第118話 意外

仁は王蘭を後ろに下がらせて少し前に出た。


「女との最後の会話は終わったか?」


黄燕が笑って話しかけてくる。


「別に最後じゃないから待っていてくれなくてもよかったんだがな、それとも謝る気にでもなったか?」


「謝る、そんなわけないだろ!許してくれと泣いて許しを乞うのはお前だ」


黄燕は怒りから顔が赤くなる。


「それは無い、それに私はお前が謝ったとしても許す気はない。大切な女性を傷つけた罪は償ってもらう」


「それほど大事な女なら首輪でも付けて繋いでおけ!」


「それが出来たらどんなによかったか…」


仁はこんな時なのに同意するように笑ってしまった。


すると黄燕は頭にきて隙をついて襲いかかった。


「仁!危ない!」


油断してる仁に王蘭は慌てて声をかける。


しかし仁は予想していたのか慌てる様子もなく黄燕をサッと横に避けて後ろからドンッと押した。


「うわっ!」


黄燕は勢い余って前に顔から倒れ込み、顔に土を付けながら起き上がる。


「何転んでるんだ、私を殴りたいんだろ?」


「この野郎…」


黄燕は腕まくりをしながら今度はじわじわと仁に近づいていく。


「今度は馬鹿みたいに突っ込んで来ないんだな。少しは考える頭があるようだ」


仁はさらに煽る様なことを言った。


「絶対に殺す!」


追い詰めて逃げ場が無いと確信すると腕を伸ばして仁を捕まえる。


仁も同じように手を出してお互い手を掴んでの力比べとなった。


「この俺に力で勝てると思ってるのか?」


黄燕は勝ったと確信したのか余裕そうに上から仁を見下ろす。


「男と手を繋いで喜ぶ趣味があるんだな、私はごめんだ」


仁はそう言うとギュッと力を入れて黄燕の腕を握りつぶした。


「ぎゃあー!」


黄燕は指を後ろに潰されて痛みから手を引っこめる。


「手が…手が…」


黄燕は大きな体を丸めて小さくなっていた。


「なんだ、言うほど強くないじゃないか」


キッ!


黄燕はこのままでは終われないと思ったのか立ち上がって仁に頭から突っ込んだ。


「仁!」


もろに体当たりされて王蘭は近づこうと足を踏み出すと


「王蘭、大丈夫だからそこを動くな!」


仁に大声で言われて足を止めた。


よく見れば仁は体当たりした黄燕に肘を振り下ろし、膝をあげて胴体を挟み込んでいた。


「ガッハ…」


黄燕は痛みにヨダレを垂らして倒れ込んだ。


「よかった…」


無事な姿に王蘭はホッとして腰が抜けて地面に座り込む。


「あっ!静さんは!」


仁ばかり気になり静さんを忘れて周りを見ると、数人を相手にしてた静さんの周りには大男達が地面に突っ伏していた。


「静さん…すごいですね」


王蘭は驚いて唖然としていると


「静、私より目立つな。王蘭おいで」


仁が呆れながら静さんの方へと歩き出そうと私に手を差し出す。


私もようやく笑えて仁の手を取ろうと腕をあげると、後ろでうずくまっていた黄燕がすごい形相で仁を睨みあげていた。


今にも飛びかかろうとしていると、王蘭は体が勝手に動いていた。


「危ない!」


黄燕に向かって目を瞑り頭から突っ込んだ。

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