第103話従順
王蘭は黄燕のあとを従順について行く。
その身は拘束されていないのにまるで見えない鎖に繋がれたようだった。
「さぁ着いたぞ」
それに引き換え黄燕はご機嫌に前を歩いていた。
黄燕の声に顔をあげるとそこには立派な門が立っている。
「えっ、ここ?」
偉そうな態度からそれなりの家の出だと思っていたが想像以上に大きな門にたじろいだ。
「早く入れ!」
足の止まる王蘭に黄燕は早く来いと声をかけた。
「すみません、お嬢さん。進んで頂けますか?」
後ろから顔の腫らした従者が申し訳なさそうに王蘭を促す。
「あっ、すみません」
王蘭が門をくぐると黄燕の周りに屋敷の人が集まってきた。
「坊っちゃまおかえりなさいませ!」
「「「お帰りなさいませ!」」」
「お着替えになさいますか?」
「それともお食事に?」
十数人もの従者に囲まれる。
その様子を唖然と見ていると…
「まずは離れに行く」
その言葉に従者達はハッとして王蘭を見た。
王蘭の事は気がついていただろうに決して目を合わせようとしてこない。
「黄燕様…この方は…」
恐る恐るうかがうように一人が聞くと黄燕はお気に入りのおもちゃを見つけた子供のように笑った。
「店で見つけてきたんだ、自分から着いてくるぐらいよくしつけてあるぞ」
「で、ですが…この見目ですと噂になります」
「どこの出か調べた方が…」
「うるさい!大丈夫だと言ったら大丈夫だ!不愉快だ、俺は部屋へ行く。この娘をさっさと着飾っておけ!」
「「「はい」」」
怒鳴りつける黄燕に怯えて従者達は慌てて頭を下げた。
黄燕が数名連れてドスドスと足音を立てて建物の中に消えると王蘭に注目が集まる。
「そこのお嬢さんこっちに来てくれ」
手招きをされて近づくと王蘭は声をかけた。
「すみませんが、返して貰えませんか?私を待ってる人がいるんです。その人達に迷惑はかけられない」
「あんたの事は可哀想だと思うが、黄燕様に見初められたんだ。その人の事は諦めな、気に入られれば前よりもいい暮らしができるよ」
憐れむように声をかけられる。
「あの黄燕って人って何者なんですか?」
「あんたこの町にいて黄燕様を知らないのかい?」
驚かれてしまう。
「すみません、この町には来たばかりで…」
「そうか…それだと本当に運が悪かったね」
憐れみの言葉さえかけられる。
「こら、滅多な事を言うもんでないよ!」
しっと口を閉じるとキョロキョロと周りを確認した。
「黄燕様はこの町を納める王伉様のご子息だよ」
「王伉…様」
王蘭は眉をひそめた。
「王伉様はいい方なんだが息子の事になるとてんで駄目で、黄燕様がわがまま放題に育ってしまって…だからあんたも諦めてここでいい暮らしが出来るように頑張んな」
「そんな困ります」
「あんた自分から来たんだろ?」
縄も付けてない様子に従者達は油断しているようだった。
「ついてこないと他の人に危害を加えると言われて仕方なく…誰か偉い方に伝えて取り締まって貰えないのですか?」
「だからこの町で一番偉いのが王伉様なんだよ」
従者の言葉に王蘭は頭を抱えて空を仰いだ。
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