第52話ネズミ
「な、な、何をなさってるんですか!」
春さんはみるみる顔を赤くすると鬼の様に怒って近づいてくる。
そしてあっという間に槍を奪った。
「あー」
「あー、じゃありません!怪我でもなさったらどうするのですか!しかも天井を穴だらけにして…」
「大丈夫よー風通しがくなったし、もしネズミが出たらすぐにわかるわ」
みなで天井を見ると確かに何か居れば目に入りそうに見える。
「はぁ~~」
春さんは何も言わずに頭を抱えて槍を返しに行ってくれた。
その間に凛々が私達にお茶を入れてくれる、お茶会で食べられなかったお菓子も出してくれたのでここでお茶会の続きをする事にした。
「全く災難でしたね、紅花様も今まで大変でしたね」
「は、はい。あの…王蘭様…」
「ん?なんですか?」
「改めてお礼を言わせて下さい…本当にありがとうございました…私…」
紅花様はまた涙が出そうになっていた。
「大丈夫ですよ、よく我慢して頑張りましたね」
王蘭は長い指で紅花様の涙を拭った。
「あ、あの…それで…もし良かったら、私とその友達に…」
紅花様は言葉を濁しながらうかがうようにチラチラとこちらを見つめる。
「えー私達もうとっくに友達では?」
にっこりと笑ってそう言うと紅花様は嬉しそうにまた涙を流した。
「ゆ、優麗様…」
男は急いで優麗の元へと戻ってくると天井から声をかける。
「あら、早かったわね。何かわかった?」
優麗は顔を向けることなく話しかける。
「そ、それが…あの王蘭という妃に関わるのはやめた方が…」
「は?それどういう事?」
優麗は思わず天井を睨みつける。
「す、すみません…何か探りを入れようと天井裏に潜んでいた所…槍で一突きにされました、それも何度も…あれは何か気がついているようでした…」
「は?槍?衛兵でも中に居たの?」
「いえ、王蘭自ら槍を構えて…」
「くっ…役立たず!もういいわ!下がりなさい!」
優麗は爪を噛んで歯ぎしりをする。
「なんなのよ…あの女、今まで地味で大人しかったのに…まるで人が変わったみたい…」
怒りが収まらずに持っていた扇を壁に投げつけた。
「優麗様、今何か音が…お呼びになりましたか?」
女官が物音に駆けつけてくる。
「なんでもないわ!それよりも愛琳の方は大丈夫なの!?」
「は、はい…女官伝手にしっかりと目を光らせてあります…あの怯えようなら優麗様の事は何も…」
「まぁ話されても私は何も言ってないからいいんですけどね…」
そうだ落ち着けと自分に言い聞かせる。
「そうでございます。優麗様は一度も愛琳様に紅花様を虐めるようになどおっしゃっておりません。あの方がひとりで勘違いをしてあのような行動をとったのです」
女官の言葉ににっこりといつもの笑顔を見せる。
「わかってるならいいわ、他の者たちにもしっかりとそのように言い聞かせておいてちょうだいね」
「はい!」
女官は頭を下げたまま下がって行った。
「ああ本当に不快だわ…あんな見た目の女が陛下の隣に並ぶのも…貧乏人が並ぶのも…陛下、早く気づいて下さい、あなたのお傍には誰が相応しいのかを…」
優麗は深くため息をついた。
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