第109話客

「わかっている!それよりも父上の呼び出しの内容はなんだ?」


従者と黄燕は本館の広間に向かいながら話し始める。


「王伉様に客人が訪ねておいでです。挨拶をさせたいから呼んでくるように言われました」


「挨拶?」


客が来ても余程の相手でなければ黄燕が出る事などなかった。


挨拶をさせると言うことはそれなりの地位の客なのだろう。


「わかった、この身なりではまずそうだ。すぐに着替える」


黄燕の言葉に従者は頷き返した。


黄燕は手早く着替えると父と客人の待つ広間へと向かった。


「父上、お待たせ致しました」


黄燕は部屋に入り膝を付き頭を下げた。


「遅かったな。仁様、紹介させて下さい私の愚息の黄燕です」


王伉は愚息と言いながらも誇らしそうに笑って黄燕を紹介した。


黄燕は父が隣に来たことで立ち上がり客人の顔を見るとにこやかに挨拶をした。


「黄燕と申します」


「君が黄燕か…」


仁と呼ばれた客人を見れば見目のいい優男だった。


手足は長くスラッとしていて黄燕とはまるで違う…黄燕の一番嫌いなタイプの男だった。


チッ…


心の中で舌打ちをしてじっと仁様を見やる。

後ろには従者らしき男が立っていたが印象に残らないほど地味だった。


「黄燕、こちらの仁様はな…」


王伉が嬉しそうに紹介しようとするとそれを仁が止める。


「王伉さん、すみませんがここには個人的な用で来ているので…」


暗に身分を明かさないように王伉に視線を送る。


「そ、そうでしたな。いや、すみません。屋敷に来て下さるだけでも嬉しいです」


なかなか見ない父の浮かれる様子に黄燕は不信がる。


「では、私はこれで…ごゆるりとお過ごし下さい」


黄燕はさっさと先程の続きがしたいと部屋を出ていこうとすると…


「黄燕、お客様の前でなんだ。何か気の利いたものでもご用意しろ!そうだ酒でも持ってくるんだ」


父に止められ黄燕は見えないように眉にシワを寄せる。


すると父がそばに来て耳打ちする。


「うちで一番高い酒を持ってこい。それと女だ、うちで一番美しい女に酌をさせろ」


「うちで女なんて…女官のババアくらいだろ」


「ならどっかから借りてこい!いいか…粗相があったら金輪際お前のケツは拭かん」


王伉に凄まれて黄燕は渋々部屋を出て行った。


「くそ!これからって時に…しかも女だと…」


黄燕はチラッと離れの方を見ると仕方ないと不機嫌そうに従者に指示を出し酒を用意させ自分は離れに向かった。




離れに着くと籠を覗いて女を選ぶ…一人一人見ていくと皆怯えていて酌など出来そうになかった。


唯一できそうな女が一人…黄燕をキッと睨みつけていた。

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