第90話ハプニング

「痛たた…」


王蘭は腰を押さえて上半身を起き上がらせる。


派手に転んでしまったが痛みはそんなになかった。


しかし音に驚き仁と静さんが慌てて駆けつける。


「王蘭!大丈夫か!?」


「王蘭様、何事ですか?」


仁は倒れていた王蘭を見て凝視すると


「静!後ろを向け!」


慌てた様子で静さんに声をかけた。


「なんですか?」


せっかくさんは訝しげながらも素直に後ろを向くと、仁がそばに寄って顔を背けながら手を差し伸べた。


「ほら、早く起き上がるんだ」


仁の手を掴むとグイッと引き寄せられ乱れた服を直される。


「全く、ここにいたのが私達でよかった」


「ごめんなさい…」


王蘭は自分の不甲斐なさにシュンとする。


「見栄を張らずに静さんに着せて貰いますね」


「静に…」


仁は王蘭の姿をじっと見つめると眉を顰める。


「いや、私が着せる」


「「え?」」


王蘭と静は同時に声を出した。


まさか仁がそんな事を言うとは思わなかったからだ。


「なんだ、静にしてもらうなら私でもいいだろ、それとも静の方がいいのか?」


仁は面白くなさそうに聞いてきた。


王蘭は少し考えて仁を見つめるて答えた。


「仁が出来るなら仁に頼みたい」


仁は王蘭の答えに満足そうに頷いた。



王蘭は後ろを向いて手を広げる。


凛々が着替えさせてくれる時にいつもそうするからだ。


「仁様、着替えなどできるのですか!?」


静がコソッと耳打ちする。


「大丈夫だ、ただ着せればいいんだろ?」


静は一応軽く着方を教えると部屋を出て行けと手ではらわれる。


「ではじっとしていろよ」


仁は王蘭が羽織った着物の紐を掴むと後ろから抱きしめるように手を伸ばした。


王蘭はドキリと胸が高鳴る。


じっと固まっていると肩越しに仁の息がかかった。


思わず息を止めてしまう。


「これを前で交差させて前で縛るんだ」


静に聞いたとおりに紐を結ぶ。


こんなにも細いのか…


腰周りを結びながら王蘭が華奢な女性である事を再確認する。


王蘭は真剣な顔で紐を結ぶ仁を見つめていた。


仁は服を着せるのに集中して王蘭の様子に気が付かなかった…


「よし、これでいいだろう」


満足そうに立ち上がると王蘭はお礼を言った。


「ありがとう、さすがね。バッチリよ」


王蘭はヒラっと服を舞わせてクルッと回って見せた。


「また転ぶぞ」


仁は危なっかしい王蘭の細い腰を掴んで引き寄せる。


「あ、ありがとう…」


二人が見つめ合っているといいタイミングで静が声をかけた。


「お二人とも準備はそろそろよろしいですか?」


固まる二人を見てしまったと顔を曇らせる。


「すみません…お邪魔でした?」


「そんな事ないです!準備OKです!」


「おっけー?」


「大丈夫ってことです」


王蘭はそっと仁のそばを離れた。

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