霊の加護とは真逆のものだ。」
歩きながら魔獣や魔法の説明をする私たちは、さぞや賑やかしいものだ。警戒の視線はあちこちから飛んでくるが、逆に予期せぬ形で鉢合わせる可能性も薄い。
「さて。ユーリカが頼まれたのは血液サンプリングでしたか。」
「はい。なるべくなら殺さないで採取したいのですが……。難しいですかね、やっぱり。」
「難題ではあるな。魔獣は基本的に人に対して害意を示すことが多い。」
魔獣に限らず野生動物の血液を採取するとなれば、彼らに接近せざるを得ない。
更に彼らは通常の動物よりも数段、魔力を持つ人間への害意が高い。
「なるべく大人しい子を探した方がいいですかね?あんまり強くない魔獣さんとかいるんですか?」
「先ほどの
安全性を担保するとなるとサンプリングとして取りやすい魔獣も限られる。
同種の別個体でも構わないとは言われているのでウサギを片っ端から狩る選択肢もあるが……。
ちなみにゲーム内では血液の採取とかではなくて普通に討伐という形で依頼を受けていた。そちらの方が手っ取り早いのは確かだが、リアルで考えると中々にためらう話でもあるな。
「ふむ。こちらも人数は多いですし、大型でも一体ずつ確実に対処できそうな魔獣を探しますか?」
血液を得ることを目的にするのなら、眠らせてから採取すればいいでしょうし。
「魔の森で単独で動いており、こちらで対処可能な範囲となると……
「罠はありかもしれませんね。懸念点があるとすれば魔法石の数ですか。一度取りに戻りましょうか?」
「罠の使用は最小限にすればなんとかなるだろう。まずは前段であがっていた四体を中心に、残り二体のどちらかを罠で確保すればどうとでもなる。」
「
魔の森に幾度か足を踏み入れたことのある三人で言葉を交わしていたが、ルイシアーノがそこでついと視線を赤髪の少女へと向けた。
「そこは貴様の課題だ。貴様が決めろ、ユーリカ。分担は二グループまでなら貴様とミラルドを分ければいけるだろう。順番に行くか、分けていくかは任せる。」
「お優しいですね。ルイシアーノ様。……後で分けられた後に文句を言ったりはされないです?」
「気に食わない分け方だったら言うに決まっているだろう。」
「胸を張って言うことではありませんが??」
理論的にも正しければ、この世界がゲームの中だとしたらヒロインが、ひいてはPLが道筋を選択するものだ。
とはいえまだ魔の森を詳しく知らないユーリカには荷が重くないか?それでミスしたら文句を言うってモラハラか??
ユーリカ、やっぱりこんな男やめておいた方がいいですよ。いやこれは恋敵を減らしたいとかそう言うのじゃなくて。
胸中で語りかける声が聞こえるわけもなく、うんうんと素直に悩んでいた少女がパッと顔をあげた。
「ええと、そうしたらミラルドとハイネさんは私と
見つかったら捕まえてサンプルを取ってもらって。もし見つからなくても、三十分したら戻ってきてもらう……とか。」
どうでしょうかと伺うように少女はルイシアーノの顔を見上げる。可愛い少女の上目遣いを見れるルイスと、真正面から見つめられるユーリカのどっちを羨ましいと思えばいいんだ私は……!?
どうでもいい葛藤をしている間にルイシアーノは小さく頷いた。最低限のラインはどうやら叶ったらしい。
「ふん。まあ良いだろう。貴様らは精々、この近隣でうさぎ狩に勤しんでおけ。行くぞ、シグルト。」
「は、はい!……この辺りだと黒樫の大木付近が目印にしやすいでしょうか?三十分したらそこに行くようにしますね。」
足早に森の奥に進もうとするルイスを追いかけながらも、振り返って彼らに伝える。口々に了解を得たことを確かめれば、再び視線は距離が少し離れた彼へと戻り、小走りで駆け出した。
──とはいえ、こうして二人きりになるのは久々な気がします。もしかしたら、チャンスでは?
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