第68話おかえりなさい

「春さんおかえりなさい!」


王蘭と凛々は笑顔で門を開くと春さんが眉を潜めながら腕を組んで立っていた。


「久しぶりに帰ってきたのになぜこんなにも待たされたのでしょうか?」


春は極力顔に出さないように二人に問いかける。

せっかく帰ってきたのに、意味もわからず待たされたからだ。


「ご、ごめんなさいね!ちょっと…部屋が…」


王蘭様が何故か冷や汗をかいていた。


「王蘭様!いえ、春さんなんでもないです。ずっと帰ってくるの待ってました。入ってください!」


凛々は春の手を掴んで中へと引っ張っていく。


不自然な二人の行動と表情に春は嫌な予感がした。


「お二人共、何を隠しているのですか?」


春は凛々の手をそっと話すと静かに問いかける。


「な、なんでも無いわよ!ね、凛々?」


「え、えっと…」


王蘭様が笑顔で凛々を見みるが凛々は顔を強ばらせると、チラッと王蘭様の部屋の方に視線を向けた。


その動きを春は見逃さなかった。


「そうですか…」


そう言いながら王蘭様の部屋へと向かった。


「春さん、何処に行くんですか?」


「春さん、帰ってきて疲れてるでしょ!今日はとりあえずゆっくり休んで!ほらお茶でも飲みましょう」


王蘭様と凛々が慌てて行く手を阻む。


「そうですね、ではお茶にしましょうか?凛々お茶を王蘭様の分も入れてくれる?」


春は立ち止まって凛々にお茶を頼んだ。


「はい!すぐに!」


凛々はパァと顔を輝かせて急いで厨房へと向かった。


「じゃあ私達は向こうで待ってましょう」


王蘭様が広間へ行こうとすると、春はまた足を進めた。


「いえ、王蘭様のお部屋で飲みましょう。いつもそうでしたよね?」


「えっ!」


「さぁ王蘭様、行きますよ」


「は、はい」


春の笑顔に王蘭は顔をひきつらせる…その瞳は笑っていなかった。


諦めたようにトボトボと王蘭様が部屋へと向かう。


しかし部屋に着いてみると二人が何を隠そうとしていたのかわからなかった。


部屋は別に変わった様子など無かった。


「うーん、普通ですね」


勘が外れたかなと春は首を傾げた。


「さ、さぁ春さん座って」


王蘭様に促されて春は用意された椅子へと腰掛けた。


王蘭様もそれをみてほっとしたように春の前の椅子に腰を落とした。


「それにしても…天井直さなかったのですね」


相変わらず風とうしのよいままの天井を呆れて見上げる。


「別に直す必要性を感じなかったの、間者が来ても一発ですからね」


王蘭様はにやりと笑う。


「わかっていましたか…」


「後宮には付きものですからね」


王蘭様の苦笑する姿に春は益々何を隠そうとしていたのかわからなかった。


「お待たせしました!こちらに居たんですね…」


すると凛々がお茶をいれてきてくれた。


「ええ、久しぶりに王蘭様のお部屋で皆で飲みたくて…」


「なんか春さんに飲まれると緊張します」


凛々が王蘭様の前にお茶を置くと続けて春にお茶を置いた。


「凛々、酷い。それって私には緊張しないってこと~」


王蘭様がお茶を掴むとゆっくりと口へと運ぶ。


「だって王蘭様はどんなお茶でも美味しいと飲んで下さいますから」


凛々が嬉しそうに笑った。


「だって、本当に美味しいんだもん。もちろん春さんのお茶も美味しいわ!今日は久しぶりに料理も食べてるのね!」


ワクワクする姿に思わず笑みがこぼれる。


「でも春さん帰ってきたばかりで疲れてるんじゃ…」


心配そうな凛々に春は首を振る。


「大丈夫ですよ、紅花様のところでは女官達に覚えさせる為にほとんど動かずに指示を出してるだけでしたから。久しぶりに私も料理を作りたいと思ってました」


「やった!」


春の言葉に王蘭様ははしたなく腕を天井に突き上げた。

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