第97話噂
「ここら辺で今凄くいい店があると聞いたんだが…」
噂を聞きつけて王蘭が手伝う店はいつもの倍以上に繁盛していた。
「女将さん、席は空いてるかな?」
お客さんが店を覗き込んで声をかけてくる。
「すみません!今外にお待ち頂いてる人もいるんで席が空くのはもう少し時間がかかるかもしれません」
若い可愛い声で声をかけられお客さんは目を見開く。
「どうしますか?」
首を傾げ、眉を下げられると一緒になって首が曲がってしまった。
「そ、そうなんだ。お姉さんはこの店の子?」
「はい、お手伝いさせていただいてます。それで、お待ちになりますか?」
「ああ、待たせてもらうよ!」
「はーい、じゃああちらでお待ちください」
お店の女の子に声をかけられお客さんは店の裏に回ると…
「なんだこりゃ…」
お店の裏手には王蘭目当てのお客さんが列を作って待っていた。
「女将さん、いつもこんなにお客さん来てて大変ですね」
王蘭は汗を拭って息を吐いた。
さっきからひっきりなしにお客さんが入ってきて休む暇もなく動き回っていた。
「今日は王蘭ちゃんがいるから特別なんだよ。明日からどうしようかねー王蘭ちゃんこのままうちで働いてくれないかね」
女将さんが苦笑する。
「ふふ、もし今のところを追い出されたら是非お願いしますね」
王蘭は勤め先の候補が出来てニコッと笑った。
これで後宮を出ることになってもどうにか暮らして行けるかもしれない。
注文聞きの仕事も少し慣れてきた頃になるとお昼のピークも終わり少し客足がゆっくりになってきた。
お店の席にもチラホラ空きが出てくると…
「おい、邪魔するぞ」
大柄な男が体と同じように大きな態度で店の中に入ってきた。
「あっ、王蘭ちゃんは裏に回ってて!」
女将さんは男の顔を見ると王蘭の手を掴んで裏手に引っ張った。
「は、はい」
王蘭は言われるがまま、厨房の方に隠れて女将さんと入ってきた男を見つめた。
「これはこれは#黄燕__コウエン__#様ようこそ」
女将さんは笑顔で空いてる席へと案内する。
しかし黄燕は顔を歪ませるとある席を睨みつけた。
「この私にこんな席に座れと言うのか?ちゃんと私に相応しい席を用意しろ、あのじじいを退かすんだ」
一人奥の席で食事をしていたおじいさんを指さして不快そうに見つめた。
「し、しかしあの席は今お客様が使ってまして…」
女将さんも困りながら黄燕の機嫌をうかがっていた。
「女将さん、わしはもう終わるからいいよ。若い人に譲ってやってくれ」
おじいさんは残り少なくなった器を持って席を立とうとする。
「ふん!早くしろ!」
すると黄燕はあろう事かおじいさんを押しのけて席へと座った。
おじいさんは押されてよろけながら床へと倒れ込む。
持っていた皿は当然落ちて料理をぶちまけてしまった。
「大変!」
王蘭はおじいさんに駆け寄ろうと厨房を出ようとする。
「ダメだ!」
すると中の料理人達に止められてしまった。
「あいつに関わると良くない!王蘭ちゃんはここでじっとしてるんだ。女将が上手いことあしらうから…」
声を落として様子をうかがう。
「でも…」
心配そうにおじいさんを見ていると女将さんが慌てておじいさんを立たせて料理を片付けだした。
「王さんごめんね」
女将さんは黄燕に聞こえないようにおじいさんに謝ると違う席へと案内する。
「いいんだよ、わしは帰るよ」
王さんは気にした様子もなく笑って女将さんに声をかけて店を出ようとする。
「ふん、汚いじじいは私がいる時には来るなよ!」
そう言って席にあった残りの茶碗をおじいさんに投げつけた。
「危ない!」
王蘭は黄燕の態度に頭にきてたまらずに店に飛び出した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます