第121話最後

「仁?」


王蘭はつい、いつものように声をかけてしまった。


すると仁はその反に嬉しそうに笑うと涙を服で優しく拭ってくれる。


「王蘭、少し話を聞いてくれ」


仁の真剣な様子に無言で頷く。


「私は…女性が嫌いだった」


「ふふ…うん、そうだね」


初めて会った時の仁を思い出してクスッと笑うと仁の表情も少し緩んだ。


「女性とは身勝手で自分の事しか考えない。着飾って守られるのが当たり前と思っている。そんな女性ばかりだと思っていた。だが君に会って考えが変わった。他人の為に自分をかえりみず助ける、そんな女性がいると気がついたんだ」


そう言って王蘭の頬を愛おしそうに撫でた。


まるでそれはお前だと言われているようで恥ずかしくなる。


「君に初めてあった時はなんて女だと思ったよ」


仁はそんな王蘭を見つめながら困った様に苦笑する。


「そんな事…無いと思いますけど…」


言いながら思い当たる節があり顔を逸らした。


仁は笑って顔を自分の方へと屋敷へ優しく向けさせると話を続ける。


「最初は聞いた事もない前世の話に興味が湧いた、君の話は面白く知らないことばかりだった。そのうち一緒にいる事が楽しくなり、気がつけば笑っていた。女性といて安心することなど初めてだった…だがいつしか楽しさが愛しさに変わった。王蘭……私は君を愛してしまった」


そう言って悲しそうな顔に戻ってしまう。


愛していると初めて好きな人に言われたのに…


王蘭は嬉しさと切なさが一緒に押し寄せてきた。


「そんな顔をしないでくれ、君の笑った顔が好きなんだ」


仁は王蘭の顔を大きな手で覆うと上を向かせる。


いつの間にか悲しくて王蘭は下を向いてしまっていた。


好きな人に告白されたのに悲しい顔をされる。

胸が苦しくなり仁の顔をまともに見れなかった。


この後には別れの言葉があるのかもしれない…好きだけど君一人は無理と言われるのかもしれない。


嫌な考えが頭の中を駆け巡る。


聞きたいくないのに仁は話を続けた。


「君を好きになったのに…自分が付いた嘘に後悔した。文官だと勘違いした事に最初は都合がいいと思っていた…それを私は利用したんだ」


ん?


「君への気持ちが溢れて来ると自分の付いた嘘に苦しめられた、陛下と言う存在が好きじゃいのはわかっている。だけどお願いだ…私の仁皇帝の妻になってくれ」


仁の告白に王蘭はその内容を何度も考える。


自分では思っていなかった答えに一瞬意味が理解出来なかった。


「ちょ、ちょっと待って!」


考えをまとめたくて王蘭は仁が話すのを止めた。


「こんなこと聞きたくなかったかもしれない…でも言わせてくれ、すまなかったと…そして愛してる」


「だから待って」


「君を無理やりここに縛りたくはない、出来れば私を好きになって欲しい…」


全然話を止めない仁に王蘭は少しイラッとした。


「仁!ちょっと黙って!」


王蘭は仁の口に手を覆って黙らせた!


「私の話も聞いて!」


仁の驚く顔に王蘭はじっと睨みつける。


仁はふっと力を抜いて頷く。

落ち着いた様子に王蘭はそっと手を離した。


「仁の気持ちはすごく嬉しい、私もいつの間にか仁を好きになっていた。後宮の王蘭としてではなく本当の私をみて一緒に笑い合える人だから…でも私は後宮には居られない…」


「何故だ!王蘭も私が嫌いではないんだろ?」


「嫌いじゃないよ、好き…好きだけど仁が他の女性を抱くところなんて見てられない。そんなの我慢できない!」


王蘭は想像するのも嫌で目を閉じた。

反応のない仁に不安も覚える…チラッと様子をうかがうように顔をあげると仁は手で顔を覆い横を向いて黙ってしまった。


やってしまった…


でもしょうがない、仁に嘘をつきたくなかった。

これが私の本当の気持ちだ。

ここで嘘をついて一緒にいてもいつかきっと耐えられなくなる。

なら傷が浅いうちに…


そう思って胸を押さえるが痛みはしっかりと感じた。


「それは…王蘭は私が他の後宮の女性と関係を持つなと言っているのか…」


仁から耐えるような声て確認される。


私はコクっと頷いた。


「なるほど…」


震える声に怒っているのかと顔をあげるとそこには嬉しそうに笑う仁の顔が目の前にあった。


「王蘭は私を独り占めしたいほど好きということだな?この皇帝陛下の私を」


改めて言われると恥ずかしくなる。

ふいっと横を向くと仁に顔を掴まれた。


「大事な事だからハッキリと答えてくれ」


仁の真剣な顔に王蘭は最後だと頷き答えた。


「はい、私王蘭は仁皇帝陛下の事を愛しています」


そう言った瞬間に仁が近づき口付けをしてきた。


「ん!?」


突然の事に驚いていると顔が離れる。


「な、なにを!?」


「安心しろ、私も王蘭以外の女を抱く気はない」


「え?だ、駄目でしょ?だって仁は皇帝陛下なんだよ…跡継ぎを残さないと…」


「ああ、そのつもりだ。でもそれは王蘭と作ればいい。何人もの子を作ろう」


「へ…?はー?いや、無理無理!いきなりそんなこと…」


仁の答えに王蘭はクルッと後ろを向いた。


急な展開に王蘭は頭を抱える。


すると後ろから仁が王蘭を抱きしめた…


ビクッと反応すると耳元に仁が静かに話しかけてくる。


「嬉しい、王蘭も同じ気持ちだったなんて」


ギュッと抱きしめられて胸が高まった。


「本当にすまない…ずっと嘘をついていて」


申し訳なさそうにまた誤っている。


「そうね、騙してた事…傷ついたわ。でもそれよりもすまないって謝った時の方が傷ついた…だってもう会わないって言われるのかと思った」


「そんなわけない!でも君に合わせる顔が無くて…何か償いをさせてくれ」


「なら、必ず月に一回はデートして、あと視察に行く時はまた連れてって欲しい…女将さんにまた会いたい」


「わ、わかった…南明に何か言われそうだがどうにかしよう」


「やった!」


王蘭は思わずガッツポーズをする。


「なら私の願いも一つ聞いてくれ…」


王蘭はなんだろうと振り返ると仁がじっと見つめてきた。


「君にはこれから皇后として苦労をかけると思う…君が目指していた自由な暮らしとは程遠いかもしれない、でも不安にさせないくらい愛すると誓う…だから私のものになってくれ」


「本当ね?もし不安になったら許さないから」


腕を組んで答える王蘭を見て仁は王蘭らしいと笑った。


そして王蘭を横抱きにすると顔を近づける。


誓いのキスをするようにゆっくりと近づくと王蘭も目を閉じ、それを受け止めた。


初めてのキスに初めての彼氏がいきなり婚約者…でも幸せだった。


外で待つ人達がいるのも忘れて二人の時間を楽しんだ。


後宮の花は自由に生きます。

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後宮の花は死んで前世を思い出したので自由に生きます 三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5 @nawananasi

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