第88話お誘い
「では危ないのでそれはお預かりしますね」
静が手裏剣を預かろうと手を差し出す。
「これって真ん中に穴は作らないんですか?」
「穴…?」
見ればその手裏剣は王蘭が思い描く物ではなく、折り紙の形そのままだった。
「はい、真ん中に穴があると持ち運びも便利だし、もう少し軽量化も出来ますよ。これだとちょっと重いです」
王蘭の話に静は驚き目を見開いた。
「武器にお詳しいんですね…」
「武器にというかこれ私が教えたものですからね」
「はい、そううかがってますが忠実に再現したつもりでしたが違いましたか?」
「いえ、折り紙としてはそうですが…あれって元の武器を折り紙で表現したものなんですよ」
「なるほど、武器の方が先で折り紙が後から作られたと…」
「そういう事、本来の形を知ってるわけじゃありませんが確か輪っかに紐を通して持ち運んだりまとめたりするんだと…」
「興味深いです」
静は真剣に王蘭の話に耳を傾けていた。
たわいない話をしてる間にあっという間に牢屋に着いてしまう。
「いや、王蘭様の話は面白いですね。南明様や仁様が王蘭様を気に入るのもわかります」
「仁様や南明様が?」
「はい、もしよろしければ改良した武器をまた見て頂けますか?」
「私でいいなら喜んで」
王蘭は笑って承諾した。
「ありがとうございます。ではこの先で待っていますので、私はここで警護の方をしていますから」
静と別れて王蘭は牢屋の階段を降りていった。
牢屋の奥に人影が見えたので王蘭は声をかける。
「お待たせしまいた」
「久しぶりだな」
王蘭はその声に足をピタリと止める。
「仁…」
王蘭は驚いて呟く。
「なんだその顔は」
「だって、南明様の用事って聞いてたから」
「ああ、その方が女官達に信用されてるだろ?」
「まぁ確かに」
王蘭は思わず納得する。
「本当の事だとしても酷いなぁ」
仁が苦笑すると王蘭はなんだかいつも通りの態度に緊張もほぐれた。
「だって本当のことでしょ。仁って春さん達の前に顔を出さないし、まぁ仕事柄しょうがないとは思うけどね」
「王蘭がわかっていてくれてるならいい」
「そ、そう?」
なんだか素直な仁にドキッとする。
「それでなにか用事って聞いたんだけど?」
「そうなんだ、実は今度下町に視察に行くんだが…まぁお忍びって言った感じで行くから少人数でと思っていて。怪しまれないように女性も一人と考えているんだが…」
「行く!行きたい!」
仁が話終わる前に王蘭はグイッと一歩前にくい込んだ!
「下町行ってみたい!お忍び楽しそう!」
「ふふ、王蘭ならそういうと思った」
仁はニヤリと笑う。
「ある程度変装はしてもらうが問題ないか?」
「ないない!なんなら男装でもするよ!」
「それはいい、女性として来てもらうからな」
「あっ、そうか。でも楽しみだな!いつ行くの?」
「次の週には行く予定だ、細かな事は上で待つ静が後で知らせに行く」
「静さんね、あの人って本当に文官なの?」
思い出して仁に聞いてみた。
「なんでそう思った?」
「んーなんか南明様や仁とかとは違う雰囲気だし、武器を見る目がなんかね…」
仁は手裏剣を面白そうに見ていたが静さんは何となく武器に対して真剣な感じがした。
「静はまぁ気にするな、下町調査もあいつも同行するからな」
「わかった、じゃあまた連絡してね」
王蘭は頷くと、階段を登ろうと振り返った。
少し登って足を止めると仁の方を振り向く。
「誘ってくれて…ありがとう」
それだけ言うとサッと階段をかけ登った!
仁は恥ずかしげに頬を染めた王蘭の顔を初めて見て驚き固まっていた。
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