第120話 終わり

仁と別れてから一週間…あの時から王蘭の元には仁は訪れていなかった。


心配させまいと春さんや凛々がいる時は明るく務めているがふと一人になると仁の事を考えてしまっていた。


傷は治ったのかな…

なんで嘘ついてたのかな…

今までの言葉は全て嘘だったのかな…


仁と笑って過ごしていた日が思い浮かぶ。


いやいや!


王蘭は自分の考えに慌てて首を振る。


よかったんだ、だってもし本当に仁が皇帝陛下なら大変だ。

後宮の女達が皆陛下のものなのだ。

まぁ自分もだが…


自分の彼氏が他の人を抱いてるのを想像するだけで我慢なんてできない。


そうだ、もっと普通の人と恋をしよう…

あんな事をしてしまったんだ、きっとそのうちに後宮も追い出されるに決まっている。


だからここの事は忘れるんだ…


でも…


「はぁ…しばらく恋はいいや」


ため息をついて空を眺めた。


そのままぼーっと空を眺めていると…


「王蘭様、お客様です」


春さんがうかがうように声をかけてきた。


「あらそう、また紅花様かしら」


ずっと紅花がお茶をしに来ていたので今日もそうかと席を立った。


春さんは何も言わずに前を歩いて先導する。


お客様が待つと言う部屋へと行くと…そこには南明様と仁が座っていた。


「南明様…それに…」


いつもとは違う豪華な装いに戸惑ってしまう。


「仁皇帝陛下ですよ、王蘭様」


春さんが王蘭の後ろで頭を下げながらコソッと教えてくれる。


「仁…陛下…」


「王蘭様、本日は仁陛下からお話があります」


南明様はいつもと違い軽口を叩く感じもなく、

ちらっと春さんに目配せすると春さんはサッと部屋を出ていってしまった。


目の前の仁はあの時と同じように#冕冠__べんかん__#を被り顔が見えない。


「王蘭様、陛下の御前です」


南明様にそう言われて一瞬なんの事かと停止した後、「ああ」腕を前にあげて頭を下げた。


「南明、王蘭と二人っきりで話がしたい。お前も下がってくれ」


目の前から仁の声が聞こえてきた。

その声を聞くだけで鼻の頭がツンとする。


顔を伏せていると南明様が部屋を出ていく音が聞こえた。


「王蘭、顔をあげてくれ」


部屋に二人っきりになると声をかけられる。そっと顔をあげると冕冠を脱いだ仁が眉を下げて立っていた。


やっぱり仁は陛下だったんだ…


仁は何も言わずに見つめてくる。

お互い何も声をかけられずに見つめあっていた。


「すまない…」


沈黙を破ったのは仁だった。

しかも一番聞きたくなかったあの言葉を口にする。


その言葉を聞いて今までせき止めていた感情が一気に流れ出た。


「なんで謝るの!?謝罪の理由は正体を秘密にしてた事?嘘ついてた事?それとも…もうここには来ないって事…」


話していると仁の顔が悲しげに染まった、そして目の前がみるみる歪んでくる。


自分が涙を流しているんだと気がついた。


一度出した涙は止まらない。


するとその涙を拭う温かい手が頬に触れた。


「王蘭すまなかった…泣かないでくれ」


「無理…です…」


今優しく触ってくれる手もそっと抱きしめてくれる大きな体もこれで最後だと思うとやはり自分は仁がまだ好きなんだと感じた。


それなのに…好きになってはいけない人なんだ

好きになったって辛い思いをするのは自分なのに…


わかっているのに嫌いになれなかった。


「馬鹿みたい、私の事をみて笑ってたのね…」


「それは違う!」


仁の必死な声に王蘭は顔をあげた。


そこには悲痛な顔の仁が王蘭を見下ろしていた。

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