第86話おでかけ

しばらく王蘭の元に向かわない日々に仁はなにかもの足らなさを感じていた。


「どうされました?なにか身が入ってないように感じますが」


南明に言われて仕事の手が止まっていた事に気がついた。


「いや、なんでもない。それよりも今日の分はこれで終わりか?」


南明を見ると手元の資料に目を通して頷かれる。


「そうですね、今日は今の仕事で終わりですが……」


南明が眉間に皺を寄せた。


「なんだ?」


「あっいえ!なんでもありません。静ちょっと…」


南明は話を唐突に終えて静を連れて出ていってしまった。



南明は静を連れて廊下を進むと人通りのないのを確認して話し出す。


「実は今度、下町への視察があります。私がパッと済ませて来ますのでこの事は陛下には内密に」


コソッと話すと静がクックッと笑いだした。


「なんですか?」


静の様子に怪訝な顔を向けると後ろを指さされた。


ハッとして振り返るとそこにはニヤニヤと笑う悪ガキの様な笑顔の仁陛下が立っていた。


「へ、陛下…どこまで話を…」


南明が恐る恐る聞く。


「そうだなぁ、下町に視察ってところからだな」


「最初っからじゃないですか…」


ガックリと肩を落とす南明に静は慰めるように背中を叩いた。


すると南明はキッと睨みを効かせて振り返る。


「あなたは護衛で付き添いですからね!」


「げっ!」


「それとあと誰か付き添いもいた方がいいですね…陛下が行くなら私はここに残らないといけませんし」


南明は誰にしようかと考えていると…


「それなんだが、一人連れていきたいやつがいるんだ」


「誰ですか?」


「結構使えて度胸も良い奴だ」


「そうですか、陛下のお眼鏡にかなう方ならまぁいいでしょう」


仁はニヤッと笑うとその様子に静はまさかと目を見開いた。


だがなんか面白い事になりそうだと気付かないふりを決め込んだ。



「ではそいつに話をつけてくる」


仁が早速行こうとすると南明が止めた。


「私が行って参りましょう、どちらの部署の誰でしょうか?」


「大事無い、南明は行く時の調節を頼む。お忍びで行くからそのつもりでな」


「はいはい、わかってます。何を言っても無駄なんですよね…」


南明はわかっと執務室から離れて行った。


「陛下、まさかとは思いますが彼女を誘うつもりでは?」


「そのまさかだ、まぁ断られたら適当に誰か見繕うが…きっと彼女なら…」


即答するさまが目に浮かび仁は思わず口角が上がった。


仁は着替える為に一度部屋へと戻ることにした。


仁は文官の仕様に着替えると久しぶりに王蘭の元へと向かった。


王蘭とはあの食事をしてからは会っていなかった。


仁は王蘭の反応が楽しみで思わず足早になってしまっていた。

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