第87話手裏剣

「すみません、南明様の使いで来た者です。王蘭様に話があるので少しよろしいでしょうか?」


王蘭の宮には初めて見る顔の使いの者が来ていた。


「南明様のですか?」


対応した春は訝しげに目の前の男性を見つめた。


どうも文官というような雰囲気に見えなかったからだ。


すると男性は笑って胸元から書状を取り出した。


「そう言われると思いまして、陛下からの書状も預かってます。確認してみてください」


春はそれを見て慌てて頭を下げた。


「これは大変失礼致しました。すぐに王蘭様を呼んで参ります」


「急がなくても大丈夫です」


男は怒った様子もなく笑って答えた。


春はほっとして王蘭の元に足早に向かった。


「王蘭様、南明様の使いの方がお見えです。話があるそうで場所を移動したいとの事です」


そう聞いて王蘭はビクッと肩を揺らした。


「南明様?仁では無くて?」


「どうでしょう、いつもとは違う方がお見えですので」


春さんの説明に王蘭は頷くとすぐに支度を整える。


南明様の用事ならもしかしたら仁もいるかも…でもいつも通りに…


王蘭は一呼吸おいて部屋を出ていった。


「お待たせしました」


王蘭は迎えの者に頭を下げる。


「初めまして、使いの静と申します。いつもの場所でお待ちですので来ていただけますか?」


いつもの場所と聞いて本当に南明様の使いなんだと確信する。


「王蘭様、私もついて行きましょうか」


春が声をかけてくるが王蘭は大丈夫だと笑って断った。


「もし何かあったら南明様に知らせに行けばいいものね」


静にも聞こえるように言う。


一応牽制のつもりだったが気にした様子もなかった。


「そうですね、もし心配でしたから私の物でも置いて行きましょうか?身元が証明出来るものと言えばこの髪の毛くらいですが…」


静は胸ものから刃物を取り出して髪を切ろうとする。


「あっ」


王蘭はその刃物を見て驚いた。

それは仁に折ってあげた折り紙で作ってみせた手裏剣だった。


少し形が変わっているが紛れもなく手裏剣だった。


「それは…」


王蘭は手裏剣を凝視する。


「これはある方から武器になるのではと王蘭様から貰った折り紙を参考に作ってみました。見てみますか?」


静は手裏剣を王蘭に差し出す。


「王蘭様!危ないですよ!」


春さんが止めようとするが王蘭は思わず手を伸ばした。


「すごい、よく作れましたね」


しげしげと見つめる。


「結構使い勝手も…いえ、なんでもありません」


静は咳払いして言葉を止める。


しかし王蘭は気にした様子もなく手裏剣を眺めていた。


「春さん、この方ちゃんと南明様達の知り合いみたいだから大丈夫です。行ってきますね!」


「お、王蘭様…」


「ちゃんと無事に帰りもお届け致します」


静は南明と同じように答えると春は心配しながらも頷いた。


「ではこちらです」


静に促されて王蘭は足を進めた。

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