第102話捕縛

「お待ちください!どうか、どうかその娘だけは連れていかないでください」


「はぁ?女将…誰に何を言ってるのかわかっているか」


黄燕は不機嫌そうに聞き返す。


「はい…私の店はどうなっても構いません!ですからその娘は置いてってください」


女将さんは地面に頭をつけて黄燕に頼み込む。


「お前の店が無くなっても構わないと?」


「致し方ありません。私の問題にその子を巻き込めません!」


「女将さん…」


王蘭は目頭が熱くなり、女将さんを見つめた。


「駄目だ、この娘は連れていく。お前の店などもう興味もない」


黄燕は女将さんを無視してその横を通り過ぎようとする。


「待ってください!」


すると女将さんは黄燕の足にしがみついた。


「どうか!どうか!」


「ふざけんなババア!」


黄燕は女将さんを掴むと引き剥がして投げつけた。


「危ない!」


すると厨房のみんなが女将さんを受け止める。


女将さんが地面に叩きつけられずにすみ、王蘭はほっと胸を撫で下ろした。


「次に抵抗してみろ、本当に店を潰すぞ!」


黄燕が凄むが女将さんは諦めずにまた掴みかかろうと立ち上がった。


「女将さん!私は大丈夫ですから…」


王蘭は前に出て女将さんに声をかけると、安心させるようににっこりと笑う。


「さぁ約束ですから早く行きましょ」


王蘭は黄燕に声をかけて自ら歩き出した。


「いい態度だ。従順になるなら可愛がってやるぞ」


黄燕は王蘭の頬をサラッと撫でた。


王蘭はやめろと言うように顔を背ける。


「ま、待って!」


女将さんがまた止めようとする前に王蘭は早足でその場を移動した。


黄燕と従者に連れられて先を行くとようやく店が遠くなり女将さんの声が聞こえなくなる。


どうやら従業員のみんなが止めてくれたようだ。


あのままあそこにいたらきっと女将さんが怪我をするだけでは済まなそうだった。


それならと王蘭は歩きながら従者達の隙をうかがう。


道を曲がり人が多くなってきたところで王蘭はばっ!と駆け出した。


「「あっ!」」


縄を掴んでいた従者の手から逃れて走り出すと…


「きゃ!」


急に縄が引かれて王蘭は転んでしまった。


「痛った…」


膝を擦りむき顔をあげると縄を黄燕が踏みつけていた。


「何してる、お前らも罰を受けたいのか?油断するなと言っただろうが!」


黄燕は従者の男に平手打ちをくらわせた。


「ぎゃっ!」


従者は頬を腫らして倒れ込んだ。


「なんでその人を叩くのよ!叩くなら逃げた私を叩けばいいでしょ!」


王蘭は思わず従者の前に立ち塞がった。


「本当にお人好しだな。捕まった相手を庇うとは、なら逃げるんじゃない次に逃げたらこいつの腕を切り落とすぞ」


黄燕はそう言うと従者の頭を掴んで持ち上げた。


「ひ、ひぃ!」


従者はバタバタと抵抗する。


「わかった!わかりましたからその人を離して!」


王蘭が逃げないと約束すると黄燕は従者をドサッと下ろす。


「最初からこうしておけば良かったな」


黄燕はニヤリと笑うと王蘭の縄を解く。


「いいか、逃げたらあの女将の店もぐちゃぐちゃにしてやるからな…」


王蘭の耳元にそっと囁いた。

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