第115話怒り

「仁様…」


「なにかありましたか?」


王蘭はびっくりして固まったまま仁の顔を見上げる。

その顔は少し怒ってるように見えた。


黄燕は無理やり女を取られて、同じようにムッとしながら仁を見た。


仁のそばにいた女達は急に立ち上がり王蘭の元に向かった仁を見て唖然としている。


「この娘は私が連れ帰ると伝えたはずだが?」


仁は女達を無視して黄燕を上から冷たく見下ろす。


「女なら横にいますよ、しかもその娘よりも美しいじゃないですか?」


チラッと女達に視線を送るとハッとして慌てて仁のそばに寄った。


「そうですよ、あなた様が望むなら私何処にでもついて行きますよ」


「ええ、喜んでお供いたします」


王蘭を掴む仁の手をとり手の甲をサラッと撫でた。


「触るな」


すると仁から低い声が漏れて、手を振り払われる。


不機嫌そうな声に王蘭は聞き覚えがあった。

仁に初めて会った時もこんな感じだった…いつの間にか一緒にいてそんな仁の事を忘れていた。


驚き見つめてくる王蘭に構わずに仁は女達を払い除けると王蘭を抱き寄せる。


「この娘に触れることは許さない、どんな男でもだ」


怒りを孕んだ声で黄燕に伝える。


二人が睨み合い重い空気が広がっていると…


「なんだ!一体なんの騒ぎだ!」


王伉が騒ぎに急いで駆けつけてきた。


仁は王伉を見るとそっと王蘭を体から離した。


「騒がせてすまない、少し頭に血が登ったようだ。少し落ち着きたいから庭を散歩させて貰ってもいいかな?」


仁は落ち着いた様子で王伉に声をかけた。


「もちろんでございます!」


「ありがとう、素晴らしい庭だからゆっくりと観させてもらうよ。この娘は連れて行ってもいいかな?」


そう言って王蘭を指さした。


「どうぞどうぞ、宜しければこちらの女達もお連れください」


二人の女性を前に押し出す。


「いや結構だ…」


不快な様子に王伉はサーっと顔を青くする。


「申し訳ございません…ごゆっくりとその娘とお楽しみ下さい」


「ああ」


仁は返事もそこそこに王蘭を連れて庭へと向かった。


少し歩くと王蘭はチラッと仁を横から見つめる。


先程からずっと無言の時間が続いていた。


王蘭は仁が何に怒っているのかわからなかった…


「仁…何か怒ってる?」


王蘭は小さい声でコソッと聞いた。


うかがうような上目遣いに仁は何か言おうと口を開くが王蘭の顔をじっと見てはぁっとため息をついた。


「そんな顔をするな…全く怒れなくなるだろ…」


ボソッと横を向いて呟く。


「え?なんですか?」


王蘭は聞こえないと体を近づけてきた。


全く危機感のない王蘭に仁はムッとして腰を掴んで抱き寄せる。


「そんなに無防備でいるからこうやってすぐに男に触られるんだ」


顔を間近に近づけて注意すると王蘭は驚き目をまん丸にしながら仁を見ている。


「聞いているのか?」


何も返事をしない王蘭に仁が問いかける。


「もしかして…あの男が触ってきたから怒ってるんですか?」


仁は図星をつかれてサッと目を逸らした。






※本日9/20後宮の花は死んで前世を思い出したので自由に生きます。コミックス発売。

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