第92話通過

門を抜けてしばらく進むと路地に入り馬を停める。


静は荷台にそっと声をかけた。


「もう話しても大丈夫です。お二人共平気ですか」


「ふー、危なかったな」


仁は布をめくって顔を出した。


「仁様、王蘭様は?」


声が聞こえずに心配する。


「ん?ここにいるぞ」


仁が体をずらすとすっぽりと隠れるように王蘭が腕の中にいた。


「仁様、王蘭様は後宮のお妃様という事をお忘れなきよう…」


「ん?別に大丈夫だろ?」


仁が王蘭の顔を覗き込むと真顔で固まっていた。


「ウン、ダイジョウブ」


「大丈夫ならいいですが…ではお二人にはこれから兄妹として行動を共にしてもらいます」


「「兄妹!?」」


「聞いてないぞ!」


「言ってませんから」


静はしれっと答える。


「南明様よりその方がいいだろうとの事です。一番怪しまれないと思います」


「別に夫婦や恋人でもよかっただろ」


「それだと王蘭様に迷惑がかかりますから」


仁がつまらなそうに腕を組んだ。


「わ、私はなんでも大丈夫です。でもそうか…兄妹ですね…」


チラッと仁を見上げた。


「まぁいいか、では王蘭私の事は兄と呼ぶように」


「に、兄さん…でいいでしょうか?」


うかがうように上目遣いに見上げると、仁が顔を片手で覆った。


「悪くない」


「よかったです、では視察中はよろしくお願いします」


静はニヤッと口角をあげた。


「では馬車を停められる所まで移動しますのでもうしばらくお待ちください」


「では王蘭、危ないから膝に座れ」


「え!?な、なんでですか!?」


「兄妹なら恥ずかしくないだろ?」


兄妹ってそんなもの?


兄妹のいた事のない王蘭は首を傾げながら膝を見つめるが、抵抗がある。


「それに場所も無いからな、女性にしかも王妃候補にこんな固い場所に座らせるわけにいかない」


「そんな女性に先程荷物の隙間に押し込めたの誰ですか?」


王蘭はジロっと仁を睨みつける。


ガタンっ!


すると馬車が石を踏み軽く揺れて王蘭はフラっと揺れた。


「ほら、危ないからとりあえず座れ」


仁は立っていた王蘭を軽く持ち上げ荷物の上に優しくすわらせた。


「あ、ありがとうございます」


下を見れば仁の服が敷かれていた。



微妙な空気の中、揺られる度に仁の体に触れる。


二人、黙ったまま身を任せていた。




「到着しました」


静の声に仁が先に馬車から降りると王蘭の手を取る。


「わぁ!」


王蘭は目の前に広がる風景に身を輝かせた!


「城下で一番の賑わっている市場ですよ」


静の説明に王蘭はキョロキョロと物珍しそうに周りを見渡す。


「城下は初めてです」


興奮して仁に声をかけた。


「そうか、見たいところがあるなら言ってみろ。連れてってやる」


仁はコロコロと表情の変わる王蘭の顔を笑って見つめる。


「いいんですか!じゃ、じゃああのお店は!」


王蘭は目の前のお店を指さす。


「あれはただの食べ物を売ってる店だぞ」


「でも見たいです!」


「わかった、わかった」


仁を引っ張って王蘭は店へと向かう。


「あー…お二人共、俺がいる事忘れてません?」


静はため息を付きながら二人の後を追いかけた。


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