第89話デート

「という事なので王蘭様には王宮でのお仕事を手伝って頂きたく、数日間こちらの方で寝泊まりしていただきます」


静は王蘭を送り届けながら春や凛々にそう説明した。


王蘭は静から前もって説明を受けていた。


今回はお忍びの調査になるのでなるべく他の人に仕事の内容は話さないように注意された。


春さん達に内緒にするのは心苦しいが仕方ない、余計な事を聞いて迷惑するのは二人だと言われたら黙っているしかなかった。


「王蘭様、大丈夫ですか?」


二人が心配そうに王蘭を見つめていた。


「大丈夫!大丈夫!何も無いわよ!ちゃんとお仕事だから」


王蘭が慌てて否定すると二人は首を傾げた。


そして静に聞こえないように王蘭を引き寄せるとそっと囁いた。


「大丈夫とは王蘭様が一人で着替えや支度が出来るか心配なんです!」


「えー、大丈夫よそのくらい」


王蘭は笑っていたが二人は不安そうに顔を曇らせる。


「大丈夫ですよ、王蘭様の事はこちらで責任を持ってもてなします」


静が話が聞こえたのかそう答えた。


「あっ、すみません声が大きかったようで…」


春さんがすみませんと頭を下げが静とはかなり距離があった。


「仕事柄耳がいいもので聞こえてしまいました」


気にした様子もなく静は笑っている。


それを聞いて春さん達は少し安心したようだ。


どれだけ私に信用が無いのか…もう少ししっかりしよう。


静は準備が出来次第迎えに来るといい、春さん達もそれに合わせて用意をしてくれた。


数日後再び静が迎えに来た。


「では王蘭様をお借りします。帰りは仕事が終わり次第なのであなた方もお休みを取って構わないとの事です。帰る時にまた知らせにうかがいます」


「春さんと凛々も久しぶりにゆっくり羽を伸ばしてね」


「王蘭様もお気をつけて」


二人に見送られて静と歩き出す。


「あれ?こっちの方向ってまさかまたあそこ?」


「はい、着替えていただきますので…仁様も既にそちらでお待ちです」


王蘭がいつもの牢屋に着くと慣れたようで階段を降りる。


すると中には庶民の様な服を着た仁が待っていた。


「仁、その格好…」


ジロジロと上から下まで見てしまう。

見目がいいから何を着ても似合っている。


なんか面白くなくて眉間に皺を寄せた。


その様子に仁が自分の姿を気にする。


「何かおかしいか?」


「別に、いいと思う」


素っ気なく答えると、静が王蘭の服を持ってきた。


「王蘭様にはこちらに着替えていただきますね。一人で着れますか?」


「馬鹿にしてます?着れますよ!」


王蘭は服を受け取ると用意されていた衝立の奥へと向かった。


今着てる服を脱いで貰った服を羽織る。


「あれ?」


この紐は何処で縛るのかしら…


王蘭として庶民の服を着ることなどなかったから着方に戸惑ってしまう。


悩んでいると衝立の向こうから声がかかる。


「大丈夫ですか、お手伝いが必要ですか?」


静さんの声に慌てる!


「だ、大丈夫ですけどちょっと待って下さい!あー!!」


王蘭は慌てすぎて服の紐の部分を踏んでしまった!


そのまま衝立の方へと倒れ込むとバタンっ!と倒れ込んだ。


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