第96話看板娘
「いらっしゃいませー!」
王蘭は女将さんに借りた前掛けをつけて元気に挨拶をした。
「あれ?こんな可愛い子を雇ったのかい?」
常連らしきおじさんが王蘭を見て目をまん丸にして驚いた。
※
仁と静は王蘭の執拗い頼みに渋々この店で手伝う事を了承した。
「ただし絶対に目立つ事はするなよ!あと、店を一歩たりとも出ては駄目だ!」
「はい!」
「それとさっきほどみたいに男に笑顔を向けるな、触らせるな!」
「触られてなんかないよ」
王蘭は心外だと頬を膨らませる。
「そういう顔もやめろ」
仁は王蘭の顔を睨みつけると後ろで静さんが吹き出した。
「わかりました…」
許して貰った手前逆らうのは良くないと王蘭は大人しく頷く。
「あとは…これを」
仁は胸元から眼鏡を取り出すと王蘭にかけた。
「まだあるんですか!?」
王蘭は次々に出てくる条件に嫌気がしてきた。
「最後だ。度は入っていない、これで少しは顔を隠せるだろ」
「別に顔を隠す必要は…」
「外すなよ」
仁は問答無用で聞く耳を持たない。
眼鏡をかけてればいいだけならまぁいいかと王蘭はしっかりと頷くと眼鏡を受け取り顔にかけた。
「では少しの間だけ妹が手伝うが…無理をさせないようによく見ておいてくれ」
仁は王蘭が眼鏡をかけるのをしっかりと確認して女将さんに声をかけた。
「大事な妹なんだろ?いいのかい、こっちは助かるけど…」
「本人がどうしてもと言うことを聞かないのだ、まぁそういうところも可愛いんだが…」
思わず本音が漏れて口を押さえる。
女将にはバッチリと聞こえてしまったが王蘭は気がついていないようだった。
「わかりました、しっかりとお預かり致します」
女将さんは笑って頭を下げた。
※
こうして王蘭は手伝うことになったのだが…料理を運ぶのはあまり上手では無かったので、注文取りを手伝う事になった。
「いらっしゃいませ!ご注文は?」
王蘭は笑顔で席に行って声をかける。
「……」
「ん?お兄さん注文は?」
王蘭はボーッと顔を眺めてくるお兄さんの肩を揺らした。
「あっ!す、すみません…えっーと何にしようかな、おすすめはあるかい?」
メニューもそっちのけでニコニコと笑いながら聞いてきた。
そこで王蘭は自分が食べた料理を紹介する。
「これは凄く美味しかったです!噛むとジュワッと汁が溢れて口の中が幸せいっぱいになります!」
食べた事を思い出し目を閉じた。
「ゴクッ!じゃあそれで!」
男は喉を鳴らすと同じ物をと注文した。
「ありがとうございます!少しお待ちくださいね」
「はーい」
男はへらっと笑い王蘭の後を追いかけるように見つめていた。
「お姉さん!こっちも注文お願いします」
「こっちが先だよ!」
「こっちも追加で頼む!」
すると次々に注文取りの声がかかった。
「はいはい、じゃあおたくらは私が聞くよ」
女将さんが近くにいた席に声をかけると、男達は渋い顔をする。
「ああ、大丈夫。お姉さんを待つから、女将さんは料理の方を運んでくれ」
男達は慌てて女将さんを下がらせた。
「全くこいつらは…」
女将さんは困ったもんだと楽しそうに注文を聞く王蘭を笑って見守っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます