第64話新しい女官
「陛下、お待たせ致しました」
紅花は急いで陛下の元に行くと膝を付く、春もその後ろについた。
「いい、おもてをあげて立ち上がれ」
仁は話しにくいと紅花を立たせた。
「女官の手配がすんだ、今日からはこの者たちが世話をする。また何かあったら報告する様に」
淡々と言うと、紅花はキラキラとした目で陛下を見つめた。
「ありがとうございます。私の為にここまでして下さり大変嬉しゅうございます」
「こちらの過失もある、気にするな」
「はい・・・・・・」
紅花は頬を赤らめた。
「では後は詳しく事は文官達に聞くように」
陛下が下がろうとすると紅花は手を伸ばして引き止めようとするがその勇気がなく手が止まった。
「紅花様、お茶を誘ってみては?」
春が後ろからそっと声をかける。
紅花は春の言葉に頷くと声をかけた!
「へ、陛下!宜しかったらお茶でも飲んで行かれませんか!?」
「お茶?」
仁は怪訝な顔をして振り返る。
「は、はい!この春が入れたお茶は大変美味しくて、その・・・・・・」
紅花はしどろもどろになりながらも一生懸命自分なりに話をする。
仁はチラッと春を見ると、王蘭の言葉を思い出した。
『春さんが入れるお茶は本当に美味しいの!それにご飯も!特にスープ!あれは絶品よ』
確かに一度飲んでみたいと思っていた。
いい機会だから飲んで見るか・・・・・・
「わかった、一杯もらおうか?」
「え?は、はい!」
紅花はさらに頬を赤らめて花が咲くような笑顔を見せた。
「うん、確かに上手いな」
仁は春の入れてくれたお茶を飲んで頷いた。
王蘭があれだけ言うだけの事はある。
また会った時に自慢されたら飲んだと言ってみようか…
そんなことを考えていると自然と頬が緩み、気がつけば笑っていた。
紅花は陛下の穏やかに笑う口元をじっと見つめる。
「よかった…喜んでいただけて…」
陛下と紅花がのんびりとお茶を飲む姿はとても絵になり春は複雑な気持ちでそれを眺めていた。
「馳走になった」
仁はお茶を飲み終えると器を置いて席を立った。
「もう、行かれてしまいますか?」
紅花は寂しそうに陛下を見上げた。
「は?ああ、茶も飲んだしな」
仁は紅花の悲しげな表情に首を傾げながら宮を後にした。
陛下達が帰っていくと紅花はふっと肩の力が抜けて床に座り込む。
「紅花様!」
「大丈夫でしょうか!」
春が駆け寄ると女官達も心配そうに近づいてくる。
「春様、医者を呼んで来ましょうか!」
「ええ、そうね。あんな事があったばかりでまだ心労が溜まっているのかも…」
春が女官の一人に医者を頼もうとすると…
「だ、大丈夫ですから」
紅花がそれを止めた。
「しかし、倒れたとあれば王蘭様も心配しますよ。一度医者に見せた方がよろしいかと」
「いえ、これはほっとして腰が抜けちゃったんです…だから大丈夫」
紅花は恥ずかしそうに笑った。
春は驚くと苦笑して、女官達と紅花様を起こして椅子に座らせた。
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